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しゃれおつなお店や人々が行きかう街、表参道。そこで働くシナリオ・センタースタッフの見たもの触れたものをご紹介します。

函館港イルミナシオン映画祭第24回シナリオ大賞受賞者に聞く
受賞作を書いたきっかけ

函館港イルミナシオン映画祭 第24回シナリオ大賞。
大賞は石村えりこさん(元作家集団)の『JOE(ジョー)-千里を馳(は)す-』が、佳作は桜田ゆう菜さん(作家集団)の『バトル・キュイジーヌ』と、和田暁知さん(通信研修科修了)の『チャンピオンのミット』が受賞。

同コンクールは、函館の街から映画およびその人材を発掘・発信が目的のため、テーマはもちろん、「函館(その近郊を含む)」。

受賞作は、舞台は同じでも、内容は三者三様。どんなふうに函館を描いたのか、気になりますよね?

そこで今回は、受賞者の皆さんにお聞きした「受賞作を書いたキッカケや気をつけたこと」をご紹介。「こういうことがキッカケで生まれたのか!」「こういう視点で考えたのか!」と発見することが沢山あるかと思います。次回応募される方は、ぜひ参考にしてください。

石村えりこさん
函館市長賞(グランプリ)『JOE(ジョー)-千里を馳(は)す-』

=あらすじ=
元治元年(1864)初夏。安中藩士・新島七五三太は、名高い武田斐三郎の塾に入るべく、江戸から箱館へやってくる。しかし、武田はすでに江戸へ去った後で、塾は閉鎖と決まっていた。落ち込む新島に、武田塾の塾頭・菅沼精一郎は、ロシア領事館付の司祭・ニコライを紹介する。新島はニコライの日本語教師として領事館に住み込むこととなる――

〇石村さん:とにかく、明るく前向きな作品を目指しました。コロナ禍で、理不尽な差別や中傷も聞かれましたから、人の誠実さを信じられるような作品にしたかったのです。

昨年の春先に、北海道大学名誉教授の小野有五先生から、新島襄が箱館港から密航する際のエピソードを教えていただいたのがきっかけです。とても面白くて、ぜひシナリオにしたいと思いました。

また、函館の映画祭ですから、函館でしか成立しえない話を書いて、函館の皆さんに喜んでもらいたいと思ったのです。

新島さんはご自分の密航について、日記や手紙、回想録などを残しています。もうそれで十分なくらいでしたが、その他、新島さんに関する本は、可能な限り図書館で借りました。

基本的な書き方は現代劇と同じです。まずハコ書きを作り、歴史ものの場合は、何月何日単位での年表も必ず作ります。

今回の作品は、元治元年(1864)の箱館が舞台です。嘉永7年(1854)に日米和親条約が締結され、下田と箱館の2港が開港したことをきっかけに、箱館は独自の発展を遂げてきました。

実は、新島さんが渡航するほんの数日前には、京都で池田屋事件が起きています。でも、幕末動乱の波はまだ箱館にまでは達していないのです。こうした社会背景、箱館の特異性を念頭に置きながら書きました。

劇中には元土佐藩士が登場しますが、私は土佐弁がまったくわからなくて。そこで、坂本龍馬が登場する映像作品を見ながら、彼のセリフをわーっと書き出し、気になる言い回しをチェックしたり、簡単な対象表を作ったりして、何とかそれらしく仕上げました。

セリフというのは、まさに言霊。私は、初めて自分の作品が舞台化されて、役者さんがセリフを口にしてくれた時の感動を忘れられません。セリフを書く時は、一言一句おろそかにしてはいけないと肝に銘じています。

桜田ゆう菜さん
佳作『バトル・キュイジーヌ』

=あらすじ=
函館市立渋皮高校調理部部長の緑川果林は、イライラが止まらない。同じく函館の聖ソレイユ女学院クッキングクラブ部長・万願寺鮎香が、ネットを活用し、函館の食材と料理を紹介。大人気を博しているからだ。非日常の感動を伝える料理を提唱する聖ソレイユ女学院と、函館の食材で健康になる料理を提唱する渋皮高校。どちらも函館の料理で、人を幸せにしたいという思いは同じだが、考え方の違いから常に対立している。そんなある日、鮎香を貶める記事が週刊誌に書かれる――

〇桜田さん:今回の作品は、20枚シナリオをベースに書き上げました。2つの高校料理部が、アクロバティックな調理技術で相手を攻撃しながら、料理の腕を競う話です。

せっかく2校を対決させるのだから、料理をする目的を真反対に設定すれば、よりドラマに厚みがでるのではと思い、一方は感動する豪華な料理、もう一方は体にいい健康的な料理こそが、料理の神髄だと考えていることにしました。

これによって、お互いの料理理念が真逆になり、自然と対立がうまれて、両校の部長のキャラクターがはっきりしました。けれど、それ以外の部員達の書き分けは、本当に難しかった。

実は20枚シナリオの時の登場人物は、全員女子高生。料理アクションシーンを作るだけで精一杯で、わかってはいたものの、キャラクターの書き分けができませんでした。これについては先生からも指摘を受けています。

なので今回の作品では、頭の中でまず見た目によるキャラクターの違いを描いて、それぞれの特技や傾向を考えるようにしました。とはいえ書き上げた今でも、修正の余地はまだまだあるなと思っています。

和田暁知さん
佳作『チャンピオンのミット』

=あらすじ=
かつてエディ・タウンゼント賞(最優秀トレーナー賞)を受賞した事もある日本有数のボクシングトレーナーである三浦治夫(64)は、現在は妻と一緒に函館で農業を行っていた。ある時、農作物を道の駅に納品に行く途中、ロードワークをするプロボクサー・川崎直人(35)とすれ違う。その後、毎日のようにすれ違ううちに、常にひたむきな姿が気に入った三浦は、ある時パンチの打ち方をアドバイスする――

〇和田さん:プロボクシングの試合では、ごくまれにではあるが、不運にもリング禍が起こってしまう事がある。お亡くなりになった選手のご家族の悲しみは筆舌に尽くし難いものがあるだろうが、それまで二人三脚でやってきたトレーナーの絶望感も相当なものであろうと想像する。

セコンドについたトレーナーは、タオルを投げる事で試合を棄権する意思を示す事が出来る。昔ボクシングの関係者に「トレーナーの最も大事な仕事は、選手を無事にご家族の元に帰す事だ」と聞いた事があるが、トレーナーは選手の命を預かっているのだ。

ではその時、何故選手がグロッキーな状態になってもトレーナーはタオルを投げる事が出来なかったのか。それは、トレーナーは選手の人生をも預かっているからだ。

選手達はチャンピオンになる為に過酷な減量やハードな練習に耐え、人生の全てを懸けて試合に挑むのである。つまり、タオルを投げるという事は選手の人生を奪うという事にもなりかねないのだ。

ボクシングというものが、どんなに劣勢な状況でも1発のパンチで大逆転の可能性もあるスポーツであるが故に、タオルを投げるのか、もう少し我慢して様子を見るのか、そこには究極の葛藤が存在すると考える。

それが、この作品を描きたいと思ったキッカケです。

*     *     *     *     *

なお、『月刊シナリオ教室』の2021年4月号・5月号に、受賞の言葉と受賞作のシナリオが掲載されていますので併せてご覧ください。

また、前回第23回も出身生の方が受賞されています。こちらの記事「函館港イルミナシオン映画祭第23回シナリオ大賞で準グランプリ受賞 村口知巳さん」もお読みください。

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