地域で
シナリオ・センター代表の小林です。休み明けに、シナリオ・センターでは、シナリオS1グランプリ、舞台脚本コンクールと二つのコンクールが同時締め切りとなります。
来週の月曜日が締め切りですが、今週どーんと送られてきています。楽しみです。
これから応募する方、ラストスパート頑張ってください。
ルーテル学院大学の市川教授から「多世代交流・共生のまちづくり施策・実践と地域社会の挑戦」というお話をお聞きしてきました。
世代を超えた人間が地域というつながりの中で共に生きようということなのです。
虐待やヤングケアラーなどでSOSを出している子どもたち、子育てで迷い、孤立する若いお母さんたち、認知症や閉じこもりなどの高齢者の方々、そうした方々への支援をばらばらにするのではなく、世代を超えた地域の寄合場所を創って、お互い助け合い、イキイキと暮らせるようにしましょうという試みが、あちらこちらで行われ始めているのだそうです。
素敵なことだと思います。私は、よくお話していますが、縁側文化を推奨していて、近隣の人たちがお互いを開いて、子どもは社会で育てるべきだと思っている人間なので、お互いの持っている力を活かし助け合っていくことは、いいことだと思っています。
でも、お聴きすればするほど疑問が湧いてきました。
ほとんどがNPO法人や地域のコミューンが主体で、自治体や国が行っていることは少ないのです。
この国は、何故人を大事にしないのか、国のために国民があるのではなく、国民のために国があるということを忘れているのでしょうか。
戦後すぐからずーっと○○教会漬けになりながら「みんなで誤魔かせば怖くない」とばかり「知らない」「わからない」でスルーしようとする方々は、国民のために働くのが政治家の使命だなんて考えたこともないのでしょうね。
ルポ 誰が国語力を殺すのか
政治家の言葉の劣化もすさまじいですが、子どもの国語力の低下が叫ばれています。
「50×5は計算できますが、50円のりんごが5つあります。お金はいくらいりますか?」はできません。
「14人が一列に並んでいます。ことねさんの前に7人います。では、うしろには何人いますか?」はわかりません。
算数の文章問題が解けない話に驚き、エーと思いながら石井光太さんの「ルポ誰が国語力を殺すのか」(文藝春秋刊)を読み、またまた絶句。
これからの社会はどうなるのか、心配を越えて呆然としてしまいました。
国語力というのは「考える力」「感じる力」「想像する力」「表す力」の4つの中核からなる能力というのが文科省の定義だそうです。
国語力というとわかりにくいですが、石井さんは「私が思うに国語力とは、社会という荒波に向かって漕ぎ出すのに必要な『心の舟』だ。語彙という燃料によって、情緒力、想像力、論理的思考力をフル回転させ、適切な方向にコントロールするからこそ大海を渡ることができる」
石井さんは取材で出会った人たちは、十分な言葉を持たず、自らの心の舟を適切に操ることができない人たち。それは、何らかの事情で、想像し、考え、表現をするための言葉を奪われた人たちだといい、家庭、学校、ネット、不登校、ゲーム、非行などさまざまな原因を探るとともに解決策を描いています。
国語力を殺しているのは、なにか。どれも原因の一つであり、どれも大きな問題だと思います。
帯で、養老孟司さんは「『バカの壁』はここから始まっていたのか。」と。俵万智さんは「注意報ではなく警報レベルだ。子どもたちの現状に絶句した」と書いていますが、読んでいると本当に胸がつぶされる思いになります。
日本の社会はこんなにも人の心を、生きるということを破壊してしまったのかと。
それでも、石井さんは多くの方々との出会いの中で、絶望はしていません。
石井さんは、最後にヘレンケラーの
「最初の一語を発したときに体を包んだ、驚きの震えと喜びを忘れることはできない。
愛のことばも鳥の歌声も、音楽も聞こえない牢獄からとうとう抜け出したのだから。(略)
『羽の生えた言葉』を話せるようになったことは、言いようのないほど有り難かった。
ことばを話と、考えが喜びにあふれて飛び立っていく、私の指からどうしても抜け出せずにあがいていたはずの言葉が・・・」を紹介し、「私がこのエピソードを紹介したのは、今の時代を生きるすべての子どもたちにヘレンのように、生きた言葉を手に入れ、それを使える喜びを感じ、人生を切り開いていってほしいと願っているからだ。社会の底辺で苦しむ子どもたちにも、これから成長していく子どもたちにもだ。」
シナリオ・センターの理念は「日本中の人のシナリオ書いてもらいたい」。
それは、シナリオを描くことで「自分で考え、想い、他人に伝えるために表現する」ことができるようになるからです。
2010年からプロ養成だけでなく、「子どもシナリオ」を小学校から大学、図書館や児童館、地域コミューン、企業などに出前授業しています。
石井さんの本を読んで、改めて言葉の必要性を感じました。言葉こそが、生きる力だということを。
微力ながらも、私たちは、もっともっとシナリオを広げて、子どもたちに溢れるような表現力を持ってもらい、豊かな心を育てて欲しいと願っています。