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代表 小林幸恵が毎日更新!
表参道シナリオ日記

シナリオ・センターの代表・小林幸恵が、出身ライターの活躍や業界動向から感じたことなど、2006年からほぼ毎日更新している日記です。

切り口

ほろよい読書(双葉文庫刊)

8月

シナリオ・センター代表の小林です。日曜日は、76回目の終戦記念日でした。
世界でも、なんで日本は「終戦記念日」というのかを疑問視されていますが、私は「敗戦記念日」というべきではないかと思います。
女性議員の先駆け市川房江さんは、「終戦の日は始まりの日」とおっしゃっていましたが、始めるためには、戦争に負けたことをきちんと認めないと何も始まらない気がするからです。
そんなことを思っていたら、終戦処理のための内閣として生まれた東久邇宮首相は「敗戦記念日」というべきと主張されていたことを知りました。ですが、軍部の強い反対で認められなかったという話を読み、結局、この時から反省というものはなかったのだということを知りました。
どうもこの国は、反省というものを知らない人々で成り立っているようです。
お為ごかしばかりで、歴史からも科学や文化からも学ぼうとしない人々の集まり、それが昨今より顕著に表れてきた気がします。

15日、靖国神社で、戦没者の遺骨が遺っている土砂を辺野古の埋め立てに使わないでと、雨の中ハンガーストライキを沖縄の具志堅さんがされていました。
沖縄を最後の砦にしようとしたことを反省しているのであれば、遺骨の入った土砂を埋め立てに使うなどということは断じてあり得ない、考えるわけがないことです。
昨日の追悼式でも深い反省をと言葉で出されたのは天皇陛下だけで、菅首相は得意のコピペで安倍前総理と同じ言葉を繰り返すのみ、首相の周りには誰一人おかしいとか恥ずかしいと思う人はいないでのでしょうか。
いつも言っていますが、戦後76年経った今も差別や、苦しみ、悲しみの心を抱えたご家族がおり、それは戦没者の数字だけでは表せないものです。
そのことを常に頭に心に置いていない人が国を司ってはいけないと私は思います。

緊急事態宣言を延期するとの報が出ています。
コロナ死者は世界的には日本は少ないから大丈夫という人がいますが、お別れもできずに家族を失った人々は現実にいらっしゃるのです。
数字ではない、現実の悲しみ苦しみなんです。一人でも死なせたらダメなんです。これでは戦争と同じになります。
他人の心を想像でき、くみ取れる人であれば、コロナ収束へ向けたきちんとした施策ができるのではないでしょうか。
「もう国の失政で誰一人死なせはしない」と陣頭指揮を執っていただきたいです。夢か・・・。

8月は、日本人にとって辛い月です。
でも、その辛さを日本人全員が持ち続けなければいけないと私は思っています。
嫌だけど言葉に出していくしかないと思っています。

ほろよい読書

お酒を飲むのもままならない日々です。
コロナ禍で、外では飲むことはできなくても、気持ちよくちょっと酔える本があります。
今日もよく頑張ったご褒美に、ちょっと一杯ずついかがでしょうか。
今をときめく作家たちが「お酒」にまつわる人間ドラマを描いた心潤す短編小説集「ほろよい読書」(双葉文庫刊)
「ショコラと秘密は彼女に香る」織守きょうやさん、「初恋ソーダ」坂井希久子さん、「醸造学科の宇一くん」額賀澪さん、「定食屋『雑』」原田ひ香さん、「barきりんぐみ」柚木麻子さんの5人の競作です。
気がつかれましたね。
そう、出身作家の原田ひ香さん、柚木麻子さんのお二人も描かれています。

原田ひ香さんの「定食屋『雑』」
「週2、3回あそこにいって、ご飯を食べ、酒を飲むだけが楽しみなんだよ。俺の楽しみを奪わないでくれ」
沙也加は、きちんと食事を作り、二人でご飯はご飯で食べて、終わってからゆっくりお酒を楽しんでほしいと思っている。そういう家庭に育った。
だが、ご飯を食べながらだらだら酒を飲みたい夫は、相容れずに出ていかれていまう。
いつも夫が通っていたという商店街にある食堂に行ってみると、そこは、木造の屋根がひしゃげて斜めになっているいかに場末の食堂。
しかも、背の低い愛想もない老女が一人で切り盛りしている。
きっとおいしいに違いないと食べてみると、すべて甘い!唯一スパゲッティサラダだけは絶妙だけど、なぜこんなこきたない、さほどおいしくもない食堂がよかったんだろう。
沙也加は夫への想いを、食堂へぶつけるべく、夫の想いを探しにお店の手伝いをすることに、そして・・・。

原田ひ香さんの「三人屋サンドの女」を彷彿させるようで、まったく違って、さすが原田さん、男女の機微、人間の深さで酔わせてくれます。
頑なではだめなんだよね、人生は。

柚木麻子さん「barきりんぐみ」
原田さんとは全く違う切り口です。コロナ禍で飲みに行けないまさに今日的お話し。

学生時代の友人江理子からZoomのオンラインバーで、1回1万円、3日に一度5回ほどシェーカーを振ってほしいと頼まれたのは、参宮橋でイケメンバーテンダーとしても紹介されたことのある名店「エクローグ」の店長有野。
客層は?と訊くと若くておしゃれな女性が多めかなと、barキリングミーというおしゃれなネーミングに惹かれて、引き受ける。
いざミーティングルームに入ってみると、部屋着姿の男女が気の抜けた顔して缶チューハイや安物のコップで酒を飲む姿が。
パジャマ姿で現れた江理子から、キリング―ミーではなく、保母さんがコロナに感染してお休みになってしまった保育園きりん組のパパとママだと紹介され、びっくり。
騒々しさや様々な事情を持つパパママに圧倒されながら、冴えないお酒ではなく、雰囲気に合うカクテルを作る有野。
それぞれの家庭事情を知るにつけ、回を追うごとに、その家の冷蔵庫にあるものでカクテルやおつまみを作ることを教える有野。
保育園のパパママも有野に教わって、どんどん開花して行く。そして、有野も・・・。

コロナ禍でのZoom飲み会、食べることが大好きで物知りな柚木さんらしい飲み物や食べ物の作り方がどっさりとでてきて、きりん組のパパママでなくても、本を片手に冷蔵庫を漁りたくなります。いや、漁りました。(笑)
ただ、飲み会で美味しいものづくりを教えるだけでなく、それぞれの登場人物の事情から働く父母の難しさ、社会の不合理、有野や江理子の生き方に思わずうならされます。
私自身も子ども二人を保育園で育てていただいたので、共感することばかり。
今も尚、保育園のママ友パパ友と40年以上の付き合いをしている私としては、barきりん組のママパパのお付き合いが長く続くであろうことを確信しています。
コロナ禍であれ何であれ、どんな時でも助け合って、元気に生き抜いていきたいですね。

原田さん、柚木さんのほかにお三方が、また全く違った作風で伯母の秘密を知りたがる姪、自宅で果実酒作りにハマるキャリアウーマン、実家の酒蔵を継ぐことに悩む一人娘の話など多種多様に酔えます。
1人寂しくグラスをあけずに、おしゃれなおつまみとして、語り合う友として、片手にこの本を侍らしてみてください。きっとご満足いただけます。

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