==「取り上げたい題材について、取材ってしたほうがいいのかな?」という方、その答えが今回の記事にありますよ==
5/7 (金)から全国公開される映画『大綱引の恋』。昨年急逝された佐々部清監督の最新作でありラストストーリー。脚本は出身ライターの篠原髙志さん。まずは「あらすじ」から。
【あらすじ】
有馬武志(三浦貴大)は35歳にして奥手の独身。鳶の親方であり“大綱引”の師匠でもある父・寛志(西田聖志郎)から常々「早う嫁を貰うて、しっかりとした跡継ぎになれ」とうるさく言われている。とある日、ふとした事件から韓国人女性研修医ジヒョン(知英)と出会い、次第に心を通わせるようになる。その頃、有馬家では母・文子(石野真子)が定年退職を宣言し女将も家事も放棄したため、妹・敦子(比嘉愛未)をはじめ家族の皆が四苦八苦する。一方、年に一度の一大行事“大綱引”が迫るなか、武志はジヒョンから「あと2週間で帰国するの」と告げられる――
“大綱引” とは、鹿児島県薩摩川内市に420年続く “川内大綱引(せんだいおおつなひき)” のこと。
川内大綱引保存会のサイトには、<慶長年間(1596~1614年)に始まったとされ、一説には関が原の合戦の際、第17代島津義弘が兵士の士気を高めるために始めたと言われています。また綱引そのものは隣国韓国にそのルーツがあるとされ、これをいわゆる青少年教育である郷中教育(子弟制度)の中に取り入れつつ継承されてきたものであるという説もあります。以来、大綱引は川内の人々の心に強く根付き、中秋の名物として受け継がれてきました>とあります。
一般的な綱引きとは異なり、ルールも独特。上方(赤)と下方(白)に分かれ、それぞれ大きく4つの部隊「太鼓隊」「引き隊」「押し隊」「ワサ係・ワサ払い」で構成。なお、「ワサ」とは綱の最後尾にある「輪」で、綱が相手から引かれ形勢不利となった際に、それ以上引かれないようにワサを中央の位置に埋め込まれた「ダン木」と呼ばれる木にかけるのだそうです。
こういった歴史ある川内大綱引を軸に、どうやって物語を構築していったのか、篠原さんにお聞きしました。「脚本を書くときの情報集めはネット検索のみ」という方は特に参考にしてください。
取材の成果によって脚本の“方針”を決定
Q 主人公・有馬武志の恋愛や、彼の家族の姿を描く上で、どんなことを特に気を付けましたか?
〇篠原さん:「照れ」と「意地」です。特に一般の男の親子の間には「照れ」と「意地」があると思います。つまり、セリフや動きをストレートにしない。見ていてもどかしいという描き方をしようと。
有馬親子について、幼馴染みのテンコにセリフで「ああ、面倒くさい」を連呼させているのは、有馬親子の「照れ」と「意地」の関係を外部の意見として表したつもりです。
Q 大綱引シーンは圧巻でした。どのようなことを意識されて脚本を書いたのですか?
〇篠原さん:実際に観た、1500名対1500名の「川内大綱引」本番の大迫力は、絶対クライマックスにしたいと思いました。
それだけではなく、取材の成果によって「三役(※)決定」から「上方・下方三役+幹部」による「リクルート(メンバー集め)と挨拶回り」、10日前からの上方・下方それぞれの「本部設営」とそこでの毎晩の親睦と作戦会議、当日も早朝からの自衛隊や大勢の市民たちによる綱練り(大綱を作る)、ダン木祭という神事、川内の人達の「大綱引」への人生を賭けているかのような強い思いを丁寧に描くという方針を決めました。
「大綱引」本番は役者さんを入れてどう撮るかは、ホンヤの私では判断できないので、監督やプロデューサーと話しながら、観ている側と大きな流れについては脚本を作りましたが、勝負はまさに佐々部清マジックで、ロケハンの時の実景撮影+本番の祭り(台風直撃で大変でしたが)+数日後のエキストラによる撮影を編集して見事に表現していただきました。
※三役:上方・下方それぞれにおいて統率を取る中心的な役割を担った「一番太鼓」「大将」「押大将」のこと。その年の“花形”と言える、一生に一度しかできない名誉ある役職。
その他、「川内大綱引のルール」はこちらをご覧ください。
Q 今回の取材を通して、「これは勉強になった!」ということはありましたか?
〇篠原さん:皆さんの「大綱引」への強い思い、三役、特に一番太鼓への誇りは勉強になりました。親子二代の一番太鼓という栄誉は町に語り継がれるものだということ。これをちゃんと表現しないと「この映画は意味がない」と思いました。多くの取り上げたいエピソードを聴くことができて幸せでした。
取材は大切です。それとは別にこの祭りは自衛隊がいないと成り立たない。自衛隊をちゃんと好印象に描きたい。そう思って、テンコという女性自衛官のキャラクターを設定しました。
Q 佐々部清監督と「ここはブレないようにしよう」など、“共通意識”としたことはありますか?
〇篠原さん:「大綱引」をその前段階(三役選出)から丁寧に描くということです。勿論、三役に選ばれることの誇りなども。それと、親子の関係についてもちゃんと描こうと。
もう一つの柱の「結婚」つまりは、「恋愛」について。武志とジヒョンの恋愛関係は僕としては苦手で、結構、悩みました。佐々部監督は『チルソクの夏』という映画史に残る名作を描いているので。「日韓の恋、そして壁(困難)というと観客はそれを意識してしまうし、超えられない」と。
だから当初、そこから少し逃げて、テンコという幼馴染みの自衛官を作って思い入れ強く描いたのですが、佐々部監督に「テンコいいよね」と。監督一推し(?)の松本若菜さんをキャスティングしていただきまして、結果、武志とテンコの関係があって、ジヒョンが引き立つように描けたと思います。
ちなみに、典子をテンコと呼ぶのは僕の子供の頃に子供番組中心に活躍していた大好きな脚本家の一人、佐々木守さんのオマージュです(同じく、大綱引で武志の敵方の花形・一番太鼓を務める福元弦太郎の「弦太郎」という名前も)。
Q今回の映画だけでなく、脚本を書く際、いつも心掛けていることは何ですか?
シナリオ・センターの“後輩”へのアドバイスにもなるかと思いますので是非教えてください。
〇篠原さん:今回、よくできたかわかりませんが、人物の深掘りをするということです。人物にリアリティがないと、ドラマ全体がダメになる。極端に言うとストーリーありきの人物でなく、人物ありきのストーリーであると僕は思っています。
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いかがでしたか?「やっぱり取材って大切なんだな」と実感されたのでは?
今回ご紹介したことの他にも、色々なお話をお聞きしております。その模様を『月刊シナリオ教室2021年6月号』(5月末発行)に掲載しますので、併せてご覧ください。
※シナリオ・センター出身の脚本家・小説家・映画監督の方々のコメントを掲載『脚本家・小説家コメント記事一覧/脚本や小説を書くとは』はこちらからご覧ください。