疑問のほとんどが、シナリオの書き方を知ることで解消
先日、横浜市立 牛久保小学校6年生の皆さんに向けてキッズシナリオを実施しました。
担任の権正先生によると、iPadを使って子どもたち自身で映像作品を撮ってみたけれど、出来上がった作品を見て、「この作品のメッセージって何だろう……」「何を伝えたかったんだろう……」となり、「シナリオって大切なんだ」ということを実感されたのだそう。そこで、シナリオ・センターに連絡してくださり、今回の実施に至りました。
生徒さんからは事前に、「こういうことを教えてください」というお電話もいただきました。皆さんが知りたいのはこちらの7項目。
・シナリオの書き方
・映画づくりの基本(作業の順番・機材・制作する上で大切なこと)
・役割分担(向き・不向き)
・演じ方
・カメラワーク
・編集の仕方
・上映の方法
「上記の疑問を解消して、より面白い映像を作れるようになりたい!」という皆さんの想いに応えるべく、カリキュラムを考えました。
実は、皆さんが知りたいこれらの疑問のほとんどが、シナリオの書き方を知ることで解消できます。映画作りで大切なことも、演じ方も、カメラワークも、編集の仕方も、シナリオに関係しています。
それはどういうことか。当日の模様をご紹介いたします。
映画作りの基本として大切な「シナリオ」
*
今回は田中が担当。まずは、企画から公開までの作業の順番・役割分担(向き・不向き)・機材についてご紹介。
そして次に、映画作りの基本をご紹介。
〇田中:映画作りの基本として大切にしたいこと。それは「シナリオ」です。
プロの世界でも「どんな映画にするか」「どのように描くか」と考えて、シナリオが完成するまで何年もかかったりします。よく映画の宣伝で「構想10年!」とか聞いたことありませんか?これは、シナリオに10年かかったということなんですよ。
〇皆さん:え―――!?
〇田中: すごいですよね!それぐらい、シナリオは大切なんです。そして、シナリオをしっかり描くことで、演じ方もどうすればいいか分かるし、カメラワークもバージョンアップできるし、編集の仕方も変わってきます。
つまり、皆さんが知りたいことのほとんどがシナリオ作りに関係しているんですよ。では早速、シナリオの書き方についてやっていきましょう!
シナリオを書くときも演じるときも大事なキャラクター
最初に取り掛かったのは「キャラクター発想」。
登場人物のキャラクターをしっかり設定すると、作品がより面白くなります。それを実感してもらうため、青山ひかる(12)と赤木あきら(12)という架空の名前から、「得意なこと」「苦手なこと」「口癖」「性格」など、どんなキャラクターか考えていただきます。
次々とたくさん手が挙がります。色々なアイデアがでました。
その後、青山ひかると赤木あきらが登場するシナリオを作成してもらいます。配布するプリントに、セリフやト書(言い方・どう動くか・しぐさ・表情)を書いていきます。
こちらの生徒さんは一番に書き上げ、田中に見せてくれています。
やはり皆さん、「シナリオをちゃんと書けるようになりたい」という想いが強いので、ものすごい集中力。あっという間に、シナリオ完成。
〇田中:いま回りながら見せていただきましたが、ひかるとあきらのキャラクターが出たシナリオがきちんと書けていますね。すごいです!
キャラクターをきちんと設定すると、「この人物だったらこういうとき、何ていうかな?どんなことをするかな?」と想像できますよね?
これは演じる時も同じ。「こういうキャラクターだ」と分かっていれば、「こうやってセリフを言ったり、動けば、この人らしい!」と、役作りもしやすいですよね。
皆さん、「あ、そうか」と納得。
〇田中:では次に、カメラワークについてご紹介します。これも勿論、シナリオの書き方に関係していますよ。
映像をイメージして書くことで、カメラワークも編集もより良いものに
キッズシナリオの冒頭、皆さんが撮った作品の1つを拝見しました。
怪我をした仲間を保健室に連れて行くという内容で、「大丈夫か!」と呼びかけながら、2人がかりで怪我人を運んでいきます。
〇田中:迫真の演技も素晴らしいし、「この後どうなっちゃうんだろう」と引き込まれました。このままでもステキなのですが、もっと面白くするために意識してもらいたいのが「枠」です。
皆さん、「枠?」という反応。
〇田中:これがカメラワークのコツになります。枠は大まかに3種類。(図の左から)ロング・バスト・アップといいます。
皆さんに協力してもらい、3つの枠を実際に撮ってみました。
例として、「田中の目から涙がポロリとこぼれる」というト書を映像にしてもらいます。分かりやすいように、黄色いフセンを“涙”の代わりにしました。
まずはロング。残念ながら、“涙”はよく見えないですね。
次はバスト。“涙”はなんとなく見えますが、本物の涙だとしたらよく分かりません。
最後にアップ。
“ドアップ”で撮ってもらいました↓
これなら、この“涙”でも、本当の涙でも、良く見えますね。
〇田中:こんな感じで、撮影するときはこの“3つの枠”を意識してみてください。ポイントは観客に何を見てもらいたいか。
例えば、先ほど見せてもらった 皆さんが撮った映像で言えば、保健室へ怪我人を連れていくところは全体を見せたいのでロング。
「大丈夫か!」と怪我人に呼びかけるところ、怪我人の“表情”に注目してほしいのでアップ。
怪我人と運んでいる人の両方を見せたいときはバスト。
こういった感じで撮ると、色々なカットが出来るので、画面が切り替わりながら、テンポよく展開できます。
皆さん、「そうか!」と頷いております。
〇田中:シナリオを書くときも、この3つの枠を意識してみる。すると、「こういう映像にしたい」という書き手のイメージが、撮影する人に伝わります。
また、撮影した後の「編集」を担当する人にもイメージが伝わるので編集しやすくなります。
だから、シナリオって大事なんです。
皆さん、うんうんと頷いたり、メモを取ったり。シナリオの大切さをより実感した模様です。
それでは最後に、3つの枠を意識した絵コンテを描いていただきます。
シナリオをもとに絵コンテを描いてみる
こんなト書きがあるとします。
机にフセンが貼られている。
フセンに気づく太郎。
太郎、フセンを手にとる。
フセンに『X・Y・Z』と書いてある。
〇田中:このト書をどんな映像にするか。このプリントにある4つのコマに絵を描いてみてください。つまり、「絵コンテ」を作ってもらいます。さきほどの3つの枠を意識してくださいね。
皆さんが描いていると突然、「あ!」という権正先生の驚く声が!
田中が近づいてみると、どうやらト書と少し違う絵コンテを描いたようです。
〇田中:最後のカットをフセンではなく、太郎の顔のアップにしてみたんですね。
〇生徒さん:はい!驚いている太郎を描いてみました。
〇田中:プロの現場でも、こうやって変わることがあります。「このシナリオをもとにどう撮れば、より面白い作品になるか」と考えていきますからね。だから、全然いけないことではないんですよ。
生徒さんも周りのお友達も楽しそうに笑っています。こんな風に、みんなでワイワイと楽しめるのがシナリオ&映像作りです。
あっという間に時間が過ぎ、キッズシナリオは無事終了。
〇田中:今回ご紹介したシナリオの書き方や3つの枠、そして絵コンテを、これから作る映像に活かしていただければと思います。こどもを対象にした映画祭など、コンクールもいろいろありますので、ぜひ挑戦してみてください!
* * *
現在、多くの学校でiPadが導入・配布されています。それによって、映像作りがより身近になったと思います。牛久保小学校6年生の皆さんのように「撮ってみたけど、ちょっと……」とお困りの方は、今回ご紹介したやり方を活用してみてください。
※今回ご紹介したキッズシナリオの「その後」についても併せてご覧ください。
「小学生が動画を作るときの進め方/事前に“段取り”を決める」
シナリオ・センターではいろいろな学校でキッズシナリオを実施しています
■新渡戸文化小学校 デジタルクリエーションクラブ
・@ 新渡戸文化小学校 デジタルクリエーションクラブ/①キャラクターの作り方
・@デジタルクリエーションクラブ/②目に見えない 気持ちを映像で表す
・@デジタルクリエーションクラブ/③ ロング バスト アップ を意識
■谷中小学校 放課後子供教室
・短時間でも映像は作れる!/子どもがのびのびと自己表現できる場
※「谷中小学校放課後子供教室ブログ」でもご紹介いただいております。こちらからご覧ください。