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しゃれおつなお店や人々が行きかう街、表参道。そこで働くシナリオ・センタースタッフの見たもの触れたものをご紹介します。

柏田道夫おすすめ 映画『 1秒先の彼女 』を楽しむ 見どころ

映画から学べること

脚本家でもあり小説家でもあるシナリオ・センターの柏田道夫講師が、公開されている最新映画を中心に、DVDで観られる名作や話題作について、いわゆる感想レビューではなく、作劇法のポイントに焦点を当てて語ります。脚本家・演出家などクリエーター志望者は大いに参考にしてください。普通にただ観るよりも、勉強になってかつ何倍も面白く観れますよ。

-柏田道夫の「映画のここを見ろ!」その39-
『1秒先の彼女』キャラクターを突出させれば、ストーリーが生まれる

このコラムでは初めて取りあげる台湾映画です。

かつては『非情城市』や『恋恋風塵』のホウ・シャオシェンや、『台北ストーリー』のエドワード・ヤン、『恋人たちの食卓』のアン・リーといったビッグネームの創り手たちがいて、独特の味わいを出していました。

この『1秒先の彼女』のチェン・ユーシュン監督も、90年代後半に『ラブゴーゴー』などで新鋭登場!と評判になっていたのですが、その後映画製作から離れて、しばらくぶりに「復活!」を遂げたのが本作です。

本作もまさにですが、台湾映画に共通しているのは「懐かしさ」だと思います。画面の風景が(我々日本人に)郷愁を感じさせてくれる。風景だけでなく、登場人物たちが皆、隣人に思える。親しみを感じさせてくれる。特に初々しく真っ直ぐな若者たちの恋愛物こそ、台湾映画一番の売りです。

さて『1秒先の彼女』ですが、ただの恋愛物ではなく、幾分(それなりに)ファンジー要素が加味されています。それも「時間」、いわゆる「タイムワープ」的な造りとなっています。

こうした男女の恋模様が、時空を越える(ズレる?)といった名作恋愛物は、たくさん思い出されます。『ある日どこかで』『バタフライ・エフェクト』『エターナル・サンシャイン』『アバウト・タイム』、あ、大林宣彦監督の『転校生』とか、アニメの『君の名は。』もそうですね。

そうした中で本作は、新たな(つまり今までになかった)アイデアに満ちた恋愛タイムワープ物として刻まれる名作です。

主人公は、恋には縁遠いアラサー郵便局員のシャオチー(リー・ペイユー)。トップシーンは、何故か日焼けしたシャオチーが、警察署に遺失物の届けをしに来る。無くしたのは「(バレンタインデーの)昨日の一日」。

この映画の原題は『My Missing Valentine』なのですが、何でも台湾は2月だけでなく、7月七夕の日も恋人たちのバレンタインデーなのだとか。

ともあれ、シャオチーは新しく出会って恋に発展しそうなイケメン男と過ごすはずだったバレンタインデーの日曜日が消えてしまって、起きたら月曜日で、しかも何故か身に覚えのない日焼けをしていた。

そこからデートの約束をしたイケメン男ではなく、いつも彼女の窓口に切手を買いにくる、テンポのずれたグアタイ(リウ・グァンティン)が関わっているらしいと分かって……

という絶妙なストーリー展開は、映画を観ていただくとして、今回「ここを観ろ!」は、主演二人、シャオチーとグアタイのキャラクター造型、個性の際立たせ方です。

なにはともあれ「キャラクター!」と、皆さんは耳タコ状態で言われているはず。「共通性」と「憧れ性」だの、「魅力を与えろ」「履歴を作れ」とか、いろいろと人物造型のポイントなどは教わっているけど、いまひとつ自分の作品の人物となるとパッとしない……どうすればいいのだろう?

そうした悩みを解消するヒントとして、この映画の二人は、どこにでもいそうな人物ながら、両極端の際立った個性を一点ずつ与えています。

シャオチーは幼い頃から、何でも「ワンテンポ早い」。合唱をすると人より先を歌ってしまうし、映画館でも人より早く笑う。

対するグアタイは、人より「ワンテンポ遅い」。徒競走でも合図から間があってスタートするし、映画館では観客が笑った後で遅れて笑う。

映画の前半部分は、常にワンテンポ速いシャオチーの日常がユーモラスに描かれるのですが、彼女のなんと愛おしくキュートなことか!(演じているリー・ペイユーも素晴らしい)。でも失踪した父のことも傷となっていたりする。

後半からはテンポの遅いグアタイ視点になるのですが、タイムワープもその彼の性格ゆえだったと分かってきます。つまり、この映画のアイデアは、二人の正反対の性格、キャラクターの差から物語の展開やテーマまでも拡げていったのだと推測できるのです。

邦題の「1秒先の彼女」と「1秒後の彼」だと、もしかしたら永遠にすれ違いのままかもしれない。でもだからこそ、二人を一致させるとしたら?

ストーリーとキャラクターは相関関係です。そこから展開としての各場面が生まれる。その積み重ねが物語になるのです。

素晴らしいラストの余韻を噛みしめつつ、人物造型の大切さに注目です。

YouTube
シネマトゥデイ
映画『1秒先の彼女』予告編

-柏田道夫の「映画のここを見ろ!」その40-
『竜とそばかすの姫』アニメであっても欠かせない「ドラマ性」とは

今や日本のみならず、世界のアニメーションを牽引する細田守監督の新作です。このコラムでは初めて取りあげるアニメーション映画ですね。CGを駆使した実写映画はもとより、アニメの表現、技術の進化も想像を超えていて、さまざまな新作を観るたびに驚嘆しきりです。

センターの受講者も、ずいぶんと前から増え続けているのが「アニメの脚本を書きたい」という動機の方々。アニメのシナリオも基本は同じ。書式やキャラクターの造型、ドラマ性など。ただ、アニメーターに絵コンテを描いてもらったりする必要性から、より詳し目にト書を指定したりして、枚数が2~3割多くなることもあります。

細田監督作品では、その名を一気にメジャーにした『時をかける少女』や『サマーウォーズ』の脚本は奥寺佐渡子さんで、『おおかみこどもの雨と雪』(公開時に監督に講演に来ていただきました)は奥寺さんと細田監督の共同脚本。『バケモノの子』や本作は細田守監督・脚本となっています。

さて、今回の「ここを見ろ!」で、じっくりと見てほしいのが“ドラマを描く”という、まさにシナリオの基本、一番大切なところです。『竜とそばかすの姫』は、冒頭から展開するネットの仮想空間〈U〉の、音と映像のめくるめくヴィジアル性で、一気に観客の心を鷲掴みにします。

アニメ表現の新たな可能性をさらに拡げる細田ワールド極まれりですが、その対比として、主人公のすずが生活している現実の過疎村(高知県の片田舎を想定)の風景の美しさとリアルさ。すずが喪失感を抱えたままで朝起きて、廃線予告の貼り紙の路線バスに乗り、乗客も少ない電車で通学する。この場面だけで涙が出来そうになります。

そうした構造なり、映像表現の素晴らしさは驚嘆なのですが、観客を感動に導く要因こそが、まさにすずを巡る“ドラマ性”なのです。

ところで、受講生の皆さんのアイデアでたびたび出会うのが、現実で地味な生活、キャラの主人公が、バーチャルなネット世界で活躍する、というもの。まさに細田作品に多い設定でもあります。

ただ、皆さんの作品や企画の場合、人物がずっとパソコンに向かっている場面ばかりだったりで、映像としての展開が具体的に見えてこなかったりする。それ以上に、その(いわばありふれている)設定で、おもしろさ、感動させられるかは、主人公の魅力、変化、成長が描き込まれているか? なのです。

「ドラマって何?」という命題は、基礎講座やゼミなどでも繰り返し問われます。「対立・葛藤・相克」とか解説されたりしますね。加えて、作品の「テーマ」とか「キャラクター」、さらにはどうストーリーを運ぶかという「構成」とも関連したりします。

じゃあどうすればドラマが描けるかというと、よく分からなかったりする。そりゃそうで、こうすれば描ける、という単純なものではなく、それらが複合的に機能することで、ようやく作品として結実するのです。

『竜とそばかすの姫』で、創り手が伝えたいテーマはひとつではないでしょう。現実とネット世界の未来だったり、反面ネットの悪意や危うさ、人と人(親と子)との繋がり、思春期のヴィビットな感性、恋、成長などなど……

特にすずという主人公、現実では欠落やコンプレックス、幼女期の大きなトラウマを抱えている少女のリアルな造型。そのすずがネット世界では、スターの歌姫になってしまう。まさに「共通性」と「憧れ性」ですね。

すずはリアルな現実とバーチャル世界で、困難や巨大な敵と戦う。そして観客の心を捉え、感動させるテーマ性こそ、彼女のトラウマの克服です。このメインテーマを描き込むための作りをじっくりと見て下さい。現実とバーチャル世界との融合のさせ方も。

アニメでもファンタジーでも同じです。設定の奇抜さや二転三転のストーリーもあって構いません。ですが、そこばかりに走らないように。

大事なことは、核となるテーマでありキャラクターで、そこから生まれるドラマ性です。細田作品はすべてそこを外していません。特にこの新作は、今までの細田作品の集大成ともいえる傑作です。来年のアカデミー賞長編アニメーション作品賞の大本命に躍り出たと思います。

細田守監督にお越しいただいた公開講座の模様はこちらから
https://www.scenario.co.jp/online/20917/

YouTube
東宝MOVIEチャンネル
『竜とそばかすの姫』予告1【2021年7月16日(金)公開】

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