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シナリオ初心者やりがちなこと対処法/感情を映像で描写するには

シナリオ・脚本の書き方,レベルアップ,エンタメ,先輩ライター,エンタメ,浅田直亮

シナリオには映像に映るものを書きます。感情は映像には映りません。「じゃあ、どうしたらいいの?」というお話を今回はご紹介!

このコーナーでは、「自分にはシナリオを書く才能がないかも……」と悩んでいるかたへ、面白いシナリオが書けるようになるちょっとした“術”を、シナリオ・センター講師・浅田直亮著『いきなりドラマを面白くする シナリオ錬金術』(言視舎)&『月刊シナリオ教室(連載「シナリオ錬金術」)』よりご紹介いたします。

ダメなところはとりあえず置いておく

あなたは、自分のシナリオの「ダメなところ」を直したら「面白いシナリオ」になると思っていませんか?

よく「私のシナリオのどこが悪いんでしょうか?」とか「もっとダメなところを指摘してください」なんて言われるんですが、その度に、あなたは「ダメなところ」を直したいんですか?それとも「面白いシナリオ」を書きたいんですか?と尋ねます。

確かに「ダメなところ」を直せば欠点の少ないシナリオにはなるかもしれません。でも欠点が少ないことが「面白いシナリオ」ではないのです。このへんがミスをなくし、減点を減らせば点数が高くなる学校のテストや受験勉強と違うところです。

特にシナリオ・センターの生徒さんは真面目なかたが多く、まず「ダメなところ」を直すことに力を使ってしまい、余力がなくなって「面白い」と思わせることにまで手がまわらない方が多いように思います。

じゃあ、どうすればいいの?

簡単です!とりあえず「ダメなところ」は放っておいてください。で、「面白い」と思わせるものをプラスしてみてください。

シナリオ錬金術というのは、これをプラスすれば「面白いシナリオ」になるよ、という術です。しかも、すぐに使える、使ってみたくなる超簡単お気楽な術ばかり。ぜひ、20枚シナリオで試してみてください。

というわけで今回は、「ピタ! ポト! ガシャーン 三段活用の術」!

“一目ぼれする”をどうやって表す?

たとえば、主人公が一目ぼれする場面。場所は、中学校の教室。健太郎が座って隣の男子と喋っていると先生が転校生の瑞恵を連れて入ってきます。健太郎は瑞恵を見て一目ぼれ、というような場合(まあ、ありがちなシーンですが、あくまでも例ですので)、あなたなら、どう書きますか?

ト書に〈健太郎、瑞恵に一目ぼれする〉と書いても、〈一目ぼれする〉の部分が映像になりません。

「いや、映像になりますよ、ハッとして見つめるんです」ということであれば、ト書には〈健太郎、ハッとして見つめる〉と書くことになります。

セリフのところに、健太郎「……」とか健太郎「!」なんて書く人もいるかもしれません。

では、ちょっと試しに鏡を見ながら〈一目ぼれする〉でも〈ハッとして見つめる〉でもいいので実際に演じてみてください。「……」とか「!」と書くというかたも、ちょっと自分で演じてみてください。

あ! 今、電車の中や喫茶店などで、これを読んでいる方は、周りの人に不審がられないよう気をつけてくださいね。実際に演じなくていいので、頭の中で、どんな表情になって、などと具体的にイメージしてみてください。

どうですか? 思っていた以上に演じにくいというか、微妙というか、曖昧というか……。

もちろん映画やドラマなどになってしまえば俳優さんが演じてくれます。演技力のある俳優さんなら私たちがイメージする以上の魅力的な演技で、「ああ、一目ぼれしたんだなあ」と表現してくれるかもしれません。

でも、シナリオとして書かれている限りでは〈一目ぼれする〉も〈ハッとして見つめる〉も「……」や「!」も、読んでいる人は今一つはっきりとイメージしにくいのです。

感情をダイレクトに伝えろ!

そこで、いよいよ、ピタ! ポト! ガシャーン! 三段活用の術の登場です。

たとえば、健太郎が隣の男子と話をしながら「あぢ~な~」とか言って下敷きでパタパタあおいでいる、と入ってきた瑞恵を見て、下敷きの手をピタ! と止め見つめるのです。

これ、テレビドラマ『大奥~華の乱』でも使っていました。将軍・綱吉が側用人の柳沢吉保の屋敷で能を舞った後、汗をかいたなどと言いながら扇であおいでいます。と、柳沢の側室・染子が酒を注ぎます、その染子を一目見て吉保の扇がピタ! そして、「この女と寝たい」と言うのです。

これが、ピタ!です。何かの動作を止めるわけですね。鼻歌を歌っていて途中でピタ!とか、歩いていて立ち止まる、とか、コーヒーを飲みかけてピタ!とか。

このピタ!を、ポト!にすれば、より感情は大きくなります。

たとえば、瑞恵を見た瞬間、健太郎が扇いでいた下敷きをポト!と落とすのです。あるいは、鼻の下と上唇ではさんでいた鉛筆を、ポト!と落とすとか。

テレビドラマ『白夜行』で亮司が初めて雪穂を見るシーンがそうでした。亮司は棒を持って歩いてきます。その棒でガードレールを叩いたりしながら。そして、ドブ川の土手に座り爪を噛んでいる雪穂を見た瞬間、持っていた棒をポト!と落とすのです。

さらにさらに感情を大きくしようと思ったら、ガシャーン!です。落としたものが割れるのです。

たとえば、健太郎が花瓶の水を取り替えに行こうとして、入ってきた瑞恵を見て、花瓶を落とすと、ガシャーン! 花瓶が割れて粉々に飛び散る、とか。

こうなると、衝撃!って感じです。

『アルジャーノンに花束を』でも、手術を受け知能が回復したハルが母親の家をたずねた時、ベランダからハルの姿を見た母親が、室内に入れようとしていた鉢植えを落とし、鉢植えが粉々に割れていました。

このピタ! ポト! ガシャーン! 三段活用の術は、さまざまに応用できます。

たとえば、怒りがこみあげた時に握りこぶしをギュッ!と固める、さらに、拳がブルブル!と震える、さらに何か握っていた鉛筆とか箸とかがベキッ!と折れる、つまりギュッ! ブルブル! ベキッ! の三段活用の術になるわけですね。

握ってたものを投げつけてもいいかもしれません。たとえば携帯電話をギュッ!と握りしめる、ブルブル! と震える、バシッ!と投げつける、とか。さらに投げつけたものが壁にブチ当たり砕け散るのもありです。

あるいは、嬉しい時に傘をクルクル!と廻す、さらにブルンブルン!と振り回す、さらにさらにポーン! と放り投げる、とか。

でも、どうしてピタ! ポト! ガシャーン! 三段活用の術を使えば「面白い」と思わせられるの?と疑問をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。

それは人物の感情がダイレクトに伝わってくるからです。ハッとして見つめる、や「!」より、どんな気持ちなのかが、目に見えるものとして描かれています。なので、どんな気持ちなのかな、と頭で考えなくても目から直に伝わってくるのです。

感情が伝わってくれば、感情移入します。

というか感情が伝わってこなければ感情移入しようがありません。

この感情移入というのが「面白い」と思わせる大きなポイントの1つ。

おっと、間違えちゃいけませんよ。自分(作者)が感情移入するんじゃありませんからね。あくまでも他人を感情移入させて「面白い」と思わせるわけですからね。

ピタ! ポト! ガシャーン! に限らず、とにかく感情を目に見えるもの(映像)として描写してみてください。1つでも2つでも、3つでも4つでも。シナリオが見違えるようになると思います。できれば1つのシーンに1つ、特に主人公の感情を伝える映像描写を考えて入れてみてください。あなたのシナリオがキラキラとゴールドに輝きはじめるはずです!

小道具を使え!

じゃあ、実際どうすれば、そんな映像描写が考えつくか?

まず、一番手っ取り早いのが小道具を考えること。気づいたかたもいらっしゃると思いますが、下敷きや扇、鉛筆、棒、花瓶、鉢植えなどなど小道具を使っていることが多いです。

小道具を考えるためには、その時、人物が何を持っているか、その場に、どんな物があるのかを考えてみてください。

そのための入り口として、柱を書いたら誰と誰が何をしているかをト書で書くようにしてください。これは基礎過程(8週間講座や作家養成講座、通信基礎科など)でも言われたと思います。

柱の後に、いきなりセリフを書いて、添削されたかたもいらしゃるでしょう。いいじゃん、セリフを書けば、そこにいるに決まってるんだから!とか、柱を書くたび誰と誰がいて何をしているか、いちいち書くなんて面倒くさいよ!と思われたかもしれません。

でも、柱の後に誰と誰がいて何をしているか、映像を明確に思い浮かべるからこそ、何を持っているか、その場に何があるかを考えられ、それらが映像描写として使えるかどうか考えることができるようになるのです。

柱を書いたら誰と誰がいて何をしているかをト書で書くという基本は、それをやることで、さらに応用ができるようになりシナリオが上手くなるためのものです。

基本は、基本だから守らなければならないというのではなく、基本を押さえることで応用が広がり上手くなるよ、というものなのです。ただ、やみくもに基本を守っていればいいというものでもないのです。

出典:浅田直亮 著『シナリオパラダイス 人気ドラマが教えてくれるシナリオの書き方』(言視舎)P88/『月刊シナリオ教室』(2006年10月号)掲載の「シナリオ錬金術/浅田直亮」より

次回9月27日に更新予定です

『いきなりドラマを面白くするシナリオ錬金術』はこちらのシナリオ・センターの書籍一覧で。

『シナリオ錬金術2』発売記念ブログ「“シナリオ、楽しい!”を増やしたい!」はこちらから。

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