心配り
シナリオ・センター代表の小林です。ちょっと寒さが緩んだ感じの今日はもう春のようです。
表参道は、観光客が増えてきているようです。キャスター付きのスーツケースを引っ張っている方もよく目にします。
私はあれが嫌いで、つい冷たい目で見てしまいます。
自分の身体との距離感が取れないせいか、他人にぶつかりそうになったり、他人の足元にあっても気づいていない方によく出くわすからです。
距離があるために、衝撃も時間差で伝わり、気がつきにくいのでしょうか、持っている人は「はあ、なに?」という顔になるし、ぶつけられたり、引っかかった人は「なんでよ!」とけんか腰の顔になるし、まず挨拶はない。
気を使ってお持ちになっている方も多いとは思うのですが・・・。
自分の身体にぶつかれば、すぐわかるのでお互いに「ごめんなさい」とか「失礼しました」とか言えますし、申し訳ない顔にもなります。
距離感ってすごい。人間関係も一緒ですね。
他人に対していかに想像できるかです。
これから、コロナが緩和されて、旅行へ行くことも増えてくることでしょう。心配りは大事ですね。
他人に迷惑をかけない楽しい旅行にしたいものです。
笑の大学
三谷幸喜さんの「笑の大学」を観てきました。初演は1996年西村雅彦さんと近藤芳正さんの二人。今回は、内野聖陽さんと瀬戸康史さんのおふたりです。
このお芝居は、二人芝居。時は昭和15年。
登場人物は、警視庁検閲係向坂睦夫と劇団「笑の大学」の座付き作家椿一。
非常時に喜劇の上演など断じて許さないと上演中止に追い込もうとあれやこれや難癖を付ける向坂とどんなに言われても真正面から書き直しに挑戦する椿との攻防戦を描いたものです。
戦時中は検閲というものがあり―そういえば出身ライター八津弘幸さんが描かれた朝ドラ「おちょやん」でもありましたね―、軍部に反対するような内容やせりふはもちろんラブシーンだとか笑いだとか、よくわからない頭の固い警察かや軍人がダメだしをして、当たり障りのないものにしてしまう。
そうするとつじつまが合わなくなるわ、面白くなくなるわ、劇作家も役者も大変な時代でした。
「笑の大学」でも、最初が笑わせるためのセリフ「お国のため」「お国のため」「おにくのため」といわせるのがまずいというところから始まって・・・。
三谷さんもおっしゃっていますが、無理難題を課せられてもそれを上回る面白い台本をかいてやろうとする椿の姿は、まさに脚本家の鏡、理想像です。
最後は、喜劇ではない喜劇を描くことになるのですが・・・。
たぶん脚本家の方がご覧になると、検閲官がプロデューサーみえると思います。(笑)
ラストを申し上げるとこれからご覧になる方がつまらないので書きませんが、検閲官向坂、劇作家椿のキャラクターがめちゃすごい。
検閲官向坂は一度も心から笑ったことがない男、過酷な任務を経験している彼は支配的で理不尽。でも、飛んできたカラスを保護し、椿に十姉妹をもらうと喜ばないふりして喜ぶ男。
「笑いに関するセンスが全くないと思っている男だけど、実は天才的に面白い男」と三谷さん独特のキャラが出ています。
この検察官向坂のキャラがドラマの肝になるんですね。
椿は、受けないギャグを言いたいだけの座長や勝手なことを言う座員の中でポジティブに、波風絶たないように調整、悪く言えばずるく立ち回る。追いつめられても相手を一方的に拒絶や否定をしない人間好き。仕事に真摯に(安倍さんや岸田さんが使ったのとは違う意味で)立ち向かうタイプ。
この二人のキャラクターが、何度も直しを出し、直していく過程で、少しずつ隠していたキャラがみえて、ラストへと向かっていく、まさに二人芝居の真骨頂を見せてくれます。
ラストは、初演と変えたそうですが、私は、いつになく甘い気がしました。(笑)
三谷さんがどう思っての上演か知りませんが、戦前の始まりのような今、このお話は、決してあってはならないことだと、若い方々に知ってもらいたいと思いました。なので、シビアに終わりたかった。
一番の感想は、脚本家はみんな椿になって欲しいけれど、プロデューサーは向坂にはなって欲しくないってことかな。(笑)