脚本家でもあり小説家でもあるシナリオ・センターの柏田道夫講師が、公開されている最新映画を中心に、DVDで観られる名作や話題作について、いわゆる感想レビューではなく、作劇法のポイントに焦点を当てて語ります。脚本家・演出家などクリエーター志望者だけでなく、「映画が好きで、シナリオにもちょっと興味がある」というかたも、大いに参考にしてください。普通にただ観るよりも、勉強になってかつ何倍も面白く観れますよ。
-柏田道夫の「映画のここを見ろ!」その53-
『ドリームプラン』貫通行動と困らせるための対立・葛藤・相克
テニスに詳しくなくても、誰もが知っているスーパープレヤー、ビーナス&セリーナ・ウィリアムズ。この姉妹を育てた父、リチャードを主人公とした『ドリームプラン』を取り上げます。
原題は『King Richard』で、実際にリチャードは、あまりの偏屈さと君臨ぶりにそう呼ばれていたとか。もうひとつシェークスピアの名作『リチャード三世』を下敷きにしていて、この戯曲に登場するリチャード王も、策略家ぶりでのし上がっていく人物です。
リチャードを演じるのは、製作にも名前を連ねているウィル・スミスで、過去に二度のノミネートがありますが、今回こそ三度目の正直で、アカデミー主演男優賞を受賞しそうな熱演でした。
リチャードの一家は、ロスの治安の悪い地区に五人の娘と妻と暮らしています。リチャードはかなり変人で、テニス未経験ながら、ふたりの娘が生まれる前に独学で「世界王者にする78ページの計画書」を作り実行していく。
このサクセスストーリーを描いていくのですが、とにかくリチャードのプランを進めていく頑固ぶり、徹底ぶりがキャラクターとしての要です。
拙作の例で申し訳ないのですが、磯田道史先生による歴史書『武士の家計簿』を映画化する際に、まずテーマとして掲げたのが「親子鷹」でした。父親が息子に家業としての算用術、すなわち算盤の技術を鬼となって叩き込む話。そこから家族愛であったり、結果的に父から教わった技術や精神が、乱世を生き抜く教えになったということを理解する。
さて、このコラムでも過去に、人物の「動機」と「目的」があって、それゆえに「貫通行動」が生まれる、ということは何度も述べてきました。(※)
『武士の家計簿』で堺雅人さんが演じた猪山直之の貫通行動以上に、本作のリチャードの動機と目的、貫通行動は一貫しています。「娘二人を世界チャンピオンにする」なのですが、この物語の場合は特に、このサクセスプランが成功したことを、観客は承知した上で見ています。
ですが、それでも観客を引っ張って、おもしろく見せていけるのは、常識外の彼のプランをいかに進めていくかというその過程と、リチャードの貫通行動ゆえに生じるドラマ要素、いわゆる「対立・葛藤・相克」の連続です。人物同士の利害の違いや欲望、互いの目的の違いから「対立」が生じる。さらに人物が悩んだり、障害にぶつかることで揺れる、ゆえに「葛藤」する。
さらに「相克」というのも、ほぼ対立・葛藤と同意義ですが、辞書によると「対立・矛盾するものが互いに争いあうこと」です。
リチャードは自身で練りに練ったプランを信じて進めますが、次々に障害に見舞われる。スラム街のテニスコートには、ストリートギャングたちが現れて暴力沙汰になる。このギャングたちとの「対立」と、排除しようしてリチャードがある行動にでようとする展開は、まさに激しい「葛藤」です。
さらには、実力を発揮し始めて注目されるようになったビーナスを、ジュニア大会には出さないというプランで生じる対立や、娘との相克。
実際にジュニア期に頭角を表すプレーヤーは、その後に燃え尽き症候群になって、消えてしまうケースが多く、リチャードのプランはそれも想定していたということ。さらに極めつきは、教育方針を巡っての妻オラシーンとの対立、これこそまさに「相克」です。
そういえば『武士の家計簿』でも、主人公・直之が息子に行った教育法で、妻のお駒から激しくなじられるシーンを作ったことを、『ドリームプラン』の夫婦のぶつかり合うシーンで思い出しました。この葛藤や相克は、リチャードだけでなく、ビーナス自身もクライマックス部分で描かれますし、妹のセリーナの場面でも踏まえられています。
サクセスストーリーのおもしろさは、最後に主人公が勝つにしろ負けるにしろ、そのプロセスを描きながら、いかにドラマ要素を踏まえていけるか、人物たちを困らせるかがポイントです。そのおもしろさ、展開のさせ方を『ドリームプラン』から、しっかりと盗んで下さい。
※柏田道夫の「映画のここを見ろ!」その8
『ホワイト・クロウ 伝説のダンサー』主人公の葛藤と、一貫した動機と目的
▼貫通行動についてはこちらの記事もご覧ください。
脚本の勉強になる映画『フォルトゥナの瞳』
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映画『ドリームプラン』日本版予告 2022年2月23日(水・祝)公開
-柏田道夫の「映画のここを見ろ!」その54-
『ガンパウダー・ミルクシェイク』アクションシーンのアイデアを磨け
脚本家志望者とかが、めったに書くことがないジャンルの代表こそ「アクション」かもしれません。
研修科の終盤の課題で「ジャンルもの」があって、その中に「アクション」もあるのですが、最後の「時代劇」と双璧で皆さん結構悩むようです。確かに、ジャンルとしても縁遠いし、アクションシーンをどう描くか、ト書とかでどこまで描くか?というのはなかなか難しいかもしれません。
そういう人こそ、今回取り上げる『ガンパウダー・ミルクシェイク』を、ぜひとも参考にして頂きたい。
監督(共同脚本も)はイスラエル出身のナボット・パプシャド。前作『オオカミは嘘をつく』が、クエンティン・タランティーノに絶賛されて抜擢されたという触れ込みですが、まさに本作もタランティーノタッチで、実にスタイリッシュで爽快、スカッとするハードアクションに仕上がっています。
ファームという謎の組織に雇われている腕利き殺し屋のサム(カレン・ギラン)は、12歳の時に、やはり殺し屋だった母スカーレット(レナ・ヘディ)から捨てられたことが心の傷。
組織の金を持ち逃げした会計士をターゲットにしたところ、彼の幼い娘エミリーを匿うはめになる。そこからトラブルに巻き込まれ、ファームや犯罪組織が送り込む刺客たちと壮絶な闘いを繰り広げます。
この幼い子を守りつつ主人公が闘う、という設定は定番中の定番で、新しくはありません。例えば『レオン』(ジャン・レノとナタリー・ポートマン)であったり、『アジョシ』(ウォンビンとキム・セロン)、『マイ・ボディガード』(デンゼル・ワシントンとダコタ・ファニング)などが思い出されます。これらはテッパンですが、強い男と少女という組み合わせがほとんどです。
おっと、先駆け的な傑作がありました。ジーナ・ローランズが少年を守って組織と闘う『グロリア』です。これは強くてタフな女と少年という逆の組み合わせでした。未見の方はぜひぜひ!しびれますよ。
さて『ガンパウダー・ミルクシェイク』の新しさ、今の時代ならではなのは、ヒロインのサムや母スカーレット、さらに後半から加わる(殺しのプロの)図書館司書3人が皆女性たち。図書館組の一人は、お久しぶりのミシェル・ヨー! ボンドガールでもあるのですが、何と言っても『グリーン・デスティニー』の“武侠女子”ですよ。
そんな彼女たちが、ガンやマシンガン、ショットガンをぶっぱなし、手榴弾を炸裂させて男どもをバンバン撃ち殺す。そういう単純なアクション映画です。
で、「今回のここを見ろ!」は、そのアクションシーンのアイデアです。アクションなんて、主人公が銃をぶっぱなしたり、格闘技で殴り合えばいい、と思いがちです。あるいはカーチェイスだったり、爆発だったり。そういうシーンは、これまでのアクション映画で、散々見てきたわけで、大差はないと思うかもしれません。ですが、その単純なアクションも、場所やシチュエーションでいくらでも新味が出せます。その見本が本作に溢れているのです。
ネタバレになるので詳しくは書きませんが、例えば、(大いに笑える)三人組の殺し屋とサムとの死闘。最初はボーリング場で、次は(特殊な)病院内での戦いとなるのですが、サムはとんでもないハンデを負うことになります。ファイターとして致命的なハンデなのですが、それをいかにクリアして闘うか?さらには地下駐車場でのカーアクションまで、もう笑ってしまうおもしろさ。
さらに図書館という場所も注目。ここにいる司書の彼女たちとの関係性ややりとり、ジェイン・オースティンやヴァージニア・ウルフの本とかの絶妙な使い方。これこそがアクションをおもしろくするアイデアです。
ト書でアクション(殺陣や振り付けなど)をどこまで書くか、といったことよりも、この映画みたいに、シーン(柱)やシチュエーションとかを、具体的に描けばいいのです。
例えばサムがどういう目にあってどうなるのか?
お笑い三人組がどうしてああいう会話を交わしながらサムと闘うのか?
そうしたところをしっかり描写して、それらにアイデアが発揮できれば、今までにないアクションものが描けるかもしれないわけです。
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キノフィルムズ
映画『ガンパウダー・ミルクシェイク』予告編|3.18(fri)全国公開
- 「映画が何倍も面白く観れるようになります!」
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