そこで、いよいよ、ピタ! ポト! ガシャーン! 三段活用の術の登場です。
たとえば、健太郎が隣の男子と話をしながら「あぢ~な~」とか言って下敷きでパタパタあおいでいる、と入ってきた瑞恵を見て、下敷きの手をピタ! と止め見つめるのです。
これ、テレビドラマ『大奥~華の乱』でも使っていました。将軍・綱吉が側用人の柳沢吉保の屋敷で能を舞った後、汗をかいたなどと言いながら扇であおいでいます。と、柳沢の側室・染子が酒を注ぎます、その染子を一目見て吉保の扇がピタ! そして、「この女と寝たい」と言うのです。
これが、ピタ!です。何かの動作を止めるわけですね。鼻歌を歌っていて途中でピタ!とか、歩いていて立ち止まる、とか、コーヒーを飲みかけてピタ!とか。
このピタ!を、ポト!にすれば、より感情は大きくなります。
たとえば、瑞恵を見た瞬間、健太郎が扇いでいた下敷きをポト!と落とすのです。あるいは、鼻の下と上唇ではさんでいた鉛筆を、ポト!と落とすとか。
テレビドラマ『白夜行』で亮司が初めて雪穂を見るシーンがそうでした。亮司は棒を持って歩いてきます。その棒でガードレールを叩いたりしながら。そして、ドブ川の土手に座り爪を噛んでいる雪穂を見た瞬間、持っていた棒をポト!と落とすのです。
さらにさらに感情を大きくしようと思ったら、ガシャーン!です。落としたものが割れるのです。
たとえば、健太郎が花瓶の水を取り替えに行こうとして、入ってきた瑞恵を見て、花瓶を落とすと、ガシャーン! 花瓶が割れて粉々に飛び散る、とか。
こうなると、衝撃!って感じです。
『アルジャーノンに花束を』でも、手術を受け知能が回復したハルが母親の家をたずねた時、ベランダからハルの姿を見た母親が、室内に入れようとしていた鉢植えを落とし、鉢植えが粉々に割れていました。
このピタ! ポト! ガシャーン! 三段活用の術は、さまざまに応用できます。
たとえば、怒りがこみあげた時に握りこぶしをギュッ!と固める、さらに、拳がブルブル!と震える、さらに何か握っていた鉛筆とか箸とかがベキッ!と折れる、つまりギュッ! ブルブル! ベキッ! の三段活用の術になるわけですね。
握ってたものを投げつけてもいいかもしれません。たとえば携帯電話をギュッ!と握りしめる、ブルブル! と震える、バシッ!と投げつける、とか。さらに投げつけたものが壁にブチ当たり砕け散るのもありです。
あるいは、嬉しい時に傘をクルクル!と廻す、さらにブルンブルン!と振り回す、さらにさらにポーン! と放り投げる、とか。
でも、どうしてピタ! ポト! ガシャーン! 三段活用の術を使えば「面白い」と思わせられるの?と疑問をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
それは人物の感情がダイレクトに伝わってくるからです。ハッとして見つめる、や「!」より、どんな気持ちなのかが、目に見えるものとして描かれています。なので、どんな気持ちなのかな、と頭で考えなくても目から直に伝わってくるのです。
感情が伝わってくれば、感情移入します。
というか感情が伝わってこなければ感情移入しようがありません。
この感情移入というのが「面白い」と思わせる大きなポイントの1つ。
おっと、間違えちゃいけませんよ。自分(作者)が感情移入するんじゃありませんからね。あくまでも他人を感情移入させて「面白い」と思わせるわけですからね。
ピタ! ポト! ガシャーン! に限らず、とにかく感情を目に見えるもの(映像)として描写してみてください。1つでも2つでも、3つでも4つでも。シナリオが見違えるようになると思います。できれば1つのシーンに1つ、特に主人公の感情を伝える映像描写を考えて入れてみてください。あなたのシナリオがキラキラとゴールドに輝きはじめるはずです!