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物語はどう作るのか/コツは「へえ!」となるシーン

物語はどう作るのか/コツは「へえ!」となるシーン

「先が読めない、観客や読者を引き込むストーリーを書くにはどうしたらいいんだろう?」とお悩みの方、コツは「へえ!」となるシーンを入れることです。具体例を交えながらご紹介!

このコーナーでは、「自分にはシナリオを書く才能がないかも……」と悩んでいるかたへ、面白いシナリオが書けるようになるちょっとした“術”を、シナリオ・センター講師・浅田直亮著『いきなりドラマを面白くする シナリオ錬金術』(言視舎)&『月刊シナリオ教室(連載「シナリオ錬金術」)』よりご紹介いたします。

「へえ!」となるシーンを加える

ストーリーの先が読めてしまう映画やTVドラマって、どうですか?そんなの、つまんな~い! ですよね。

実は『海猿』という映画が、そうでした。映画を観始めて数分後に、だいたいのストーリーが読めてしまったのです。主人公と、この人物が対立して、もしかしたら、この人物は途中で死ぬんじゃないだろうか、みたいな感じで。

じゃあ『海猿』はつまらなかったかと言うと、全然そんなことはありませんでした。もちろん、先が読めてしまった時には、この映画を選んだのは失敗だったかなあと思いましたが、でも、すぐに引きこまれていきました。

予想したストーリーと違う展開があったから?いいえ、違います。ストーリーは予想通りの展開でした。引きこまれたのはシーンの面白さにです。

たとえば、こんなシーン。『海猿』は、海上保安庁の潜水士を養成する訓練校を舞台に、苛酷な訓練を受ける潜水士予備軍の男たちのドラマですが、訓練が始まってから1週間ぶりに外泊が許可された夜、訓練生たちは何とか女の子をナンパしようと必死ですが、ことごとくフラれ、結局、全員一緒に居酒屋で飲んでいます。

そこで伊藤英明さん演じる主人公・仙崎大輔と、海東健さん演じるライバルの三島優二が居酒屋でケンカになります。

「カッコつけてんじゃねえよ!」「カッコつけてんのはそっちだろ!」と睨み合った次のシーンで、二人はパンツ一丁になり居酒屋の活魚が泳ぐ生け簀にドボン!どちらが水の中で長く息を止めていられるかで勝負します。

結局、パンツの中に海老が入りこみ、息を吹き出してしまった主人公が負けるのですが、訓練中の潜水士予備軍ならではの、今まで観たことのないケンカのシーンです。

こういう思わず「へえ!」となるシーンがあると、たとえストーリーが読めてしまっても引きこまれます。

もちろんストーリーが読めてしまうよりは、どうなるんだろう? 主人公はどうするんだろう? と思わせる方がいいに決まってますが、それでも一つ一つのシーンがありきたりでは引きこまれません。

あなたの20枚シナリオにも、思わず「へえ!」となるシーンを加えてみて下さい。コツは、主人公のキャラクターならではの行動、特に職業や境遇などに特有の行動を考えてみることです。

定番メニューの代表選手カレーライスだって、その家ならではの具材を入れると、納豆カレー、ちくわとこんにゃくのおでんカレー、わかめカレー…といった魅惑の(?)新鮮メニューになるように。

というわけで今回は、わが家ならではスペシャルカレーの術!

目の前にいるかのような存在感

たとえば映画『評決』では、こんなシーンがあります。ポール・ニューマン演じる主人公は、かつては一流大学の法学部を卒業し法律事務所に勤務するエリート弁護士でしたが、先輩の不正事件の罪を着せられてから落ちぶれ、今では酒びたりの日々。

映画の冒頭、ビールを飲みながらピンボールに興じるタイトルバックの後、主人公は、ある葬式に参列し遺族に「許せない事故です。お力になります。いつでも電話を」と名刺を渡していきます。その後、カフェのようなところで新聞の死亡欄をチェックしています。事故死した人の葬式に故人の友人を装って参列し弁護士の名刺を遺族に渡して営業する「死亡欄あさり」をしているのです。

いかにも酒びたりの落ちぶれた弁護士らしい、「へえ! こんな風にして仕事をもらおうとしているのか」という生活動作で映画の中に思わず引きこまれます。

ほかにも、葬式にもぐりこみ遺族に名刺を渡す前に、おそらく酒臭さをごまかすためでしょう口臭スプレーをしたり、死亡欄チェックをしながらショットグラスになみなみと注がれた酒(ウイスキー?)を飲もうとしますがアル中なのでしょう手が震えてこぼれそうになり、テーブルの上にグラスを置いたまま口をつけて酒をすすり、少し減ったところで手に持って飲み干すという何ともいじましい行動も描かれていて、実際、目の前に、そうやって生活している人物が実在しているかのような存在感を感じさせてくれます。

キャラクターならではの生活動作

『海猿』や『評決』は職業がメインの舞台となっている映画ですが、たとえばラブストーリーやホームドラマの場合でも主人公の職業や境遇などを考えて、そのキャラクターならではの生活動作を描いてみて下さい。

たとえば映画『おと・な・り』は、岡田准一さん演じるプロカメラマンの聡と、麻生久美子さん演じる花屋の店員の七緒という、古いアパートの隣同志に住む二人のラブストーリーです。

聡がカメラマンであることは、クライマックス直前、このまま二人は互いが隣同士だったことに気づかず離れ離れになっていくのかなと思われた時、七緒が行きつけの珈琲店でいつも心を癒されていた風景写真が実は聡の撮ったものだったと分かり…というエピソードがあるのでラブストーリーにからんできます。

が、七緒が花屋の店員であることはラブストーリーには直接からんできません。つまり、どの職業でもいいといえばいいのです。

でも、七緒が花屋の店員である生活動作が丁寧に描かれています。たとえば店では見切り当番というのがあって、古くなりかけた花を売るとすぐに萎れてしまうので見切って捨てる当番があるということや、帰宅するとまず爪ブラシを使って手を洗うこと、フランス留学が決まっていて夜中にフランス語のレッスンをしていることとか。

職業だけではなく七緒は花粉症で(これもラブストーリーには直接はからみません)、ちょっと特徴のある変なくしゃみをしていることや、そのために加湿器をつけていて、その加湿器がタンクに水がなくなるとピーピーピーと警告音が出ること。

そして、いつも、はっぴいえんどの『風を集めて』という歌を鼻歌で歌っている(これは実は二人は中学の同級生で音楽の先生が合唱曲にしたのですが)といった動作も描かれています。こういった七緒の生活動作の音を、聡は壁を隔てて聞いています。

この『おと・な・り』の二人は直接会って互いの顔を見たことはありません。壁を隔てて聞こえてくる互いの生活音で互いの存在を感じているだけなのです。七緒は聡の、手回しのコーヒーミルで豆を挽く音や、いつも腰につけているチェーンホルダーの鍵の音などを聞いています。

そして、七緒が岡田義徳さん演じるコンビニ店員に傷つけられた夜、いつも通りフランス語のレッスンをしていて涙がこみ上げてきます。隣で、いつもと違う七緒の声を聞いて、聡は『風を集めて』を口ずさみ元気づけるシーンがあります。よけいなセリフはありません。これも思わず引きこまれる、とても印象的なシーンです。

アニメ映画『崖の上のポニョ』には、信号灯を使ったモールス信号のシーンがあります。

主人公・宗介の父親・耕一は小金井丸という貨物船の船長をしています。その日は耕一が久しぶりに帰ってくる予定でしたが、急に帰れなくなったと電話があり、母親のリサは怒って電話を叩き切ります。

その夜、崖の上にある宗介の家の沖合を小金井丸が航行し、耕一は信号灯を使ってモールス信号を送ります。宗介は家のベランダにある信号灯でモールス信号を返します。耕一は「ごめん」「愛してる」などと送ってきて、宗介がリサに伝えますが、リサは「BAKA BAKA BAKA」と返したりして。貨物船の船長の家族ならではのコミュニケーションで、いいシーンだなあと思いました。

たとえば今回例に上げた『評決』ですが、劇場で観たのは30年近く前になります。ストーリーとして覚えているのは、医療ミスの裁判で、最初は不利だったのが逆転していく、ぐらいです。でも、ここに書いた冒頭の死亡欄あさりのシーンや、たとえばシャーロット・ランプリングが敵方のスパイと分かり平手打ちされるシーンは鮮明に覚えています。

今まで面白かったなあという映画やドラマを思い出してみて下さい。覚えているのはストーリーではなくキャラクターや、そのキャラクターならではのシーンではないですか?

出典:『月刊シナリオ教室』(2009年9月号)掲載の「シナリオ錬金術/浅田直亮」より

次回は12月25日に更新予定です

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