研修科クラスの課題に、「裏切りの一瞬」「憎しみの一瞬」といったお題が4本続く“一瞬シリーズ”があります。なぜこんなに “瞬間”を描かせるのか。一瞬シリーズについて解説している新井一著『シナリオの技術』(P137~142)とともに、今回のコラムも併せてお読みください。
シナリオ・センター創設者・新井一は、『シナリオの基礎技術』『シナリオの技術』などシナリオの書き方に関する書籍をいくつも執筆しています。また、『月刊シナリオ教室』でも連載ページをもち、シナリオの技術を解説していました。その記事は、いま読んでも全く色褪せていません。
そこで、当時の記事を皆さんにご紹介。「シナリオってどう書くの?」という初心者の方も、「一度学んだけど、忘れちゃった…」という方も、これを読めばシナリオ作りが一層はかどります!
叙事と叙情
物語では何を語るのかというと、叙事と叙情があります。
叙事はストーリー展開に関するもので、例えば状況・状態、情報、天候景色、事件や事情などです。
叙情は、これに対して、こんなことが起こったらどんな気持ちになるか、どういう気持ちか、つまり人間の感情の流れを言います。
シーンの描写はこの2つをひっくるめて、或る時はストーリーの説明をし、或る時は登場人物の感情を書くことになります。
情報と気持ちの変化
「親分、大変だあ大変だあ、三味線掘で師匠が殺された」というのは、言うまでもなく情報です。情報があってドラマが進展していくのです。
情報には、我々に直接関係ある情報と、関係ない情報があります。新聞に出ているような「××首相がいよいよ辞職したよ」というのは大きな情報ですが、我々には直接的に関係ありませんので、ドラマにはなりません。
首相の辞職よりも「遠方に嫁に行ったきりの娘の亭主が死んだ」という方が、「かわいそうに、さぞ困っているだろう」と思いますし、「もしかして実家に帰ってきたら大変だぞ」という利害関係の入った感情にもなります。
登場人物の感情を動かすような感情でなければ、ドラマには使えないのです。
レストランの前を通りかかったら、窓の向こうにうちの亭主がいて、きれいな女の人と楽しそうに話しているのを見るのも、「大変だあ」と転がり込んでくるのとは違いますが、同じ情報なのです。また、亭主の引き出しから、女から来た手紙を発見するのも情報です。
ドラマではこの情報の如何に関わらず、“情報を得た瞬間”に、情報を受けた人の気持ちの変化がなければダメですよ。今まで幸せいっぱいと思っていたのに、その情報を得た瞬間から「殺してやろう」でも「離婚してやろう」でもいいのですが、変化が必要です。ドラマとは変化なりです。
ドラマとは登場人物の感情の変化です。ひとりで変わってもいいのですが、登場人物同士の愛情が親しくなったり、冷たくなっていったりの変化が、ドラマを作っているのです。
出典:『月刊シナリオ教室』1994年1月号新井一「十則集」より/2015年9月号「新井一.com」
★次回11月8日に更新予定です★
「シナリオは、だれでもうまくなれます」
「基礎さえしっかりしていれば、いま書いているライターぐらいには到達することは可能です」と、新井一は言っています。“最初の一歩”として、各講座に向けた体験ワークショップもオススメです。
※シナリオ作家養成講座とシナリオ8週間講座は、オンライン受講も可能です。
詳しくは講座のページへ