応募するなら「クライマックスシーン」「映像を意識して書く」を忘れずに
先日開催された「第21回テレビ朝日新人シナリオ大賞」授賞式。
選考委員の脚本家 井上由美子さん、岡田惠和さん、両沢和幸さん3氏による講評は、「シナリオコンクールで賞をとりたい!」という方にとって、ヒントとなる内容となっていました。
特に、岡田さんと両沢さんが触れていた「クライマックスシーンの重要性」と「映像を意識して書く」の2点は、絶対に外せないポイントだと思います。脚本家志望者は、これからご紹介する選考委員3氏による「受賞3作品の講評」をぜひお役立てください。
また、『寄生虫女、ニワトリ男』(配信ドラマ部門)で優秀賞を受賞された大阪校作家集団・近藤真由美さんのコメントもご紹介しますので、併せてご覧ください。
まずは 第21回テレビ朝日新人シナリオ大賞 概要
今回はテレビドラマ、配信ドラマの2部門で作品を募集。テレビドラマ部門には「ホームドラマ」というテーマを設けて募集。応募総数1453篇(テレビドラマ部門:847篇/配信ドラマ部門:606篇)。その中から、大賞1篇と優秀賞2篇が決定。なお、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から決定発表記者会見は行わず、授賞式のみを開催。
◆受賞作のあらすじはこちら
・大賞受賞 六藤あまねさん
『バイシクルレース~負けられないこの夏の戦い~』(テレビドラマ部門)
駅から離れた一軒家に暮らす三枝家。主人公の環(17)と弟・英樹(14)の間で起きた、母・裕子(47)が貸す電動自転車の奪い合い。当初はそれだけに留まっていたが、製薬会社勤務の父・信雄(47)が会社の健康増進キャンペーンのモニターに選ばれ、会社からマウンテンバイクを支給されたことから、父と弟の間でも自転車の争奪戦が勃発する。
・優秀賞受賞 近藤真由美さん
『寄生虫女、ニワトリ男』(配信ドラマ部門)
ニート生活を満喫していた相楽凪子(32)だが、妹の沙彩が実家を二世帯住宅に改築し、夫婦で住む話を聞かされる。リフォームが終わる2カ月後までに親と同居OKの男性と結婚すれば実家に住む権利を譲ると沙彩に言われ、 “実家”という温室を確保すべく婚活をはじめる。
・優秀賞受賞 坪井 努さん
『二人の光』(テレビドラマ部門)
光(14)は母の静子(42)に自宅の防音室で毎日ピアノを厳しく指導され、ピアノが下手なことを責められて息の詰まる思いをしていた。ある雨の日、光は橋から飛び降り自殺をしようとする。思いとどまり、その足でピアノ教室に向かうと、なんとそこにはレッスンを受けるもうひとりの自分の姿があった。
選考委員による講評
■井上由美子さん「マイナスな経験ほど役に立つ」
〇井上さん:昨年に引き続き、このような形の授賞式になりました。例年のような華やかさ、にぎやかさはないのでちょっと残念に思うかもしれませんが、2021年の今、こういう特殊な状況でシナリオを描き、受賞されたことはとても記念になると思います。
「ものを書く」というのは、プラスの経験よりもマイナスな経験のほうがよほど役に立つところがありまして、ラブストーリーでもうまくいくものは面白くないし、サクセスストーリーはさっさと成功すればつまらないし、かくいう私もテレビ朝日で刑事ドラマを書かせていただいていますが、簡単に分かっちゃうようなことをいかに分からないように、刑事たちが迷うように、苦労しながら書いております。
そんなとき役立つのは、過去の恥ずかしかった経験や悔しかった経験。そういう意味でいうと、大賞受賞者よりも優秀賞受賞者の方が悔しさを心に秘めて、今後さらによい作品を描く可能性もあるかなと思っています。
『バイシクルレース~負けられないこの夏の戦い~』
〇井上さん:家族という大きなテーマに対して、自転車の取り合いという、すごくささやかな題材を持ってきたところに、作者の並々ならぬセンスを感じました。個人的には結末を、ちょっときれいに収めすぎかなとも思いましたが、展開がスムーズで登場人物たちに対する温かい目線があって、完成度がとても高く、大賞にふさわしい作品ということで審査委員の意見が一致しました。
『寄生虫女、ニワトリ男』
〇井上さん:このまま人気者をキャスティングすればすぐにドラマ化できそうなオーソドックスなラブストーリーで、「成功している」と思いました。コンクールではオーソドックスというとあまりいい意味に取られないこともありますが、私はいい意味で、多くの人が共感できる世界を楽しんで描いている点がとても素晴らしいと思いました。この持ち味を大事にしてほしいと思います。
『二人の光』
〇井上さん:六藤さん、近藤さんの作品とは逆で、“境界線のルール”がやや分かりにくく、最初は入り込めないところがありましたが、なんでしょうね、個人的にはとっても捨てがたい魅力がありました。最近のコンクールでは、善人たちのスモールワールドを描いた「いいお話」が多いのですが、この作品には珍しく醜い人物が描かれていて、その作家性を応援していきたいなと思いました。
■岡田惠和さん「可愛らしい作品と、このまま観たいくらいチカラのある作品と、ダークサイドが入ってる作品」
〇岡田さん:今年は、とてもかわいらしいホームドラマと、ラブコメのこのまま本当に観たいくらいチカラのある作品と、かなりダークサイドが入っているホームドラマと、すごいイイ3作品が残ったと思います。最終審査も何度か投票し直したりするんですが、基本的にはこの3作品の得票が多くて、レベルの高い最終選考でした。それができることは同業者として幸せなことだと思っております。
『バイシクルレース~負けられないこの夏の戦い~』
〇岡田さん:他愛ない話なんですが、非常に説得力があり、登場人物がとにかくみんな可愛くて憎めない作品でした。ちょっとだけ残念なのは走るシーン。自転車がモチーフになっているのだから、走るシーンにもうちょっと“ドラマ”が見たかった。走る中で何かがあるといいな、と思いました。でもただ、このまま本当に、ディレクターたちと話し合って、映像化できたらステキな作品になるんじゃないかなと思っております。
『寄生虫女、ニワトリ男』
〇岡田さん:“ラブコメ”を楽しんで書いていることが伝わってきました。ちゃんとハッピーエンドに向かっていて、それも照れずにやっていて、好感度の高い作品だと思います。「誰でもいい」と思って出会った相手だったのに、ちょっと好きになってくると、向こうに愛がないことが物足りなくなってくる、というとてもストレートなラブストーリー。気持ち良かったです。
『二人の光』
〇岡田さん:評価のわかれる作品ではありました。「自分と同じ人間がもうひとりいる」というファンタジーのルールをけっこう逸脱しているところがあって、それが自由で新しいのか、単に乱暴なのかは、次回作を読んでみたいと強く思います。ただ、甘い方向に収めない、作者の気概みたいなものを感じました。面白いドラマでした。
■両沢和幸さん「映像としての最終形態を意識して書けばもっと面白くなる」
〇両沢さん:私はもともとプロデューサーもディレクターもやっていたので、脚本を読むときに「もしこれが映像化されるとしたら、どうしたらいいんだろう」と考えてしまうところがあります。
映像化される場合は、第1稿が上がってきた後に、キャスティングしながらプロデューサーやディレクターと一緒に原稿に手を入れていくことになります。本来プロになるというのはそういうことで、書くチカラも大事ですが、実は“より面白くしていく”という作業がもっと大切です。僕は、それができるかどうかが、プロとして生き残るかどうかの差だと思っています。
ですから、脚本はそれだけでは作品ではないので、映像としての最終形態がどうなるのかを意識しつつ書いていけばもっと面白くなると思います。
『バイシクルレース~負けられないこの夏の戦い~』
〇両沢さん:電動自転車を奪い合う家族の話。なかなかユニークな視点で、それはすごく面白かったんですけど、やっぱりせっかくなので自転車のチェイス・シーンぐらいはほしかったな、と。つまりそれは、テレビドラマは動画なので、やっぱりアクションというか、クライマックス(※)がみてみたかったな、と思いました。
『寄生虫女、ニワトリ男』
〇両沢さん:婚活コメディーで、登場人物のキャラクターがハッキリしていて非常に面白かったです。小津安二郎監督の映画『晩秋』の逆バージョンみたいな構成もユニークで面白いと思いました。ただ、「どこで終わらせるか」というのがすごく気になって。後半に、市役所でヒヨコが出てくるシーンがあったと思うんですけど、僕が監督だったらあそこで終わりにしたいなという感じがしました。映像的に見えるというか、演出してみたくなるようなシーンだと思いました。
『二人の光』
〇両沢さん:ひとりの人間の「表の自分」と「裏の自分」が出会って、お互いに影響しあうみたいな話で、実に楽しく読ませていただきました。非常に面白かったです。
並行世界、パラレルワールドというのはある種のトレンドかなと思っているんですが、いわゆる現実の日常的な世界に異世界が微妙に反映しているという世界観が、すごく“今の脚本”だなと思いました。
こういった話は以前からあるんですが、ある種のルールがあるので、それをかなり破っていることは確かなんですが、それを破ったうえで、「これは新しいルールだ」ということをバーンと提示していただきたかったなという感じがしました。
要するに、例えばこの二人が取っ組み合いをしたりとか、何かそういうことを乗り越えたクライマックス(※)みたいな、何か“もう一歩先”までいくと、もっと爆発力があったんじゃないかなと思いました。
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※クライマックスについてはこちらの記事もご覧ください。
・「魅力的なクライマックスシーンの作り方」
・「長編シナリオ 書きたいなら20枚シナリオでクライマックスを」
・「『絶対彼氏』に学ぶシナリオの勉強法:最後まで目が離せないドラマの作り方」
近藤真由美さんコメント 優秀賞受賞作 『寄生虫女、ニワトリ男』
〇近藤さん:子どものときからとにかくドラマが好きで、とりわけ連続ドラマが大好きで、「明日あのドラマがあるから頑張ろう!」と、毎日イヤなことがあっても過ごしてきました。
いま、コロナ禍で皆さんたくさん我慢をされているかと思うんですが、こんなときでも楽しく、「あのドラマがあるから頑張ろう!」と思っていただけるようなドラマを書きたいなと思っていました。
今回、このような素晴らしい賞をいただけたこと、信じられないくらい嬉しく思っております。
次回応募する際の参考に!
これまでの「テレビ朝日新人シナリオ大賞」授賞式の模様&講評
・「第20回テレビ朝日新人シナリオ大賞優秀賞受賞 長島清美さん/テーマ“25歳”で書いて」
・「第19回テレビ朝日新人シナリオ大賞にみる/どんな脚本が賞 をとるのか」
・「第18回テレビ朝日新人シナリオ大賞 映画部門・優秀賞受賞 川瀬太朗さん」
・「第18回テレビ朝日新人シナリオ大賞にみる①/脚本コンクールで賞をとるには」
・「第18回テレビ朝日新人シナリオ大賞にみる②/映画・テレビドラマ・配信ドラマの部門について」
- 「シナリオは、だれでもうまくなれます」
「基礎さえしっかりしていれば、いま書いているライターぐらいには到達することは可能です」と、新井一は言っています。
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