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なぜ回想を使うな というのか 

「なぜ課題では回想を使っちゃいけないの?テレビドラマや映画では沢山使われているのに…」といった疑問が、今回解消されるのではないかと思います。そして、「もし使うならこうでなくちゃ!」も分かります。
このコーナーでは、「自分にはシナリオを書く才能がないかも……」と悩んでいるかたへ、面白いシナリオが書けるようになるちょっとした“術”を、シナリオ・センター講師・浅田直亮著『いきなりドラマを面白くする シナリオ錬金術』(言視舎)&『月刊シナリオ教室(連載「シナリオ錬金術」)』よりご紹介いたします。

回想シーンって書いてはいけないの?

回想シーンって書いてはいけないんですよね?

時々そう聞かれることがあります。書いてはいけないわけではありません。回想シーンというのは、時間と空間を飛躍させることができるという特性を生かした、最も映像的な技術の一つと言えるでしょう。

ただ、基本的に回想は、「過去にこういうことがありましたよ」という事件や事情を説明するために使います。

それを回想を使わないで書いてみてください。過去の事件や事情に小道具をからめて使えないか考えてみてください。そして、セリフで伝えられないか考えてみてください。

たまに、説明セリフを書きたくないので回想を使いました、という方がいますが、逆です。説明セリフを回想シーンに置き換えただけなら、そのシーンは単なる過去の説明シーンでしかすぎません。それでは説明セリフが面白くないのと同じぐらい、面白くないシーンということです。ただ回想シーンにすることで、目先がごまかされるだけでしかありません。

むしろ回想シーンを使わず、セリフで伝えようとすると、説明セリフになっているかどうか、はっきりします。ごまかしがききません。

その説明セリフを、じゃあ、どうやったら説明セリフに感じさせないようにするか、感情のあるセリフ、情緒のあるセリフにするには、どうしたらいいか、考えてみてください。誰が誰に、どういう状況で過去のことを話すか? そのセリフを言う人物のキャラクターなら、どんな言い方になるのか? などなど考えることでセリフが上手くなります。

回想を使ってはいけないのではなく、回想を使わないことでセリフが上手くなるのです。

また、そうやって考えていくと、シーンとしても、回想を使うよりずっとずっと面白いシーンになっていくはずです。

というのが基本的な考え方ですが、今回の錬金術は、あえて回想の面白い使い方の話をしたいと思います。それは、過去の事情や事件の説明ではなく使うのです。

みなさんは扇子を、どう使いますか? あおいで自分の顔に風を当て暑さを和らげる、それが普通の使い方ですよね。でも、茶道などでは掛け軸を飾る時や月謝を渡す時などに使うそうです。落語でも面白い使い方をしているのは、ご存知だと思います。煙管に見立てて煙草を吸ったり、箸に見立てて蕎麦を食べたり、ちょっと広げて算盤に見立てたり。

そんな普通の使い方とはちょっと違う、面白い回想の使い方を紹介します。
題して、扇子で蕎麦を食うの術!

回想シーンの基本的な使い方

まず回想シーンを使う時の基本的な注意点を。

何よりも一番気をつけてほしいのが、そのシーンが回想であるということが、映像になった時に分かるかどうかです。

みなさんの20枚シナリオやコンクールの応募作で、これって映像になった時に回想だと分からないんじゃない? と思うことが本当に、びっくりするぐらい多いのです。シナリオでは柱に回想、と書いてあるので、それで伝わっていると勘違いしてしまうのでしょう。

でも映像では、当たり前ですが、画面に「このシーンは回想です」などと表示されるわけではありませんし、ちょっと昔は回想シーンになると、白黒になったりセピアカラーになったり画面の外側をモヤモヤとぼかしたりといった方法が使われることもありましたが(今でも、まったく使われないわけではありませんが)、今は現在のシーンも回想シーンも同じカラーの映像になります。

それでも観客や視聴者に回想シーンであることが、はっきり分かるかどうか、注意してみてください。

次に気をつけてほしいのは、たとえば20代の女性の5歳の時の回想シーンを描くとして、回想に出てくる5歳の女の子が、20代の女性と同一人物であることを分かりやすくしてください。これもシナリオではト書に名前を書いているので、同じ名前であれば同一人物になるのですが、映像になった時に、それだけでは伝わりません。名前を呼ばせる、同じ癖や傷痕や小道具を持たせるなどなど工夫してください。

逆に、2~3年前の回想シーンで同じ俳優さんが演じる場合は、どこからが回想シーンで、どこで現在のシーンに戻ったかが分かりにくくなるので気をつけてください。

映画『山の郵便配達』の回想シーン

こう考えると回想シーンって、みなさんが思っている以上に実は面倒臭いものでしょ?同じ面倒臭い思いをするならば、過去の事件や事情を説明するだけの使い方でなく、もっと面白い使い方をしたいと思いませんか?そんな面白い使い方の例を観てみましょう。

まずは『山の郵便配達』という中国映画。

1980年代、湖南省西部の山岳地帯が舞台です。主人公が父親の跡を継いで初めて郵便配達をするのですが、郵便配達といっても、山奥の険しい道を3日間歩き続けて点在する村を廻り、郵便物を配り集めるという激務です。父親は足を痛め、もう激務に耐えられなくなってきているのです。初めて郵便配達をする主人公と、最後の郵便配達をする父親と、次男坊と呼ばれる犬の、3日間の旅を描いています。

3日間の郵便配達を終えて家に帰ってくると、翌朝には、また3日間の郵便配達に出かけなければなりません。そのため父親は、ほとんど家にいたことがなく、主人公は父さんと呼んだことがありません。しかし、3日間の旅で2人は反発もしつつ、距離を縮めていきます。

終盤、渓流を渡るシーンがあります。もちろん橋なんてありません。郵便物の入った重いリュックを濡れないように頭にのせて川の中を歩いて渡るのです。川の水は、きわめて冷たく、そのために父親は足を痛めたのです。主人公は父親に、岸で待っていろといい、まず郵便物を対岸まで運ぶと、戻って来て父親を背負い川を渡ります。

その時、父親の回想シーンが入ります。祭りの日、まだ幼かった息子を肩車して歩いているシーンです。そして、息子に背負われた父親は静かに涙を流します。実にさりげない回想シーンですが、泣けるシーンです。

こんなエピソードがあります。この回想シーンの話を基礎講座でした後、受講生の方が自分も最近『山の郵便配達』を地元の市民映画会で観ましたと話しかけてきました。隣に初老のご夫婦が座っていたらしいのですが、この回想シーンで旦那さんの方が声を上げて号泣し始めたのだそうです。会場中の人が、その旦那さんに注目し、もう映画どころではなくなって困りました、と。

でも、それぐらい観客や視聴者を感動させる回想シーンが描ければ、回想シーン冥利(?)に尽きると思います。

『レミーのおいしいレストラン』の回想

もう一つ『レミーのおいしいレストラン』というディズニー&ピクサーのアニメ映画を例にあげたいと思います。

主人公はレミーというネズミです。誰も作れない美味しい料理をつくることができる舌と腕を持っています。でも、ネズミなのでレストランの厨房で働くわけにはいきません。

そこでリングイニという青年のコック帽の中に隠れ、髪の毛を引っ張ってリングイニを操縦し料理を作り始めます。その料理が話題となり落ち目だったレストランの人気を盛り返しますが……。

映画のクライマックス、レミーとリングイニは料理評論家のイーゴと対決します。「私に食べさせたいと思うものを持って来なさい」とオーダーするイーゴに対して、レミーが作ったのはラタトューユという料理です。ラタトューユというのはフランスの家庭料理だそうです。日本でいうと肉ジャガみたいな感じなんでしょうか。

イーゴは料理を食べる時、つねに片手にペンを持ちメモをしながら食べています。ところが、レミーのラタトューユを一口食べたとたん、持っていたペンを思わず落としてしまいます。

そして、回想シーンになるのです。イーゴの少年時代です。夕暮れ。家に帰って来たイーゴ少年を待っていたのは母親が作ってくれたラタトューユです。一口食べるとイーゴ少年は幸せな気持ちに包まれるのです。

この回想シーンも、過去の事情や事件を説明するために使われているわけではありません。その時、イーゴが、どんな気持ちになったのか、人物の心情を伝えるために使われています。

みなさんも、もし回想シーンを使うなら、ただ過去の事件や事情を説明するのではなく、観客や視聴者が感動するような面白い使い方をしてみてください。

出典:『月刊シナリオ教室』(2010年5月号)掲載の「シナリオ錬金術/浅田直亮」より
次回は4月17日に更新予定です

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