セリフは嘘つき
シナリオ・センター代表の小林です。今日の東京は雨です。
昨日は「暑い!」と叫んだ29度、今日は「さむ~!」と羽織る19度、「暑さ寒さも彼岸まで」とか、昔の諺や言い伝えはもう言葉遊びでしかなくなりました。なんてこった!!
それにしても気温の変調は、体力を消耗しますのでくれぐれも気をつけていきましょう。
東京のコロナ感染者も二桁になりましたが数字ではなく、自宅放置されている方々は入院できているのでしょうか。重症化は免れているのでしょうか。
国の思惑ばかりをニュースにするマスコミからは、何も見えません。聞こえません。
新たなお上が初めて国民という言葉をだしまくっていたので、もしやの期待もあったのですが、わずか2週間も経つか経たないかなのに、言ったはずお声は小さくなり、言わなかったことにもなりかねない何も変わらない状況です。
結局、なにがあっても、どんなことが起きても、お上は下々に顔を向けないというのが鉄則なのでしょうか。
でも私たち下々には、今まで見えにくかった、聞こえてこなかった様々なことが、コロナを媒介としてはっきりと見聞きできるようになりました。
しっかりと見てやりましょう。聞いてやりましょう。
「セリフは嘘つき」新井一は、だからドラマが面白くなる。裏腹がドラマを動かすのだといっていますが、ドラマじゃないので「セリフは嘘つき」は勘弁してくださいな。
嘘つきじゃない人を選べる選挙になればいいのですが・・・。え?誰もいない?
「殿、恐れながらブラックでござる」(講談社時代小説文庫刊)
昔も今もお上は・・・。
5月に「私立五芒高校 恋する幽霊部員たち」をだされて、19人もの登場人物を面白く描いた出身ライターの谷口雅美さん。
今度は時代小説を書かれました。
「殿、恐れながらブラックでござる」(講談社時代小説文庫刊)
初めての時代小説ですが、実在の人物と谷口さんの創造の人物とが相俟って、タイトルをみてもわかるように、なかなかの混然一体とした面白さです。
ブラック城主青山幸利は、実在の人物で、この人と谷口さんの出会いは尼崎城天守閣再建のイベントから。
尼崎城の城主の青山幸利は、「青大録」という言行禄があり、群を抜いてエピソードの多い方だったそうで、徳川への忠義ぶりを示すもの以外にもたくさんあって調べれば調べるほど描きたくなったのだそうです。
そして、「恐れながら申しあげます」を連発して愛される殿へとプロデュースするコンサルタント主人公戸ノ内兵庫をはじめ、青山外記、サヤ、甚吉など創造の人物と青山幸利、幸実親子、大坂城代青山宗俊、大坂城番板倉重矩などの実在の人物とが織り成す物語となりました。
実際の青山幸利は「洗い替えの布団すら持たない倹約家。炬燵の火でこがしても使い続けた」という史実をもとに、兵庫が褒美にもらったふかふかの布団を殿様(青山幸利)に貸し出すエピソードを作ったり、長すぎる鞘を切った話、馬を大事にしている話、大詰めの大坂城天守閣落雷で焼失など事実に創造を巧みに絡めて、青山幸利を「臣下に休みを取らせず、少しの贅沢も許さないパワハラな殿」として登場させ、お話をより魅力的にしています。
谷口さんは、あとがきに「史実の隙間を推察し、心の動きや関係性を創造する作業はとても楽しく、時代小説の執筆が初めてで、たびたび腰が引けそうになる私の背中を押してくれました」と書いていらっしゃいます。
時代小説って、この史実の隙間が大切なのですね。本当ではないかもしれないが本当にあったかもしれない・・・そこにドラマが生まれるのです。
前に出身ライターの山本むつみさんが、大河ドラマ「八重の桜」をお書きになった時、史実の行間を創造するのがドラマだとおっしゃっていたのを思い出しました。
「吉田松陰が会津に来た」という史実があるから、八重と会津で出会う話ができると。会ってないかもしれないけれど、会っていたかもしれない・・・の山本さんの言う行間、谷口さんの言う隙間を描くのが小説家、脚本家の本領を発揮するところなのですね。
時代小説、時代劇をお書きになりたい方、この史実の隙間、行間をしっかりと読み取り、想像力を広げ創造しましょう。