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柏田道夫おすすめ 映画『花束みたいな恋をした 』を楽しむ 見どころ

映画から学べること

脚本家でもあり小説家でもあるシナリオ・センターの柏田道夫講師が、公開されている最新映画を中心に、DVDで観られる名作や話題作について、いわゆる感想レビューではなく、作劇法のポイントに焦点を当てて語ります。脚本家・演出家などクリエーター志望者は大いに参考にしてください。普通にただ観るよりも、勉強になってかつ何倍も面白く観れますよ。

-柏田道夫の「映画のここを見ろ!」その31-
『花束みたいな恋をした』恋愛ものに欠かせない共感性の作り方

今回取りあげる映画は、コロナ禍にありながらもヒットしている『花束みたいな恋をした』です。まず、「ごめんなさい」と謝ります。昨年チラシとか、予告編を観た時も、「これはパスだな」とパッケージ感だけで思っていました。

私の映画のチョイスとして(まったくもって歳とったせいが強いのですが)、ベタベタ青春恋愛映画となると、真っ先に外してしまうようになっています。特に本作も、いわゆる邦画の「青空案件」(青空をバックに恋人同士となる主人公たちがいるというポスターの恋愛もの)企画かと思い込んでいました。

ただ、唯一フックとなったのは「脚本:坂元裕二」というところ。坂元さんによる映画の脚本は珍しいし、近年の坂元脚本の連ドラ『最高の離婚』にしても『カルテット』も大好きでした。2018年の『anone』終了後に、ネットとかで「連ドラをお休みする」といったニュースを聞いて、寂しい思いをしていました。

しかも監督はこのコラムでも取りあげた『罪の声』()の土井裕伸さんで、ありきたりな恋愛ものじゃなさそうだな、と。

もうひとつごめんなさいがあって、チケットを購入する直前までこの映画のタイトルは『花束みたいな恋したい』だと思い込んでいました。そうじゃなく『恋をした』という過去形で、内容もまさに、でした。そうか恋が成就して幸せになってよかったね、という話ではなく、花束みたいな恋だったけど……というそれなりに苦いけど、せつない恋バナでした。

実は観たいなと思うに至ったネットの評判もあって、それは「『(500日)のサマー』が好きな人にはオススメ」という一言でした。

2009年のアメリカ映画ですが、ある意味画期的な構成と手法で綴られる恋愛ダイアリー映画。地味に生きる青年が、サマーという女の子と出会って別れるまでの500日の顛末を、時間軸をバラバラに交差させながら、ときめきやらせつなさやらを描いていました。

あまり詳しく述べられないのですが、恋愛映画の歴史を紐解くと、エポック的な作品があると勝手に思っています。

例えば、それまでの美男美女恋愛ものをひっくり返した『アパートの鍵貸します』とか、常識的恋愛価値観をぶっ壊した『卒業』、あるいは新しい恋愛観を印象づけた『恋人たちの予感』というように。

で今世紀になって出た『(500日)のサマー』も、恋の始まりから終わりまでと、新しい時間経過で、恋愛の角度の違いみたいなことを描いていて、今までにないエポック的映画じゃないか、と大いに共感しました。

ともあれ、『花束みたいな恋をした』でここを観てほしいというのは、坂元脚本の緻密さとか、セリフのひとつひとつとか、たくさんあるのですが、一番は「共感性」でしょうか。人物を立体的、魅力的に描くために、(共感性ならぬ)「共通性」と「憧れ性」を与えろ、と基礎講座とかで教わりますね。この「共通性」で観客視聴者とかに、「私と同じだ」と感じさせる。ただ、それだけだと平板になる恐れもあるので、「憧れ性」も与える。

この映画の二人、麦(菅田将暉)と絹(有村架純)の人物像だけでなく、出会ってからの5年間の恋の過程は、恋をしたことがある人ならば、誰でもが思い当たる共通性で徹底しています。ゆえに「共感」してしまう。

初心者の皆さんが、時折書いてくるいわゆる「等身大」のキャラクター(による恋愛とか生き方)のお話は「つまらないよ」と、つい言ってしまいます。あなたと同じような人物によるありふれた話なんて、わざわざお客さんが観たいと思う? というような意味合いで。

でもこの映画の二人は、アプローチとしてはどこにでもいそうな等身大キャラの恋愛の経緯です。でも、こんなに楽しくて、せつなくて哀しい。

実は、恋愛ものが成功するか否かは、ここに要があると思います。“楽しさ(きらめき)”“せつさな(思い)”そして“哀しさ(はかなさ)”。これがきちんと描けるならば、等身大キャラの恋愛ものでもOKなのです。

坂元さんの脚本のエッセンスを、ぜひ味わいつくして下さい。

『罪の声』の回はこちらから。

▼YouTube
東京テアトル公式チャンネル
『花束みたいな恋をした』本編映像【2人だけの新生活編】

-柏田道夫の「映画のここを見ろ!」その32-
『すばらしき世界』作者は「テーマ」をどう据えるか?

前回の『花束みたいな恋をした』から、今回も邦画ですが、まったく違うジャンルともいえる『すばらしき世界』。

独特な視点から、骨太な人間ドラマを描いてきた西川美和監督の新作です。長編デビュー作の『蛇いちご』から、出世作となった『ゆれる』以降も、自らのオリジナル脚本でメガホンをとってきた西川監督ですが、今回の新作は佐木隆三のノンフィクション的な、実在の犯罪者の出所後を追った小説『身分帳』(書かれたのは30年前)を原案としています。

4年前の前作『永い言い訳』から、西川さんは3年かけて、設定を現代に移すためにさまざまなリサーチを重ねて、脚本を作り上げていったということ。

主人公の三上正夫(役所広司)は、殺人の罪で13年の刑期を終えて出所、東京で新しい人生を送ろうとするが、反社(元ヤクザ)で犯罪者だったという経歴から、社会復帰は簡単ではない。三上の身元引受人になる弁護士夫婦(橋爪功と梶芽衣子)や、彼をドキュメンタリーのネタにしようとする元テレビマンの津乃田(仲野太賀)と、プロデューサーの吉澤(長澤まさみ)、ケースワーカーの井口(北村有起哉)、近所のスーパーの店長(六角精児)らが、それぞれの立場から関わっていく。

原作が描いていた犯罪者の社会復帰の難しさ、というテーマ性を継承しつつ、現代は施行された暴力団対策法で、構成員や足を洗ったとしてもヤクザ者への締めつけがいっそう厳しくなっていたりする。

この映画が作られたのはコロナ禍より前で、物語の中でも人物たちはマスクをしていたりしません。

それはそれとしても、本作で描かれている世の中の空気としての不寛容さだったり、増している閉塞感、ハンデや過去の傷とかを持つ人間の生き辛さといったことが、観客にグサグサと突き刺さります。

主人公の三上は、そもそもの生い立ちだったり、チンピラを経てのヤクザ者になった経緯、やむを得ずだったとしても人を殺したという事件の詳細も、次第に明らかになっていく。それらに同情の余地があるとしても、三上自身の性格はまさに直情型で、瞬間湯沸かし器的にキレて暴力を振るったりしてしまう。その危うさ満載で、途中途中が実にサスペンスフルだったりします。

そうした展開のおもしろさの妙は実際に観ていただくとして、今回本作でじっくりと感じてほしいのは、核となっている「テーマ」について。作者は自分の作品を書くために、そこで何を描くのか、という「テーマ」を据えます。据えるものです。据えなくてはいけない。

ただ、この「テーマ」というのは結構やっかいだったりします。あんまり作者が大上段に掲げたりすると、観客には重くてうっとうしくなったり、作者の主張が強すぎると反発されたりすることも。

どのくらい表に出すか、あるいは匂わせるかという加減はあるにしろ、観客を物語世界に導きながら、見終わってからしみじみと感じさせる、考えさせるというのが、作者としての「テーマ」の伝え方の理想でしょう。

本作の最大のテーマは(かなり表面から漂っていることでもありますが)、一言で表すならば「生き直す」。過去に過ちを犯した人間だったとしても、人間はそこから生まれ変わることができる。その思いや姿勢が真っ直ぐにまっとうならば、必ず助けてくれる人たちが現れる。これは西川監督のどの作品でも描かれていたことでもありました。

それだけではなく、まさに上記の現代社会の空気感であったり、弱者を救おうとしない制度の問題点といった社会性もテーマといえるかもしれません。

そうした派生はともかくとして、西川さんが3年かけてシナリオを書きあげてきた際に、揺るがない作品の「核」があって、そこからけっして外れることがなく、目標としてきたことは間違いありません。諦めずに、エンドマークまで書きあげる秘訣がここにあります。

ラストとこの作品のタイトルの意味を、皆さんはどう感じられたでしょうか?

ちなみに若干高めのパンフですが、決定稿シナリオが掲載されていて、脚本家志望者にはおいしい。見終わってじっくりと読み直しましょう。

▼YouTube
ワーナー ブラザース 公式チャンネル
映画『すばらしき世界』本予告 2021年2月11日(木・祝)公開

※前回の柏田道夫おすすめ映画の記事はこちらからご覧ください。
■その29・30
柏田道夫おすすめ 映画『ハッピー・オールド・イヤー』を楽しむ 見どころ

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