脚本の勉強初心者のかたも、既に映画監督・脚本家・小説家などクリエイターとして活躍されているかたも、「自分が本当に作りたいものって何だろう」と悩むことがあるのではないでしょうか?そんなときは、今回ご紹介する映画監督・脚本家 和島香太郎さんのコメントをご覧ください。
和島さんは2012年、詩人黒田三郎の詩集を原作とした短編『小さなユリと/第一章・夕方の三十分』で、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭短編部門 奨励賞を受賞。2014年、初の商業映画監督作『禁忌』が劇場公開。
その他、脚本を担当した『欲動』『マンガ肉と僕』が釜山国際映画祭、東京国際映画祭に出品されるなど、着実に映画監督としての実績を積まれてきましたが、ご自身ではテーマや方向性に悩まれていて、シナリオが書けなくなっていたそうです。
そこで、シナリオ・センターのシナリオ作家養成講座を受講。脚本の基礎を学び直したことで、シナリオがまた書けるように。以降は、事前の取材をしっかり行うこと、そして、実在の伴った映像を作ることに、よりチカラを注ぐようになったと言います。
監督・脚本を手掛けた映画『梅切らぬバカ』は、公開前の予告動画から話題となり、公開初日はメインの映画館が長蛇の列となりました。自閉症のある男性とその母の日常を描いた本作。その制作経緯や裏話は『月刊シナリオ教室 2021年12月号』に掲載しています。ぜひお読みください。
こちらのブログでは、シナリオ・センターで学び直すことになったキッカケや講座受講後の変化についてを中心にご紹介します。
リハビリになったシナリオ作家養成講座
――これまでの実績をお聞きすると、着実に実績を積まれているように思うのですが、ご自身ではいろいろな葛藤があったんですね。
〇和島さん:気づくと、プロデューサーに「面白いね」と感じてもらえる企画書にするために、「奇抜な設定を書かなきゃ」と思うようになっていました。一度映画の撮影から離れて、自分の内なるテーマを探そうとしたのが2016年です。
また、「きみの脚本はヘタだね」「プロットをそのまま起こしているようだ」「人の奥行きがなく表面的な描写が多い」とよく言われていたこともあって、シナリオ・センターのシナリオ作家養成講座に通い始めました。
――プロとして何本も映画を撮ってからシナリオ・センターに来られて、授業はいかがでしたか?
〇和島さん:とにかく毎回短いシナリオを課題で書いて添削してもらうので、基礎技術がよくわかりました。
また、当時は映画館に行くのも嫌なくらい悩み、日記くらいしか書けなかったのですが、シナリオ・センターで短い課題を書き続けることがリハビリになりました。再び映画の脚本を書けることが嬉しかったです。
人生から切り離したいと思っていた病が社会との接点に
――受講後、自分が映画で描きたい自分のテーマは見つかりましたか?
〇和島さん:はい、それは「病の問題」です。自分には、てんかんという持病がありますが、そのことを伏せて映画の仕事を続けることに限界を感じていました。
予算が少ない現場はスケジュールがタイトで、そのせいで睡眠不足が続くと発作が起こりやすくなります。現場に支障をきたすリスクを抱えていると知られたら、監督として雇ってもらえないのではないかという不安から、一人で抱え込んでいたのです。
実際、学生時代に親しい友人の前で発作を起こしたことがあり、そのせいで疎遠になったことがあります。全身が激しく痙攣する発作ですから、友人も驚いただろうし、自分も恥ずかしかった。
けれど、その経験をネタにした卒業制作を提出したら、講師でドキュメンタリー映画作家の佐藤真さんに、「初めて自分の現実を自分のタッチで描いたね」と評価してもらえたんです。そんなことを思い出していたら、自分が怖れる病の中に創作のヒントがある気がしたんです。
そこで、「てんかんを伏せて生きることのリスク」をテーマに、ドキュメンタリー映画を作ろうと思い、主治医を介していろんな患者さんに会いました。
ただ、てんかんのことを伏せている人たちは、カメラの前に立つことさえできません。けれど、病気を開示して周囲と繋がりたいとも思っている。そこでまずは、ネットラジオを始め、匿名で生の声を届けていくことにしました。
自分は病を通して人と繋がり、映画のテーマと出会うことができました。自分の人生から切り離したいと思っていた病が、社会との接点になってくれたような気がします。人との関わり方は、映画のタッチになっていると思います。皆さんも、道に迷った時は、自分の人生に寄り沿ってみてはいかがでしょうか。
映画『梅切らぬバカ』を制作して
*
――特にどんなことにこだわりましたか?
〇和島さん:この映画を作るにあたって、グループホームを利用されている自閉症のかた、その親御さん、ホームの職員さん、ケースワーカーのかたなどにお会いして、お話をお聞きしました。
こういった取材をする中でこんなことを言われました。「私たちの日常や子どもの障害を描きながら、ハッピーエンドで終わらされることに腹が立つ」と。
過酷な現実を突きつけてほしいという意味ではありません。しんどいことがあっても心の折り合いを付けて暮らしてるのに、その人生を歪められ、映画に消費されると虚しくなるのだと思います。
ですから、そこにある暮らしをありのままに表現することにこだわりました。
――どんな人に観てほしいですか?
〇和島さん:街で自閉症のかたとすれ違ったとき、相手をどのように見たらいいのかわからない人がいると思います。もしくは、監視をしてしまうかたもいるかもしれません。でもそれは、見る側・見られる側の双方にとって息苦しいことではないかと思います。この映画がまなざしを考える機会になったら嬉しいです。
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加賀まりこ&塚地武雅、自閉症の息子と母役で初共演 映画『梅切らぬバカ』予告編
※現在、シナリオ・センター出身の脚本家・監督・小説家の方々がたくさんご活躍中です!
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>>脚本や小説を書く とは/シナリオの技術を活かして
- シナリオは、だれでもうまくなれます
「基礎さえしっかりしていれば、いま書いているライターぐらいには到達することは可能です」と、新井一は言っています。“最初の一歩”として、各講座に向けた体験ワークショップもオススメです。
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