映像が自然に浮かんでくるシナリオは、ドラマの世界に引き込まれます。そういったシナリオはこんなことを意識すると書けるようになりますよ!というお話を今回はご紹介!
このコーナーでは、「自分にはシナリオを書く才能がないかも……」と悩んでいるかたへ、面白いシナリオが書けるようになるちょっとした“術”を、シナリオ・センター講師・浅田直亮著『いきなりドラマを面白くする シナリオ錬金術』(言視舎)&『月刊シナリオ教室(連載「シナリオ錬金術」)』よりご紹介いたします。
映像を浮かべやすくするには
ゼミで20枚シナリオを聞いていると、映像が自然に浮かんでくるシナリオと何故か映像が浮かびにくいシナリオがあることに気づきます。ト書を詳しく書いてあれば浮かびやすいかというと、そういうわけでもありません。むしろ、あまり詳しすぎると、かえって浮かびにくくなったりしがちです。
もちろん映像が自然に浮かんでくる方がドラマの世界に引き込まれます。聞いていて楽ですし時間も短く感じます。逆に映像が浮かばないとドラマの世界にまったく入れず同じ20枚のはずなのに時間も長く感じて、ちょっと苦痛だったりします。
「面白い」と感じるか「面白くない」と感じるかに、映像が浮かびやすいか浮かびにくいかは大きく影響しているわけです。
じゃあ、どうすれば映像が浮かびやすくなるのか?
一つコツを紹介すると、季節感を入れることです。
いま、あなたが書いている20枚シナリオの季節はいつですか?意外と考えていない人が多いのではないでしょうか。
でも、たとえば表参道の表通りを主人公が歩いている描写をする時に、蝉の鳴き声が聞こえている描写を加えることで、はるかにイメージしやすくなりませんか?あるいは、クリスマスのイルミネーションの描写を加えることで映像が、より鮮やかに浮かびませんか?
おそらく、蝉の鳴き声やクリスマスの季節感を入れることで、主人公の顔が汗で光っていたり、吐く息が白かったり、周りの人たちの服装、日差しの感じなどが具体的に浮かべることができるようになるからでしょう。さらに、暑さ寒さや空気の重い感じや張りつめた感じ、匂いなど映像にはならないことまで自然に想像してしまいます。
つまり季節感を入れることで五感が刺激され、そのために自然に映像が浮かびやすくなるのだろうと思います。あなたのシナリオにも季節感をプラスすることで五感を刺激し、より映像を浮かびやすくしてみて下さい。
というわけで今回は、「目に青葉、山ほととぎす、初鰹の術」!
『ALWAYS 三丁目の夕日』の春夏秋冬
映画『ALWAYS 三丁目の夕日』を観てみたいと思います。
ストーリーは、昭和33年、完成していく東京タワーを背景に東京の下町・夕日町三丁目に住む人々の姿を二つの家族を中心に描かれています。一つは自動車修理工場の鈴木オートに堀北真希さん演じる星野六子が、その向かいの吉岡秀隆さん演じる茶川竜之介の駄菓子屋には須賀健太さん演じる古行淳之介が家族の一員として加わります。この血のつながりのない二組の家族が本当の家族以上に家族になっていくホームドラマが、春夏秋冬のそれぞれの季節のエピソードで描かれていきます。
まず春の集団就職で六子が上京するシーンがあり、鈴木オートに住み込みで働き始めるエピソードと、茶川が酔った勢いで淳之介を引き取ってしまうエピソードがあり、夏になります。店先で氷水で冷やされたラムネや井戸で冷やされているスイカ、風鈴売りなどの映像で時間経過させています。
字幕タイトルで「三カ月後」などとするより、はるかに自然に時間経過を感じさせることができますし、たとえば鈴木オートの外観に字幕タイトルを入れただけのシナリオでは映像は浮かびにくくなりがちですが、ラムネやスイカ、風鈴売りと描写されていれば映像が浮かびやすくなります。
ここで六子が食あたりを起こすエピソードがあります。シュークリームを生まれて初めて見て、賞味期限が過ぎ、もうダメだから捨てておいてと言われたのに、どうしても食べてみたくなってしまったのです。そして、六子の食あたりをきっかけに鈴木オートはテレビに続き電気冷蔵庫を買うのです。
たとえば、冬のエピソードとして茶川が淳之介にクリスマスプレゼントを贈るのがあります。「僕のところにサンタ来たことないですから」という淳之介に「今年は来るかもしれないだろ」と言って何がほしいか聞くと「えんぴつと消しゴムがいいです」と答えます。でも、茶川は、淳之介が万年筆の絵を描いているのを見つけます。
そして、わざわざ人に頼んでサンタの格好をしてもらい万年筆を届けてもらいます。淳之介は初めてサンタが来たことと、ほしかった万年筆をプレゼントされ大感激します。この万年筆がクライマックスの重要な小道具にもなっていきます。
『スウィングガールズ』の季節
映画『スウィングガールズ』は夏から冬にかけての季節で描かれています。
ストーリーは、上野樹里さん演じる鈴木友子はじめ落ちこぼれ女子高校生たちが吹奏楽部のピンチヒッターでビッグバンド・ジャズを始めたことをきっかけに自力で楽器を集めバンドを結成、音楽祭で見事な演奏を披露するようになるという青春ドラマです。
ストーリーとしては特に季節は関係ありません。夏から冬である必要はまったくないのです。しかし、季節がドラマにからめて取り入れられています。
たとえば、友子たちが吹奏楽部のピンチヒッターをすることになるきっかけは夏。食中毒です。高校野球の応援をする吹奏楽部に、配達の遅れた弁当を、ちょうど夏休みの補習で学校にいた友子たちが届けることになります。
ところが、電車を乗り越したことから歩いて届けることになり弁当が炎天下に長時間さらされ、その弁当を食べた吹奏楽部の学生たちが食中毒で倒れたため、友子たちがピンチヒッターをつとめることになるのです。
そして、ビッグバンド・ジャズと出会います。
楽器を買うための資金集めは秋。松茸狩りです。松茸を採って金に換え楽器を買おうと企む友子たちですが、入ってはいけない山であることに気づき、人に見つからないように隠れているうち猪と出くわします。友子たちは逃げまわりますが、偶然、猪を退治することができます。その猪が農作物を荒らす猪だったため友子たちは表彰され、感謝状と謝礼金を貰って楽器を買うことができます。
クライマックスは冬です。舞台は東北地方の設定で一面の雪景色です。音楽祭に出演しようとオーディションのためのビデオ演奏を雪景色をバックに撮影した後、友子たちは雪合戦を始めます。気分は最高に盛り上がります。
が、そのビデオを友子が郵送し忘れ、バンドは出演できなくなります。それを友子はメンバーに言い出せず、当日、会場へ向かいます。大雪のため電車が止まり、そこで友子は打ち明けます。みんな、やってられないよ~となりますが、まあ、いいか、とばかりに止まった車内で演奏を始めます。
と、そこへ吹奏楽部のバスが来ます。ほかの高校が大雪のために来られなくなり、友子たちのバンドが出演できることになって迎えに来たのです。そして、クライマックスの演奏につながっていきます。
『となりのトトロ』の季節感
宮崎駿アニメの『となりのトトロ』の季節は春から夏にかけてです。
ストーリーは、昭和30年代、田畑や森に囲まれた家に引っ越して来たメイとサツキの姉妹が森に住むトトロという不思議な生き物と出会って…というホームドラマをベースにしたファンタジーです。これも春から夏である必要は、まったくありません。
また、特に、その季節ならではのエピソードでドラマが描かれているわけでもありません。しかし、あちこちに季節を感じさせるものが散りばめられています。
たとえば、メイとサツキが引っ越して来たシーンでは、おはぎが出てきます。隣に住むカンタというサツキと同級生の男の子がおはぎを持って来て「お前んち、お化け屋敷!」と叫ぶのです。そのあと、父親や姉妹、手伝いに来ていた隣の家のおばあちゃんと一緒におはぎを食べるのですが、おそらく、お彼岸あたりだと想像させます。
姉妹が母親の入院している病院へ初めてお見舞いに行くシーンでは「今日、田植え休みなの」というセリフがあります。
メイが初めてトトロに会うのは、おたまじゃくしがたくさんいて、それを採ろうとバケツを拾ったら…というのがきっかけでした。
クライマックスはメイがいなくなりサツキがトトロに頼んで探してもらうのですが、メイは採れたてのトウモロコシを母親に届けようとして迷子になったのでした。
その季節ならではのエピソードをドラマにからめられればいいのですが、そうでなくても、このように季節感を散りばめるだけでも十分です。
逆に、季節を決めることで、その季節ならではのエピソードが浮かびアイデアが浮かぶこともありますので、ぜひ試してみて下さい。
出典:『月刊シナリオ教室』(2011年4月号)掲載の「シナリオ錬金術/浅田直亮」より
★次回7月23日に更新予定です★
※「季節感が感じられるのもすごくいいですよね」と柏田講師が唸った作品が受賞した「トップシーン脚本大賞2022 春」の模様も併せてご覧ください。
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