『おくりびと』で描かれる夫婦と親子
今回は、まず映画『おくりびと』の例から始めます。
本木雅弘さん演じる元チェロ奏者の主人公は、帰郷し、ひょんなことから納棺師の職に就きます。死後2週間たった遺体を運ばなければならなかったり、噂で主人公の仕事を知った幼馴染から「もっとましな仕事さ就けや」と白い目で見られたり、不良学生に説教していた男に指さされ「この人みたいな仕事して一生償うのか?」と言われたりしながらも、経験を積んで一人前になっていくにつれ納棺師としてのやりがいを感じるようになるが……というストーリー。
まさに納棺師という職業を題材とした、お仕事ドラマです。
しかし、それだけではありません。より観客が感情移入しやすい“ドラマ”(※)がプラスされています。
一つは夫婦のドラマです。
広末涼子さん演じる妻に、主人公は納棺師の仕事に就いたことを言えません。でも、どうもおかしいと思った妻は主人公が遺体役をやらされているDVDを見つけ、納棺師の仕事をしていることを知ると、そんな仕事は辞めてくれと頼み、何とか説得しようとする主人公に「汚らわしい!」と言って、実家に帰ってしまいます。
が、ある日、主人公が帰宅すると妻がいます。そして、妊娠したことを告げられます。喜ぶ主人公に妻は再び納棺師の仕事を辞めてくれと迫ります。「自分の子に自分の仕事を堂々と言える?」と。そこへ幼馴染の母親が亡くなった知らせが入り、妻は主人公の納棺の仕事を目の前で観ることになって……というドラマです。
もう一つ、クライマックスは親子のドラマです。
子どもの時に主人公と母を捨て出て行った父親が亡くなったという知らせが入ります。遺体の引き取りすら拒否しようとする主人公ですが、同僚や妻に説得され父親と対面します。それでも父親の顔を思い出せない主人公ですが、父親の納棺を自ら行います。
と、父親の手に石が握られています。それは幼かった主人公と父親が「石文」として交換した石でした。その時に父親からもらった石を主人公は今も持っています。主人公が渡した石を父親も、ずっと持っていたのです。主人公は父親の顔をはっきりと思い出し涙を流します。
この夫婦と親子のドラマがあるからこそ、アカデミー賞はじめ海外でも高く評価されたのかもしれません。
※“ドラマ”についてはこちらの記事をご覧ください↓
▼「ドラマとは何か。改めて考えてみました。」