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代表 小林幸恵が毎日更新!
表参道シナリオ日記

シナリオ・センターの代表・小林幸恵が、出身ライターの活躍や業界動向から感じたことなど、2006年からほぼ毎日更新している日記です。

灯り

らんたん(小学館刊)

マスコミ

シナリオ・センター代表の小林です。東京は冷たい雨です。ついに東京の感染者6名という少なさに。ほっとすると同時に、本当に大丈夫なのかと疑う気持ちがでてしまうのが悲しいです。
どれだけ、マスコミのろくでもなさに惑わされてきたことでしょう。
この新聞社は、このテレビ局は、どこに立っているのかといつも疑問に思いながら、様々なニュースを読み聴きしてきました。
80年ほど前と変わらない動きにここ数年なってきていて、だんだんお上の言うとおりになっているマスコミが怖いくらいに見えています。
そのうち、大本営発表になるかもしれない。
今期で気になっているドラマが「和田家の男たち」(テレ朝)。
大石静さんの原案に出身ライターの荒井修子さんも脚本を描かれていらっしゃいますが、報道の世界を斜めに切りながら描いています。
息子がネットニュース記者、父がテレビ局報道マン、祖父が新聞記者という、まさに今の報道を切り取っている家系。
三者三様の見方、切り口が面白く、軽やかに楽しく描きながら、母を殺したかもしれない政治家と対峙する、妙に今っぽいやけに気になる面白いドラマになっています。
大本営発表までいかないですむとすれば、昔と違って、ネットという情報源が増えて、発言する場所も増えていることが、きっと大きな抑制力にはなり、国民が自分たちの頭で考え、動くのではと思ってはいますが・・・。
真実を見極める目をしっかりと持ちたいです。

らんたん

出身小説家の柚木朝子さんの新刊が出ました。
構想5年、「BUTTER」の著者が満を持して放つ女子大河小説「らんたん」
というキャッチフレーズの通り、恵泉女子学園の創設者河井道さんの半生を中心に描いています。
ですが、それだけではなく、河井道さんの生き方を通してみる明治から昭和までの近代史でもある小説です。

だいぶ前に、柚木さんから「母校のお話を描こうと思うのだけれど、膨大な資料で大変なのです」というお話を伺っていたので、恵泉女子学園設立からのお話を書かれるのかと思っていました。
柚木さんの切り口は、恵泉女子学園設立の紆余曲折というより、設立への想いに至る河井道という人と共に生きた女性たちの見事な生き様を描いていて、ある意味差別になるかもしれませんが、どれだけ女性は素晴らしいのだと心が躍るお話になっていました。

出だしがまた素晴らしい。
「大正最後の年、一色乕児は渡辺ゆりにプロポーズした。
その時彼女が突きつけてきた前代未聞の条件をすんなりと吞んだのは、その風変わりな名前に理由があった。
彼の名付け親は、徳川十三代将軍家定の御台所、天璋院篤姫である。
『これからの日本には外からどんどん新しいものが入ってくる。そなたの息子には、西洋でも十分通用する、力強い名前を与えたい。さて、なんとすべきかな?』」
先を行くべき一色乕児が、シスターフッドの河井道と一緒に暮らす結婚という驚くべき条件をのむところから始まり、まず、このお話がちょっとやそっとでは考えられない大きなお話だということを感じさせます。

そして、でてくるわでてくるわ、歴史上有名な人が。なるほど、人はどれだけ多くの人と関わるかで人格、生き方ができてくるのですね。
河井道はもちろん、津田梅子、大山捨松、新渡戸稲造、有島武郎、野口英世、広岡浅子、徳富蘆花、平塚らいてふ、神近市子、伊藤野枝、林歌子、市川房江、柳原白蓮、村岡花子、石井桃子、太宰治、マッカーサー等々、誰もが知っている歴史的文学的人物がいろいろな形でかかわってきます。
明治・大正・昭和の時代に女性たちは、今では考えられないような差別に立ち向かいながら、自分の生きる道を探し、力強く生きていっています。
読み進んでいくと、この時代と今の時代の在り方は、ほぼ変わっていないことに気づかされます。

「提灯がそんなに危険なのに、私たち日本人が手放せないのは、どうしてでしょう」
「それは個人が負わなければならない荷物のとても大きな社会だからです。
日本人はすべてにおいて何か問題が起きたら、まず一人で何とかしなくてはいけない、例えば家族に問題が起きた時は、家族だけで解決しないといけない。
そんな風に思いこまされていませんか。」
「だから、みんな暗い夜道になると、自分の手元だけは明るくしなければ、と必死に提灯を握りしめるしかないのです。
でも、自分と家族だけを照らしているようではまだ充分とは言えない。
あんな風に大きな光を街の目立つところにともして、みんなで明るさを分け合わないといけない。日本人は共同で何かを行うということを覚えるべきです。
つまり、シェア、ということです」
新渡戸稲造が河井道にカナダの夜の街で「提灯と街灯」の違いを話します。
この物語のすべてが、河井道のこれからが語られている気がします。
そして、何も変わっていない日本を感じさせられてしまいます。
戦争などを経て大きなうねりの中で、道とゆりがお互いを支え合うながら、恵泉女子学園へと向かう道は、人はどう生きるべきかを示唆しているように思います。
人は一人では生きていない、お互いを支え合って生きていくこと、明治・大正・昭和と先を見据える「らんたん」をともし続けてきた女性たちですが、全く今の女性たちの状況も変わりがありません。
今を生きる私たちは何をすべきか、過去を振り返ることで、きちんと前へ進む道を照らし続けろとこの本に登場する女生たちに強く強く背中を押されます。
すごい本です。ご一読をお勧めします。

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