「子どもの考える力を伸ばすにはどうしたらいいんだろう?」とお悩みの親御さんや先生方。考える力を伸ばす1つの方法が「創作」です。
その一例として、小学校高学年~中学生向けシナリオ教室「考える部屋 1期 Season1」の、1年間の集大成として開催した「大発表会」の模様をご紹介。
子どもたちがこの一年間、創作を通してどんなことをどんな風に考えてきたかが分かるコメントを中心に、広報の齋藤がリポートいたします。
子どもたちのいろいろな「考える」
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「考える部屋 1期 Season1」(全24回)は、2021年6月22日にスタート。
2021年11月30日には中間発表会を開催。
>>その模様はこちらで
そして2022年6月7日の最終回では「大発表会」を開催。大発表会にあたり、以下の条件で作品を書いてもらいました。
・課題テーマ「夏休み」。
・枚数はペラ10枚(=200字詰め原稿用紙10枚)。
・主要な登場人物は3人くらいで(※3人だと本音と建前が交錯して物語が面白くなるので)。
今回はなんと『ちびまる子ちゃん』の“藤木の声”などを担当されている声優の中友子さんに演じていただきました!
また、「考える部屋」レギュラーメンバーである脚本家の田嶋久子さんにも、子どもたちと同じ課題テーマでシナリオを書いていただきました。田嶋さんは、一度ゲストとしていらしていただいてから、子どもたちと一緒に“勉強する側”でご参加いただき、「ちゃこさん」というニックネームで呼ばせていただいております。
一年間、みんなの成長を見守ってきた新井や、講師陣のてっちゃん・もんちゃん・ヒロくん(※考える部屋では「先生」とは呼びません)は、子どもたちの作品や作品に込めた想いを聞いて感無量。
実際、どんな感じだったのかというと、例えば、「考える部屋」メンバーのひとりであるAさんは、沖縄の小学6年生の女の子3人を描いた作品『真夏のエイサー隊』についてこうコメントしました。
〇Aさん:舞台に「沖縄」を選んだのは、「夏休み」という課題で、夏で一番熱くなるところで、気持ちも熱くなるところっていうのは沖縄のエイサーかなって。沖縄は情景とかもキレイだし、だからなんか沖縄にしてみようかなって思って。
だけど、沖縄ってなったら方言もちょっと頑張らないといけなくて。沖縄の方言は聞いたことがなかったので、頑張って調べて書いたんですけどあんまり自信はありません。
でも、自分が「ココをこうしよう」って工夫していたところを、皆さんに褒めていただいたので、すごく伝わっているんだなっていうのが分かって嬉しかったです。
また、もうひとりご紹介。Sちゃんは、20代会社員の男性3人を描いた作品『流れに逆らえない僕らは 明日も川を下る』についてこうコメント。
〇Sちゃん:今回の課題は「夏休み」。どうしても「夏休み」っていう言い方になると“学生”にちょっと寄っちゃうなと思ったので、「いや、ここは大人の夏休みを考えてみよう!」と思って、登場人物を大人にしました。
あと、やっぱり女の子を描くことが多いので、大発表会だからこそ、ちょっと挑戦という意味で「異性」にしました。
大きい題材として、幸せの在り方をテーマというか、根幹に置いていて、自分が中三である今、進路とかこれからの未来のこととか考えなさいって言われることが多くて。みんな幸せを求めて生きているけど、実際、「自分は幸せ」って言いきれる人って意外と少ないなって。でも、幸せってそれぞれだから、それでもいいんだよ、みたいなイメージをこの作品ではつけたくて。
それから、登場人物の1人が愚痴を言うんですが、私が見てきた愚痴を言う場面って女の人が多いイメージがあって。だからこそ今回は、3人の中に1人女性を入れたりしないで、3人全て男性にして、「男の人に愚痴を言わせる」というので、若干ジェンダーレスになってきている社会を映せたらな、とイメージして書きました。
――この二人以外のメンバーも、それぞれ自分の作品について
〇Yくん:「このシーンをどうやって面白くするかっていうのをすごい考えました」
〇Bくん:「面白くしながら、ちょっと感動も入れるにはどうしたらいいか考えました」
〇Aちゃん:「今回は登場人物全員が小学校2・3年生の男の子。私自身が女子高に通っているということもあって、男の子は何を考えているのか全く分からなかったんですけど、“男の子!”って感じがする“わちゃわちゃ感”というか、そういうところをいろいろ考えました」
――とコメント。
子どもたちの作品に込めた想いから、以下のような
・「夏休み」という課題テーマから、発想をとばして、自分なりのアプローチを考える。
・これまでやったことがなかったことに敢えて挑戦して、いかに実現できるか考える。
・どう工夫すれば、自分が伝えたいことが人に伝わるのか考える。
――といった、いろいろな「考える」をした、ということが分かりますよね。
こういった沢山の「考える」が詰まった子どもたちの作品を読んでくださった中さんは、こんな感想を言ってくださいました。
〇中さん:もうね、すごかったですね、とにかく。
こんなこと言ったらあれですけど、お子さんが書いているとはほんとに思えなくて、最初シナリオをいただいたとき、「え?プロの人、入ってます?」って思いながら読ませていただいて、すごいなぁ!と思って。
あと、大人にはないキラキラしたこの発想力!今回参加できて本当に嬉しかったです。いっぱい感動しました。
その中で、ちゃこさんが、「プロとしての意地を見せた!」みたい感じもあってすごい面白かったですね。
最初、どの作品が一番いいのかなとか色々思っていたんだけど、甲乙つけられない!しかも、方向性が違っていて、それぞれのすごさがあって。いつかみんなが書いたホンがドラマになったりアニメになったり小説になったりするのを見てみたいなと本当に思いました!
プロの脚本家だって、悩んで 考える
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中さんのコメントに出てきた“ちゃこさん”の作品。実はこの作品誕生の裏には、「考える部屋」メンバーの助言がありました。
〇ちゃこさん:最初、主人公を11歳の女の子にしていたのですが、前回の「考える部屋」でみんなに内容を聞いてもらって、「主人公を11歳の女の子にするか、おばあちゃんにするか悩んでいるんだけど」って相談したら、「いや、このおばあちゃんを主人公にしたほうが面白い!」ってアドバイスをいただきました。やっぱり、こちらを主人公にして正解だったなと思いました。みんなありがとう!
――このコメントを受けて、大発表会で司会進行役を務めた新井が
〇新井:こうやって、ちゃこさんが参加してくださることで「あぁ、プロの脚本家も自分たちと同じように悩むんだ」って、みんなが感じることができるんですよね。これも「考える部屋」のいいところかなって思います。ちゃこさん、ありがとうございます!
――新井の言葉に、子どもたちはみんな「うんうん」と頷いています。
「考える部屋」で磨く “作家の腕”と“作家の眼”
最後に、「考える部屋 1期 Season1」の感想をメンバーのみんなに聞いてみました。
〇Yくん:最初のほうでは、ちょっと“片寄り”があるっていうか、ヘンな感じの脚本ばかり書いていたんですけど、だんだん自分の脚本っていうものを全体として客観的に見れるようになって、「どういうふうに作りあげていくのか」っていう工程が分かりました。
〇Bくん:最初は「面白く書きたい!」って思っても、面白さを求めすぎた結果、ヘンな物語になっちゃったりして。でもやっぱり、講師の皆さんとちゃこさんのおかげでいま、自分で言うのもあれですけど、ちょっと面白くしながら、ちょっと感動とかも入れたりして、成長できたと思います。
〇Aさん:通信講座も受けているんですけど、自分ひとりだけで勉強するのがちょっと難しいときもあって。でもこうやってみんなでやるとけっこう分かりやすくて、「こんな感じなんだな」ってすごく身についた感じがして。あと、みんなのシナリオを聞いたりすると、「こういう見方もあるんだな」とか、そういうことも分かって、いろいろ自分のものにできたかなと思います。
〇Sさん:最初のほうに書いた自分のシナリオを読み返したんですけど、ト書がほんとになくて。ひたすらセリフで“つめつめつめつめ”みたいな感じだったんですけど、いま私はけっこうト書にこだわりたくて(笑)。1年前はト書っていう言葉さえ知らなかったけど、オンラインでしか会ったことないけど、みんなでやってこれてムッチャ成長できたし、濃い1年間だったなと思います。
〇Aちゃん:最初は、自分の中でストーリーのイメージがなんとなくあるっていう感じだったんですけど、そこからいかに練るかっていうのをこの1年間で学べたかなって思います。
――また、当日はオーディエンスの方にもご参加いただき、大発表会の模様をご覧いただいた感想をチャットに入れていただきました。そのコメントがコチラ↓
・私も表現者の一人として大いに刺激を頂きました!
・皆さん一人一人がドラマを描くための「人を見る目」を持っていること、それをきちんと用いて人を捉えようとしている姿勢に、頭の下がる思いがしました!
・一年間学ばれたシナリオの技術を生かして、自分らしい作品に仕上げられているのが素晴らしいと思いました。
――この感想を聞いた子どもたちはとっても嬉しそうな顔。
新井も講師陣も胸がいっぱい。でも、ココで終わりではありません!
〇新井:今回の大発表会で書いてもらった作品。まずは「伝わる喜び」があったのかなと。でも、もしかしたら「伝わらない悔しさ」もあったかもしれないし、これからも出てくるかもしれない。
だけどそれは物語を書いているからこそ味わうことが出来るんじゃないかなと思います。
シナリオ・センターを創った新井一は、こんなことを言っています。
<基礎さえしっかりしていれば(身につけるという意味ですが)、今書いているライターぐらいには到達することは可能なのです。その上で、芸術家になれるかどうかは、その人のもっている思想や、人生観や、社会観や、ものの見方、さてはその人の生き方などの、つまり「作家の眼」がしっかりしているかどうかによります>
新井一 著『シナリオの基礎技術』P9
〇新井:これまで一年間、みんなは「作家の腕」を磨き、「作家の眼」も養ってきました。「作家の腕」は、創作の基礎を学び、実際に物語を書くことで磨きます。そして「作家の眼」は、創作を通して、さまざまな物事をいろいろな角度から見て・考えることで養います。この「作家の眼」は、作家になる以外にも、日常生活のあらゆる場面で活かすことができます。
だからこのシナリオ教室の名前も「考える部屋」にしました。物語作りをキッカケにいろいろなことに目を向けてもらえる、そんな時間になったんじゃないかなと思います。
そしていよいよ7月からは「考える部屋 1期」のSeason2がスタートします!これからも一緒に、考える力をグングンと伸ばしていきましょうね!!
――新井の〆の言葉で、大発表会は無事終了。
「ありがとうございました!」と手を振っている「考える部屋 1期」のメンバーを改めて見てみると、画面越しではありますが、表情も雰囲気も一年前とはまったく違います。
大発表会の模様を見ていたシナリオ・センター代表の小林は「作品の内容だけでなく、人の作品を聞いた後に発表する感想のコメントも本当に素晴らしかった。人の作品を批判することなく、相手の視点に立って考えた言葉で発言していて、なおかつ相手を心からリスペクトしているということがすごく伝わる。大人は見習わなきゃいけないね(笑)」と大・大・大感動。人の作品に対するコメントからも、子どもたちの「考える力」のすごさが分かります。
6/23(木)からは「考える部屋 2期」が開講。新たなメンバーを募集しております。創作好きな子どもたち、是非一緒に、創作を楽しみながら考える力を伸ばしていきませんか?ご参加をお待ちしております!
「考える部屋」についてはこちらの記事も併せてご覧ください
▼小学5・6年生、中学生向けオンライン創作講座『考える部屋』まとめ
▼観客・視聴者・読者が 「おもしろい!」と思うシーンを考える『考える部屋Ep6』