今回ご紹介するのは、第46回創作テレビドラマ大賞(応募総数1022本)で受賞された、シナリオ・センター在籍生お二人のコメント。通信講座 本科の竹川春菜さんは『月食の夜は』で大賞を、通信講座 作家集団の武田雄樹さんは『塔の三姉妹』で佳作一席を受賞されました。
竹川さんは、ドラマや映画が好きで、書くことも好き。この2つに携わることがしたいと思い、シナリオの勉強を始めたそうです。武田さんはシナリオを書くことに集中するため会社を退職し独立。午前中に会社の仕事をし、午後からシナリオの勉強をするという日々を続けているそうです。
そんなお二人がどんなふうにシナリオを書き、今回受賞されたのか、お話しいただきました。
「昔から書くことが好きで何か始めたい!」というかたも、「脚本コンクールで賞をとりたい!」というかたも、こちらのコメントを参考にしてください。
大賞受賞『月食の夜は』竹川春菜さん
「書いたものを読んでもらうと、何かしら気づきや得られるものがある」
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==受賞作『月食の夜は』あらすじ==
宮内駿(15)はテレビのニュースで来週末にスーパームーンの月食があることを知る。思いを寄せるクラスメイト 岸本翠(14)を誘うが、まったく相手にしてもらえない。「私のことを何もわかっていない」と言われ、焦ったあまり、月食に誘うどころか告白してしまい撃沈。実は、翠は自宅での母親の介護に追われており、学校に行くときは母の食事を用意してから出かけなくてはいけないような日々を送っていた――。
――そもそも、「シナリオを書きたい」「シナリオライターになりたい」と思ったキッカケはなんですか?
〇竹川さん:ドラマや映画が好きで、書くことも好き。この2つに携わることがしたいなと。この願いを叶えられるものを考えたとき、シナリオにたどり着きました。
――シナリオ・センターでの勉強や添削で、作品作りに特に役立っていることは何ですか?
〇竹川さん:私は通信講座なので、先生とのやりとりが文通のようで楽しいんです。書きながら悩んだところを相談すると「考えすぎずにまずは楽しんで」とアドバイスいただき、ハッとしたこともあります。技術的なご指摘はもちろん嬉しいですが、煮詰まったときに助けていただいたことも何度もあり、二人三脚で勉強している心強さがあります。
――受賞のご感想をお聞かせください。
〇竹川さん:とても地味な話で、題材もドラマにしづらいはずなので、受賞できるとは思っていませんでした。
でも、審査員の山本むつみさんから「ぜひドラマで見せていただきたいと強く思えた作品」というお言葉をいただき、また、NHKプロデューサー 山本敏彦さんからは「社会も含め、そういったかたをどうやって救っていくのか、その先へ繋げるドラマになるかもしれない」と仰っていただけました。
視聴者のかたに、観た後、一緒に考えてもらえる作品にしたいと思いながら書いたので、思いが届いたようで嬉しかったです。
――受賞作『月食の夜は』を書こうと思ったキッカケを。
〇竹川さん:昨年の初夏に、実際にスーパームーンの月食がありました。私も見ようと自宅の屋上に上がったのですが、雲で見えませんでした。
でも、そのことが自分の中では新鮮に感じられた。なぜなのか考えてみると、今は情報社会で、明日の天気や電車の乗換など、ほとんど何でも先読みできる。その中で、予測していたことが、その通りにいかないケースを久々に経験したからなんじゃないかな、と。
想像通りにならないことで気持ちが軽くなる場合があるんだと知ったので、そうしたシーンを盛り込める話を書きたかったんです。
――なぜヤングケアラーのことを描こうと?
〇竹川さん:実家に住んでいた頃、近所に同じ歳の女の子がいたのですが、彼女は進学も就職もせずに家族の介護をしていたんです。
当時の私にはどうすることもできず、しこりのようになっていたのですが、そこから10年以上経って「ヤングケアラー」という言葉を知り、彼女はそうだったのかもしれないなと。そのことをもう一度考え直してみたいと思い、書きはじめました。
――今回感じたことやそれを踏まえて今後の抱負を教えてください。
〇竹川さん:選評で掘り下げが足りていない点をご指摘いただき、的確なご意見がとても参考になりました。
今回の応募作は特に悩みすぎて、書いている間ずっと唸っているような状態だったので、ご意見を頂戴したことで突破口が見えてきた箇所もありました。書いたものをこんなにたくさんの人に読んでもらえて、意見をいただけたことは、ありがたいことだなと実感しています。
未熟でも稚拙でも、書いたものを読んでもらうと、何かしら気づきや得られるものがあります。
とにかくラストまで書き切って出すことが、次につながるんじゃないかなと思います。このインタビューを読んでくださったかたと、いつかどこかでご一緒できる日を楽しみに、私も引き続き頑張ります。
佳作一席『塔の三姉妹』武田雄樹さん
「今までで一番、取材に時間をかけて」
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==受賞作『塔の三姉妹』あらすじ==
宗教2世。それは、親の信仰する宗教のもとで、幼い頃から育てられた信者のこと。いわゆる「神の子」である。遠山詩子(27)もまた、宗教団体「エデンの塔」の神の子であった。しかし、熱心な信者である母親・遠山裕子(52)への反発心や、教団への不信感から脱会を決めた。そんな詩子のもとに、同じく脱会した古川モモ(26)が身を寄せてくる――。
――武田さんはシナリオを書くことに集中するため、務めていた会社を退職し 独立されたそうですが、今までシナリオと仕事の両立はどうされてきましたか?
〇武田さん:最初は会社員をしながらシナリオを書こうと考えていましたが、不器用な人間なので両方とも中途半端になってしまうな……と思い、一旦会社に集中して3年で独立を目指そうと決めました。なので社会人になってから3年間はシナリオの勉強よりも、WEBの仕事で独立するための勉強ばかりしていました。
現在はWEBメディアの会社を経営しています。午前中に会社の仕事を終えて、午後からシナリオの勉強をする日々を続けています。あの時の無謀な計画は結果的に間違ってなかった……と、ホッとしています。
――シナリオを書くとき、シナリオ・センターの勉強で特に役立っていることは何ですか?
〇武田さん:個別のシナリオ診断を受けたことですね。「セリフが長い!」と言われて、そこから意識が大きく変わりました。以降はセリフを誉めてもらえることが多くなったので、あの一言はターニングポイントだった気がします。
――今回の受賞の勝因は何だと思いますか?
〇武田さん:2019年から脚本コンクールに応募し始め、創作テレビドラマ大賞は2度目の挑戦で今回初めて受賞できました。
今までで一番、取材に時間をかけたことが大きな違いです。当事者でない僕が本作を描くには、とにかくたくさん調べることで気持ちに寄り添うしかないと。関連するノンフィクション本は20冊以上、YouTubeで当事者の体験談を数多く見て、共通点を探りました。
――審査員の言葉で印象に残ったことは?
〇武田さん:脚本家の荒井修子さんが授賞式の際、「信じられるよすがを探しているように感じられた」と講評してくださり、それは自分が取材した宗教2世の方々の葛藤そのものだったので、「伝わったんだ……」と安心しました。一生大切にできる御守りのような言葉です。
――今回応募するにあたって何か対策はしましたか?
〇武田さん:過去10年分の大賞作と選評は読みました。コンクールによって、それぞれ求められる作品テイストは若干違うと思うので、その空気感を掴むのは大切だと思います。
創作テレビドラマ大賞は毎年、審査員のかたが総評で「こちらに挑んでくるような気概のある作品を」という旨のコメントがされているなと思い、自分の中で最大限チャレンジングな作品を描こうと決めました。
――受賞作『塔の三姉妹』を書こうと思ったキッカケと、今回感じたことを教えてください。
〇武田さん:良くも悪くも、自分が信じるものを、自分で決めなくてはならない時代だと感じており、それが今を生きる難しさだと思っています。
だからこそ、信じられるものを探している人たちの葛藤を描くことに意味があるんじゃないかと。最後まで書くか迷いましたが、自分にとっても公募的にも挑戦的なテーマになるかもしれないと思い、踏み切りました。
実際に描いてゆく中で強く感じたのは、「人は自分の生まれてくる家庭環境や経済状況、身体的特徴などを選ぶことができない」ということ。人生は「自分では選べなかったこと」によってある程度の方向が決まってきてしまう。そこには、努力や精神力ではどうにもならない問題も沢山ある。そういった前提を改めて意識するようになった執筆期間でした。
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※このほか、お二人にお話しいただいたコメントと受賞作のシナリオが『月刊シナリオ教室 2022年2月号』に掲載されています。併せてご覧ください。
※これまでもシナリオ・センターの在籍生&出身生が創作テレビドラマ大賞を受賞しています。
■第44回創作テレビドラマ大賞/自分が書きたいものを書いて賞をとるには
■第43回創作テレビドラマ大賞/脚本家になるには“出し続ける”
- 「シナリオは、だれでもうまくなれます」
「基礎さえしっかりしていれば、いま書いているライターぐらいには到達することは可能です」と、新井一は言っています。
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