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物語を面白くするリトマス法

ある人が書くと面白いシナリオになるのに、別の人が書くとあまり面白くならなかったりします。それってなぜなんだろう?というお話を今回はご紹介。シナリオだけでなく創作全般に通じる話ですので、小説やマンガ原作を書きたい方も是非参考にしてください。

このコーナーでは、「自分にはシナリオを書く才能がないかも……」と悩んでいるかたへ、面白いシナリオが書けるようになるちょっとした“術”を、シナリオ・センター講師・浅田直亮著『いきなりドラマを面白くする シナリオ錬金術』(言視舎)&『月刊シナリオ教室(連載「シナリオ錬金術」)』よりご紹介いたします。

面白くするにはシーンとディテール

ちょっと想像してみてください。

まったく同じストーリーで何人かの人がシナリオを書いたとします。
まったく同じストーリーなんだから、みんな同じぐらい面白いシナリオになると思いますか?

まず、そんなことはないでしょう。

ある人が書くと、より面白いシナリオになるし、別の人が書くと、あまり面白くならなかったりします。さらに同じストーリーというだけでなく、まったく同じシーン運び(構成)でシナリオを書いたとしても、やはり、より面白く書ける人と面白くならない人がいます。

その違いって何でしょう?どうすれば、より面白いシナリオになるのでしょう?

それはディテールです。シーンの面白さと言い換えてもいいでしょう。

一方で「構成が難しい」という言葉をよく聞きます。どうも、みなさん、あれこれ構成を考えてシーンを組み立て直したりして、でも、なかなか面白くならない、だから構成は難しいと感じているのではないでしょうか。

確かに構成の妙というか、シーンの組み立てによって面白くなることもあるにはありますが、それは相当ハイレベルで、プロのシナリオでも、めったにないぐらいです。

つまり、みなさん、難しいことをやろうとし過ぎて「構成が難しい」と思ってしまうのです、難しいことをやろうとして難しいと感じるのは当然です。

構成はいい加減でいい、とは言いませんが、あまりこだわらなくていいのではないでしょうか。面白くするための土台をしっかり作っておくぐらいの気持ちで。その上で、どうシーンの面白さをプラスしていくかを考えてみてください。

木を見て森を見ずという言葉があります。部分部分の細かいことばかりに目を向けて全体を考えないことを戒める言葉です。が、シナリオでは、もちろん全体も疎かにはできませんが、むしろ、面白くなるのは部分部分、一つ一つのシーンでありディテールです。

というわけで今回は、森を見るより木を見よう!の術です。

リトマス法を使う

じゃあ、部分部分、一つ一つのシーンを面白くするには、どうすればいいでしょう?

それこそ、いろんな方法があります。というか、このシナリオ錬金術は基本的に、どうすれば部分部分の面白さをプラスできるかというテクニックを紹介してきました。

また、みなさんが書かれている20枚シナリオ(あるいは講座の課題の2枚から20枚までのシナリオ)は、この部分部分の面白さを身につけるトレーニングでもあります。

で、今回は、リトマス法の話をしてみたいと思います。まずはリトマス法の復習を。

たとえば、ある人物が道を歩いていて、すれ違う人と肩がぶつかったとします。「すみません、すみません」とペコペコ謝るのか「気をつけろ、コノヤロー」と毒づくのかで、キャラクターの違いや、その人物の感情を描いたりできます。

肩がぶつかるという出来事をぶつけて、リアクションさせているわけですね。これがリトマス法です。何をぶつけて、どうリアクションさせるのか、それを工夫することで、より面白いシーンやディテールを作ることができます。

連続ドラマ『タイガー&ドラゴン』の第7話『猫の皿の回』に、こんなシーンがあります。

長瀬智也さん演じる山崎虎児はヤクザですが、借金の取り立てがきっかけで西田敏行さん演じる林家亭どん兵衛と知り合い落語家の世界へ足を踏み入れます。一方、岡田准一さん演じる谷中竜二は、どん兵衛の息子で落語家として優れた力量を持ちながら、林家亭一門を破門になり落語の世界から遠ざかっています。

しかし、竜二に再び落語をやらせたいと思い、竜二自身も実はそれを望んでいると感じていた虎児は、素人お笑いスカウトキャラバンが行われると知り、竜二を出場させようとします。

虎児は、竜二が欲しがっていた超レアものヴィンテージジーンズを手に入れスカウトキャラバンの賞品にしますが、それでも出場を渋る竜二に、素人に負けるのが怖いんだろう、と言います。ここで、冗談じゃない、だったら出場してやるよ、となると、ありきたりで普通のシナリオです。

ここでは竜二は、心は揺れたものの出場には至りません。そんな時、竜二は、伊東美咲さん演じるメグミとデートします。竜二はメグミが大好き。メグミはテレビのお笑い番組を観て笑いながら、この人面白い、超好き、と言います。竜二が、俺とどっちが面白い?と聞くと、そんなの竜ちゃんに決まってんじゃん、と答えます。が、その後、でも、ふかわりょうは竜ちゃんより面白い、超好きぃ! と。

これで竜二はスカウトキャラバンに出場を決意するのです。ふざけるな、ふかわりょうなんかより俺の方がずっと面白いことを見せてやる!といった感じでしょうか。ストーリーとしては、竜二が素人お笑いスカウトキャラバンへの出場を決意するというだけです。

その出場を決意するというリアクションを導き出すために何をぶつけるのか?それが、ふかわりょう、なのです。

脚本の宮藤官九郎さんは、今まで観たことがないような新鮮で個性あるシナリオを書かれますが、ポイントの一つが、このリトマス法です。何をぶつけて、どうリアクションさせるかが今までになく新鮮で個性にあふれているのです。

『オー・ブラザー』の独特なエピソード

もう一つ『オー・ブラザー!』という映画を例にあげてみたいと思います。監督はジョエル・コーエン、製作が弟のイーサン・コーエン、脚本は兄弟というコーエン兄弟の映画ですが、コーエン兄弟の作品も独特の個性にあふれています。

ストーリーは、囚人のエヴェレット(ジョージ・クルーニー)が鎖でつながれた囚人ピート(ジョン・タトゥーロ)とデルマー(ティム・ブレイク・ネルソン)を誘って脱獄します。エヴェレットが盗んで隠したという大金を手にいれるため、追っ手から逃れ、さまざまな人と出会いながら旅をするロード・ムービーです。

と、ストーリーは、特に今までにない新鮮さや個性があるわけではなく、むしろ、ありがちなパターンといえるかもしれません。が、出会っていく人物のキャラクターが、どれも個性的。そして、そんな個性あふれる人物が巻き起こす事件やエピソード、シーンが独特なのです。

たとえば、こんなシーン。主人公たち三人組は、川岸で洗濯する三人の美女と出会います。美女たちは歌を歌いながら主人公たち三人組を誘惑してきます。

次のシーンでピートが目覚めると、デルマーの姿がありません。服だけが石の上に大の字になった状態で残されています。まるで中身だけ消えてしまったように。

と、服の中から蛙が一匹。それを見たピートは悲鳴を上げ、美女たちがデルマーを蛙に変えた!と。そして、川に逃げる蛙を追いかけ捕まえて、俺だよ、デルマーだろ?分かるか!と必死で呼びかけます。

さらに、蛙を箱に入れ旅を続けていると、片目の大男が目をつけてきます。ピートが箱を大事そうにしているので大金が入っていると勘違いして。片目の大男はピートとエヴェレットに襲いかかり箱を奪います。が、開けてみると蛙。大男は怒って蛙を握り潰します。

ピートとエヴェレットは、デルマーが大男に握りつぶされ死んだと思うのですが、二人の前にデルマーが姿を現します。実は蛙にされたわけではなく、美女たちに賞金稼ぎのため警察に突き出されていただけだったのです。

このシーンやディテールを面白くする、「森を見るより木を見よう!」の術、20枚シナリオはもちろんですが、コンクールのシナリオを書くときに特に意識してしてみてください。コンクールで最も求められるのは今までにない新鮮さです。

それは題材ももちろんなんですが、題材が新鮮でもシーンやディテールがパターンだとありきたりに感じられてしまいます。また、1時間以上のシナリオを書こうとすると、どうしてもストーリーを運ぶことばかりにとらわれてしまいがち。ぜひシーンやディテールの面白さに力を注いでみてください。

出典:『月刊シナリオ教室』(2010年3月号)掲載の「シナリオ錬金術/浅田直亮」より
次回は3月26日に更新予定です

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