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しゃれおつなお店や人々が行きかう街、表参道。そこで働くシナリオ・センタースタッフの見たもの触れたものをご紹介します。

柏田道夫おすすめ 映画『コーダ あいのうた』を楽しむ 見どころ

映画から学べること

脚本家でもあり小説家でもあるシナリオ・センターの柏田道夫講師が、公開されている最新映画を中心に、DVDで観られる名作や話題作について、いわゆる感想レビューではなく、作劇法のポイントに焦点を当てて語ります。脚本家・演出家などクリエーター志望者だけでなく、「映画が好きで、シナリオにもちょっと興味がある」というかたも、大いに参考にしてください。普通にただ観るよりも、勉強になってかつ何倍も面白く観れますよ。

-柏田道夫の「映画のここを見ろ!」その51-
『ハウス・オブ・グッチ』人物の持続的“欲望”が物語を運ぶ

今回取り上げる映画は『ハウス・オブ・グッチ』。監督はリドリー・スコット。傑作SFホラー『エイリアン』で一躍名を上げ、『ブレードランナー』『テルマ&ルイーズ』など名作・ヒット作を送り出している大巨匠です。

昨年で84歳ですが、秋にも『最後の決闘裁判』という、黒澤明の『羅生門』を彷彿とさせる、とてもユニークでおもしろい映画が公開されました(このコラムで取り上げようかと迷いました)。

立て続けの新作が本作です。上映時間2時40分ですが、まるで長さを感じさせないおもしろさ。見どころ満載、かつ余韻も与えてくれます。

タイトルで分かるように、世界で知られていて、特に日本人(のお金持ち)が大好きなブランド“GUCCI”を生み出したグッチ一族の物語。最初に字幕で“INSPIRED BY THE TRUE STORY”と出るように、本当にグッチ家で起きた話、事件が基になっています。グッチ大好きな方々は、この映画を見て、しみじみと感じ入ってほしい、とつい思ってしまいます。

運送業の父の会社で、経理の仕事をしているパトリツィア(レディー・ガガ)は、グッチ家の御曹司マウリツィオ(アダム・ドライバー)と出会い、玉の輿に乗るべく接近、本当に恋に落ちて結婚しようとしますが、マウリツィオの父ロドルフォ(ジェレミー・アイアンズ)から反対されます。

二人は凄腕経営者の伯父アルド(アル・パチーノ)とその息子のパオロ(ジャレッド・レト)に接近、グッチ家の経営に関わるようになっていくが……。主演のレディー・ガガの熱演はもちろん、そうそうたるスター俳優が脇をがっちり固めていて、それだけで見応えがあります。

さて、今回の「ここを見ろ!」は、彼ら人物の「欲望」です。

前回の『パーフェクト・ケア』()では、ロザムンド・パイク演じる主人公マーラの“悪の徹し方”で、「良心なんてかけらもなく、命の危険が迫ってもぶれずに自らの欲望を貫く姿に、もう感動さえしてしまいます」と書きました。マーラも、おのれの欲望を生きるエネルギーにしている人物ですが、本作の主人公パトリツィアだけでなく、人物たちがそれぞれの欲望ゆえに、肉親さえも裏切り、出し抜き、破滅への道をひた走っていく。

それにしても、我々一般人とはほど遠い世界にいるような人たちが、欲望ゆえに権力闘争に明け暮れる類いの物語は、なんとおもしろいか。

本作と似た構造の物語をいくつかあげると、古典中の古典ではシェークスピアの『マクベス』(さながらパトリツィアはマクベス夫人!)や、『ゴッドファーザー』(まさにアル・パチーノ)、日本なら『仁義なき戦い』シリーズ、山崎豊子原作の『華麗なる一族』、最近ではドラマの『半沢直樹』などなど。

こうした壮大な作品を挙げると、皆さんは自分が書こうとする話じゃないな、と思うかもしれません。実際皆さんが書く作品は、真面目に生きている主人公とか、小さな恋とか青春や自立、心温まる家族愛みたいなものばっかりで、欲望を貫くアクの強いキャラなんて、めったにお会いしません。

しかし、人物を突き動かすのは「欲望」です。

シナリオ・センター創立者の新井一先生は『シナリオの技術』の中で、共通性を与える手法として、強い感情のドラマにすべきだが、感情を持続することが難しい、と前置きし、

「感情にも長短があります。何年も何十年も続く感情もあれば、一週間ももたないものもあります。その感情を持続させるにはどうしたらいいでしょうか。一つの方法があります。それは欲望をはっきりさせることです。(略)欲望が強ければ強いほど、その感情は持続されます」

で、新井先生は、①社会的欲望 ②個人的欲望 ③生理的欲望 の三つが物語の人物に大事だと。詳しくは『シナリオの技術』をお読み下さい。

「欲望はあらゆるドラマを展開させて行くのに不可欠な要素」だと新井先生が述べているのですが、皆さんの書く人物たちはいかがでしょう?

『ハウス・オブ・グッチ』は、確かに我々とは縁遠い印象のあるセレブたちの欲望が渦巻く物語なのですが、実は人間の本質、愚かさや悲しさも描いていて、壮絶なドラマです。しかも実話がもとになっている。

パトリツィアのラストシーンの最後のセリフ、そしてタイトルで示される最後の一行をじっくりと噛みしめて下さい。

「映画のここを見ろ!その50」
『パーフェクト・ケア』悪を貫くことでぶれないヒロインの魅力
https://www.scenario.co.jp/online/29348/ 

YouTube
ユニバーサル・ピクチャーズ公式
映画『ハウス・オブ・グッチ』本予告<1月14日(金)全国公開>

-柏田道夫の「映画のここを見ろ!」その52-
『コーダ あいのうた』家族愛を際立たせる設定の作り方

新しい才能の発掘を掲げるサンダンス映画祭で、グランプリなど4冠を獲得、世界配給権の落札で、2500万ドル(約26億円)の値がついたという『コーダ あいのうた』(原題『CODA』)。脚本も書いたシアン・ヘダー監督はこれからも注目です。

2014年のフランス映画『エール!』のリメイク版。この映画は私も覚えています。聾唖者家族の中でひとり健常者の娘が、歌の才能を秘めていて、家族内の対立、葛藤を経ながら、自身の未来を拓くために旅立っていく。

『エール!』は、家族は酪農をやっていて、主人公の兄弟が弟になっていました。あと、父が開発を進めようとする村長に対抗して、村長選挙に出る。

『コーダ あいのうた』は家族の稼業は漁業で、主人公ルビー(エミリア・ジョーンズ)の兄が漁師仲間の組合を作ろうとする、というように脚色されています。

ちなみにタイトルの「コーダ(CODA)」は“Child of Deaf Adults”の略で、“聾唖者の親を持つ子供”という意味だとか。

『エール!』との違いがもうひとつあって、ルビーの父フランク(トロイ・コッツアー)、母ジャッキー(マーリー・マトリン)、兄レオ(ダニエル・デュラント)の俳優たちも皆、聾唖者ということです。特にマーリー・マトリンは、1986年の『愛は静けさの中に』でアカデミー賞の主演女優賞を獲っています。ああ、あの映画の!と懐かしかったです。

さて、今回の「ここを見ろ!」は、まさに「家族」の設定と、そこから旅立つ主人公、という普遍ともいえるテーマについて。ちょうど2月末〆切の「テレビ朝日新人シナリオ大賞」で掲げられているテーマが「家族」です。

ところでこのコラムでは「家族」を扱っている映画としては、第7回『万引き家族』()、第18回『家族を想うとき』()、第19回『パラサイト 半地下の家族』()、第38回『ファーザー』()などが挙がります。前回の『ハウス・オブ・グッチ』も、グッチ家が辿った物語ですので、家族もの、もしくは「ホームドラマ」ともいえます。

これらの作品を観ると「家族もの」「ホームドラマ」であっても、当然描き方、切り口で大きく違ってきます。

『万引き家族』は疑似家族ものだし、『パラサイト』は(家族の絆は同じとはいえ)クライムサスペンス、『ファーザー』は認知症、『ハウス・オブ・グッチ』は家族内憎悪なり闘争。『家族を想うとき』は家族の絆ではあるのですが、今の社会への問題提起がメインテーマです。

で、『コーダ あいのうた』はメインテーマとしては「家族」愛なのですが、やはり聾唖家族内唯一の健常者という設定がとてもいい。歌の才能を秘めつつも、ルビーは彼らの通訳として欠かせないロッシ家の一員。これが彼女の人生、自身の旅立ちの大きなカセになっている。

もうひとつ、本作を観ていて思い出したのは、2000年の(大大好きな!)『リトル・ダンサー』(舞台版は『ビリー・エリオット』)。ご覧になっていない方はぜひぜひ!大感動作です。

こちらはイギリスの炭坑夫一家から、バレエダンサーの才能を持った少年ビリーが、自らの夢を実現するために、家族から旅立っていく物語。稼業とか目指す芸が違いますが、『コーダ あいのうた』と設定やテーマ性はまったく同じです。

天涯孤独の孤児は別にしても、誰でも家族を持っていて、簡単に切り離せません。特に子供はいつか家族から巣立っていき、一人の人間として生きていく時が来るものです。

それぞれの家族で異なる事情があるわけですが、それだけに家族の描き方は無数です。これらの作品はどれも違うのですが、どれも「家族」が描かれていて、とても感動的ですし、おもしろい。

『コーダ あいのうた』ですが、いくつもの心に残るシーンがあります。トップシーンのルビーの歌、音楽教師V先生とのやりとり、憧れのマイルズとの初キスシーン、母との会話、兄との会話、そして父に歌を聴かせる場面、無音となる発表会、クライマックスのV先生と手話付きの『青春の光と影』!

もう涙なくしては見られませんよ。

「映画のここを見ろ!その7」
『万引き家族』疑似家族の住む家と、映画のまなざし
https://www.scenario.co.jp/online/24077/ 

「映画のここを見ろ!その18」
『家族を想うとき』直に訴えないからこそ「テーマ」がじわじわと伝わります
https://www.scenario.co.jp/online/25228/ 

「映画のここを見ろ!その19」
『パラサイト 半地下の家族』設定、切り方で、真逆になることが分かる傑作です
https://www.scenario.co.jp/online/25338/ 

「映画のここを見ろ!その37」
『ファーザー』人物に感情移入させる緻密な視点の転換
https://www.scenario.co.jp/online/28149/ 

YouTube
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アカデミー賞最有力!サンダンス映画祭最多4冠!「コーダ あいのうた」本予告

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