「私は30代半ばでシナリオを学び始め、遅いスタートでしたが、“好き”を追求しているうちに、結果が生まれてきたように感じています」(元作家集団 京橋史織さん)
京橋さんは一般企業に勤務しながらシナリオ・センターで脚本を学び、研修科クラスのときに第28回BKラジオドラマ脚本賞(※BK=NHK大阪拠点放送局)の佳作を、作家集団クラスのときには第39回創作ラジオドラマ大賞の大賞を受賞。
その後、スイスへの転居をキッカケに小説執筆を開始。2021年、『プリマヴェーラの企み』で第8回新潮ミステリー大賞を受賞。本作は『午前0時の身代金』に改題され、今年3月18日に単行本として発売されました。
発売を記念して、京橋さんのコメントをご紹介。シナリオ・センターに入ってから、今回の『午前0時の身代金』上梓に至るまで、どんなふうに“好き”を追求していったのか、お話をお聞きしました。
自分の興味があることを進んで学び、分析し、鍛錬を重ね、小説家デビューされた京橋さんの言葉。「自分もやってみよう!」と背中を押してもらえますよ。ぜひ参考にしてください。
「創作は特別な人ができるものだと思っていたけれど、急に身近に感じて」
――どんなキッカケでシナリオ・センターに入学されたのですか?
〇京橋さん:大学卒業後は一般企業に入社し、読書や映画が好きな会社員でした。30代半ばのある日、内館牧子さんのエッセイ『切ないOLに捧ぐ』を読んだんです。会社員をしながらシナリオ・センターに通ったと書かれていました。
それまでは、創作は特別な人ができるものだと思っていたけれど、急に身近に感じて、どんなところだろうと……。入ったらとにかく楽しくて、夢中で毎週書いていました。
――コンクール応募はいつごろから?
〇京橋さん:ゼミに進むと周りの人が応募していて、先生も上手にほめてくださるので、その気になって書いては出すを繰り返していました(笑)。
創作テレビドラマ大賞やフジテレビヤングシナリオ大賞、テレビ朝日新人シナリオ大賞などにも出しましたが、研修科でBKラジオドラマ脚本賞の佳作をいただき、作家集団で創作ラジオドラマ大賞の大賞をいただきました。
――受賞をキッカケにラジオドラマのお仕事を始められましたよね?
〇京橋さん:NHKFMのラジオドラマ番組『青春アドベンチャー』やAKB48のメンバーが出演する『AKBラジオドラマ劇場』などを書かせていただきました。
シナリオ・センターの「ライターズバンク」で募集されていた映画やドラマのプロットなどにも応募して、多くの書く機会をいただきました。
ただ何も知らないまま受賞してしまい、仕事を始めてしまったので、あとでかなり苦労しました。もっと基礎技術を固め、自分がどういうものを書いていきたいかを意識して、プロへの準備をしておくべきだったと思いました。
いったんシナリオから離れて小説へ
――そこからどのように小説へ?
〇京橋さん:夫の仕事の都合で、スイスで生活することになり、いったん仕事から離れ、創作について見つめ直してみようと考えました。
また、お仕事で出会ったプロデューサーさんにプロットを読んでいただいた際、「君は小説に向いてる」と。そのことも気になっていて、小説を書いてみたいと思ったんです。
20代の頃から趣味で読書日記はつけていましたが、小説は書いたことはなかったので、スイスにいる間に書いてみようと、執筆し始めました。
――どんなふうに小説を書いていましたか?
〇京橋さん:最初、長編を書こうとしたら、途中で詰まりました……。そこで執筆感覚を掴むために、まずは50枚~100枚の短編を習作のつもりで書いていきました。
15本くらい書いて、その中で自分が一番好きなものを、双葉社の小説推理新人賞という短編80枚のミステリーの賞に応募してみたんです。そうしたら最終候補に残していただき、結果は落選しましたが、「少しは上達しているのかな」と思って、小説を書き続けました。
――それからすぐに長編を書けるようになったんですか?
〇京橋さん:いえ。500枚に挑戦したのですが、これがなかなか書けない。とにかくヘタでもいいから最後まで書き切ろうと、半ば意地になって書いた感じです。
1作目の長編は、結局1年くらいかかりましたが、走りきった高揚感がたまらなくて、これは病みつきになると思いました(笑)。
ただ、少し時間をおいて、プロの作品を読んだ後自分の作品を読むと、ダメだ、こりゃと(笑)。強引に結末にもっていくため人物が都合よく動いていたり、面白くしようと捻りすぎてテーマに一貫性がなかったり。
それでいったん捨てて、ゼロからまた書くことを繰り返し、4~5作は書きました。
――小説にシナリオの技術が役立った点は?
〇京橋さん:人物造形の技術でしょうか。シナリオは役者のかたが演じるので、行動やセリフに矛盾があることは許されない。もちろん、それは小説も同じなので、各人物の視点でセリフをしっかり確認する癖がついているのは、役立っていると思います。セリフが自然だと言っていただけることがありますので。
『午前0時の身代金』について
――第8回新潮ミステリー大賞を受賞されたときはどんなふうに感じましたか?
〇京橋さん:小説を書き始めて8年目です。自分なりの熱意を詰め込んだ作品が受賞に至り、とても嬉しく思います。やっと“小説”が書けたのかなと思いました。
――「誘拐された被害者女性・菜子の身代金10億円をクラウドファンディングで国民から募集させる」という設定はどのように思いついたのですか?
〇京橋さん:スイス在住時、イスラム国によるテロや誘拐が各地で勃発していて、国により報道や世論が大きく異なるのを目の当たりにしていました。その時ふと、もし、身代金をクラウドファンディングで国民から集めろと要求する誘拐事件が起こり、世論が揺れ動いたらどうなるだろうか?と思ったのがきっかけです。
この「クラウドファンディングで身代金を募集する」というアイデアが、自然と「謎」を生んでくれました。
通常の誘拐事件は、親族に身代金が要求され、非公開で事件が進行します。なのに、この事件の場合、なぜクラウドファンディングで公に身代金を募集させるのか?
なぜ親族じゃなく国民に身代金を要求するのか?
犯人の目的は何なのか?
など、次々と「謎」が立ち上がってきて、結果、誘拐事件のセオリーをひっくり返すことができました。その上で、テーマとつなげて解決するにはどうしたらいいかと考えていきました。
――本作は単行本として発売。“読みどころ”を教えてください。
〇京橋さん:身代金を募集する過程でフェイクニュースや憶測が飛び交い、人々がSNSに振り回され、募金が止まったりします。
果たして、身代金は集まるのか?
被害者は助かるのか?
そのあたりをぜひ楽しんでいただければと思います。
* * *
※『月刊シナリオ教室 2022年1月号』では京橋さんのインタビュー「第8回新潮ミステリー大賞を受賞して」が掲載されています。これまでの道のりの他、執筆のコツを伺っています。小説に興味のあるかた必読です!
https://www.scenario.co.jp/online/29398/
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