「2時間くらいの映画やテレビドラマって、シナリオはどう書くんだろう?」「2時間ものって書くの難しそう……」。そんな疑問をおもちの方(シナリオにちょっと興味がある方も、既にシナリオを書いている方も)は、今回ご紹介する方法を参考にしてください。
このコーナーでは、「自分にはシナリオを書く才能がないかも……」と悩んでいるかたへ、面白いシナリオが書けるようになるちょっとした“術”を、シナリオ・センター講師・浅田直亮著『いきなりドラマを面白くする シナリオ錬金術』(言視舎)&『月刊シナリオ教室(連載「シナリオ錬金術」)』よりご紹介いたします。
2時間ものだって怖くない
今回は2時間もののシナリオについての話をしたいと思います。「えーッ! 2時間?書けないよ!」と思われる方も多いのかもしれません。
このシナリオ錬金術は基本的に、ゼミや通信などで20枚シナリオを書いている人に、すぐに役立つようなコツや考え方を紹介していますが、普段20枚シナリオをしっかり書いている人なら、2時間ものだって怖くありません。
とはいえ、まだ1時間もの(※)も書いたことがないという方は、いきなり2時間にチャレンジしてもいいのですが、やはり1時間ものを書いてみてから2時間ものを書くほうが、おすすめです。
※「1時間もの、どうやって書けば……」という方はこちらをご覧ください。
▼1時間もののシナリオを書くとき
1時間ものは書いたことはあるけどアップアップだったし、とても2時間ものなんて……という方、ぜひ一度、2時間ものにチャレンジしてみてください。
まあ、確かに2時間ものは大変は大変なんですが、アップアップさ加減は、1時間ものとそんなに変わらないはずです。で、2時間ものを一度書いてしまうと、1時間ものが、ずっとずっとずーっと楽に書けるようになります。
2時間ものを書いたことがあるけど、途中でへばっちゃって……という方も、ちょっとしたコツで、ずいぶん楽に書けるようになります。ぜひ今回の錬金術を参考にしていただいて、懲りずにもう一度トライしてみてください。
じゃあ、そのコツとは何かというと、二つのドラマを組み合わせることです。20枚シナリオや1時間もののシナリオではドラマを一つに絞りこんで、そのドラマをしっかりと描くことがポイントになります。
おそらく、これまで2時間ものを書いてみた時に途中でへばってしまった方は、普段の20枚シナリオや1時間もののシナリオを書いている時の癖で、一つのドラマをしっかり描こうとしたのではないでしょうか。
もちろん2時間ものでも一つのドラマをしっかりと描いている例がたくさんあります。が、一つのドラマで2時間描くのは、なかなか大変です。でも二つのドラマを組み合わせれば、途中でへばってしまうなんてことは激減するはずです。
おつまみの柿の種ってピリッと辛くて、もちろんそれだけでも十分美味しいですよね。ピーナッツも、やはり、それだけで十分美味しいのですが、この二つが組合わさると、もう不思議なくらい、どんなに食べても食べ飽きることなく、それどころか、やめられなくなってしまい、引っきりなしに手が伸びてしまいます。
そんな感じで二つのドラマを組み合わせることで、途中へばらず2時間ものを書き切ってみてください。というわけで今回は、飽きない止まらない柿ピーの術!
『ロッキー』の二つのドラマ
映画『ロッキー』を観てみましょう。ストーリーは、まったく無名のヘビー級ボクサー・ロッキー(シルヴェスター・スタローン)に、タイトルマッチの挑戦者が負傷し対戦相手を探していた世界チャンピオンが白羽の矢を立てます。挑戦者に指名されたロッキーは特訓に特訓を重ねますが、タイトルマッチの前日、どうしても自分はチャンピオンに勝てないと悟ります。
しかし、もし15ラウンド戦って立っていられたら(当時の世界タイトルマッチは15ラウンド。つまり試合が終わってもノックアウトされずにいたら、という意味)自分がゴロツキじゃないってことが証明できると自分に言い聞かせリングに上り、チャンピオンと死闘を繰り広げ…というボクシング映画です。
このドラマに、もう一つのドラマが組み合わされています。ロッキーとエイドリアン(タリア・シャイア)とのラブストーリーです。
ロッキーは、一人暮らしのアパートの部屋で亀を飼っています。これはエイドリアンがペットショップに勤めはじめた最初の日に、亀と飼育セットを一式買ったものです。ロッキーは毎日ペットショップへ通ってきてエイドリアンに話しかけるのですが、下手なジョークばかり言っていて、自分の気持ちを伝えられません。エイドリアンも人一倍、内気で無口なため、ただオドオドするばかりです。
ところが感謝祭の日、エイドリアンの兄が強引に二人をデートさせたことで、ようやく不器用なキスを交わし……。
そして、世界タイトルマッチを戦い終えたロッキーは、腫れ上がり傷だらけの顔で、ただただ「エイドリアン!」と叫びます。インタビュアーが試合の感想を聞いても、判定が下されても「エイドリアン! エイドリアン!」と叫び続けます。
エイドリアンも熱狂する観客の中をかき分け、リングに上り、ロッキーに抱きつきます。感涙のクライマックスです。
二人のラブストーリーはロッキーのタイトルマッチ挑戦のドラマに、ほとんど影響しません。エイドリアンが障害になることもありませんし(エイドリアンの兄との確執はありますが)、もちろん特訓を重ねる主人公にとって精神的な安らぎにはなるだろうとは想像できますが、とりたてて、そこを描いたシーンもありません。
ただ、このクライマックスからラストのシーンで、二つのドラマが結びついているのです。
『タイタニック』と『ぐるりのこと』
映画『タイタニック』も、超豪華客船タイタニック号沈没のドラマと、船上で運命的に出会った貧しい画家志望の青年ジャック(レオナルド・ディカプリオ)とイギリスの上流階級の令嬢ローズ(ケイト・ウィンスレット)のラブストーリーが組み合わされています。
『ロッキー』と違うのは、タイタニック号沈没のドラマとジャックとローズのラブストーリーが絡み合っていることです。
特に後半、タイタニック号が氷山にぶつかり浸水し始めた時、ジャックはローズの婚約者に陥れられ、宝石泥棒の濡れ衣を着させられて船底の船倉に手錠でつながれてしまいます。ローズは母親と一緒に一刻も早く救命ボートに乗るよう促されますが、踵を返し船底に駆けつけ、海水が押し寄せる中、斧で手錠を叩き切ってジャックを助け出します。
二人は何とかボートデッキにたどり着きますが、ローズを救命ボートに乗せようとしたジャックは、ローズの婚約者と協力します。一度はボートに乗ったローズですが、やはりジャックと離れられずタイタニック号に飛び移って戻ってきてしまいます。
嫉妬した婚約者は二人を拳銃で撃ち始めます。二人は、より浸水の激しい方へ逃げるしかなく、再び押し寄せる海水に飲み込まれそうになります。
そのあとも二人に次々と危機が訪れ、何とか乗り越えると、また危機が……というドラマがあって、別れのクライマックスになるのですが、そこも、救命ボートに乗る人たちが海中に放り出された人たちを救うか救わないかというドラマと絡み合っています。
映画『ぐるりのこと』も、法廷画家という職業もののドラマと夫婦愛のドラマ、二つのドラマを組み合わせています。
リリー・フランキーさん演じるカナオは美大を卒業しながら靴修理の仕事で収入を得ていましたが、先輩に紹介されてニュース番組で使う裁判の被告人などの絵を描く法廷画家の職に就きます。慣れない職場に戸惑いながら、さまざまな事件の被告人たちを目撃していきます。
一方、木村多江さん演じる妻・翔子は出版社に勤め、週3日はカナオとの「する日」を決めている、何事にもきちんとしなければ気がすまない性格。初めての子の死をきっかけに精神のバランスを失い、うつを患っていきますが、やがて、力強く立ち直っていきます。
この二つのドラマは、最初から最後まで並行して描かれ、ほとんど絡み合いません。クライマックスで結びつくこともありません。
ただ、妻のうつ病という公私の私の事件と、裁判で目撃する宮崎勤による連続幼女誘拐殺人事件やオウム真理教による地下鉄サリン事件といった、実際に起こった犯罪事件とが対照的に描かれ、よりドラマが鮮明に浮かび上がってきています。
すべての映画や2時間ドラマが、二つのドラマを組み合わせているわけではありませんが、結構たくさんあるので、今まで観て面白かったなあと思った映画や2時間ドラマを、いくつか思い出してみてください。その中に必ず2つのドラマを組み合わせているものがあるはずです。
それを参考に、ぜひ2時間ものにも臆せずチャレンジしたり、よりレベルアップを図ってみてください。
出典:『月刊シナリオ教室』(2011年3月号)掲載の「シナリオ錬金術/浅田直亮」より
★次回は5月21日に更新予定です★
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