さよなら
シナリオ・センター代表の小林です。4月になりました。1日がエイプリールフールだったということをすっかり忘れていました。
当り前のようにお上から下々まで、どこもかしこも嘘ばっかりの社会になってしまい、今更、わざわざ嘘つく意味がなくなったからでしょうか。
嘘は、笑えるくらいのもので終わりたいものです。
先代の事務局長は、エイプリールフールに、ある講師にだけ向けていかに引っかけようか毎年頭をひねっていました。
いつも冷静沈着でなんでもよく知っている講師なので、なんとか「ギャフン!」といわせたい一心でした。
たぶん10年近く、毎年繰り返していましたが一度もうまくいかず・・・結局、どこまでも嘘が下手なまじめな事務局長だということだけが判明しました。(笑)
そんなことをフッと思い出すのは、後藤が亡くなって、一緒に笑いあえる人がいなくなったせいでしょうか。
また、悲報が届きました。
世界的に有名な作曲家・ピアニストでYMOの坂本龍一さんが亡くなられました。
亡くなる寸前まで「神宮外苑再開発計画反対」の手紙を東京都の小池知事に出されたとか。本当にこれまで育った大事な樹木を伐採してまで建てなければいけない意味が分かりません。
常に「反戦・反原発」に声を上げていらっしゃいました。
憲法九条の改正に反対し、選択的夫婦別姓制度に賛成、数多くのチャリティーコンサートを実施され、子どものために、被災地のために、様々な形で支援されました。
集団自衛権や会見についてのデモにも参加し、
「音楽家は音楽だけやっていろ、とインターネットで言われているらしいということも知っています。
でも、音楽だけやればいいとも思わない。
普通の人が口出すのが民主主義でしょ。
職業に関係なく誰もが声を出せる社会じゃないとダメだと思うんです」(略)
とおっしゃっていました。
その通りだと思います。誰もが自分の考えや想いを出せることが(きちんとですが)当たり前の社会でなくては。
坂本さんが声をあげてくださると、広く広めることもでき、気がついていない方も気がついてくれました。とても残念です。合掌。
虚心
先日、ご紹介しましたように出身作家の吉川英梨さんの新刊が出ました。
「虚心」(幻冬舎刊)
これほど人間の弱さ強さを描いたミステリーはないのではないでしょうか。
主人公は埼玉県警本部の捜査一課の刑事奈良健市。
彼は、ドラマにもなった「雨に濡れた向日葵」の主人公だった刑事さん。
この「虚心」の中では、そのことには全く触れていないのですが、おばあちゃんが崩落事故で行方不明になった子どもへの接し方をみると、あの奈良刑事に違いないと。
それだけキャラクターがしっかりできているのですね。
そして、奈良は、不法投棄土砂崩落事件とともに16年前に起きた殺人事件と再び向き合うことになります。
秩父アミューズメントパークに大規模な土砂崩れが起き、一人の女性が行方不明に。
瓦礫から不法投棄された産廃ということがわかり、事故から事件と変わっていきます。
そこで奈良刑事は、16年前産廃反対のリーダーが殺され、迷宮入りした事件の容疑者と目された産廃業者の男と再び関わることになります。
産廃、不法投棄、在日、特殊詐欺、冤罪それぞれが絡み合って社会の闇が浮かび上がります。
複雑な絡み合いなので、お話しの筋立ては語りにくいのですが、奈良健市と金木大輔が真実に向き合っていく過程に心が刺さります。
人が色眼鏡で見る怖さ、在日という差別、固い思い込みから一歩も出ることができない頭と心、私たちが持つ人間性を問われている気がしました。
心優しい奈良ですら思い込みを崩せさないまま、迷宮入りした産廃反対者殺人事件と不法投棄土砂崩落事件の中で動いてしまうのですが、頑な心を解いていくのが、行方不明になった女性の孫壮真。
邪心のない目でそれぞれを見ることができる唯一の存在が解決の道に向かわせていきます。ホント。吉川さんうまい!
奈良と一緒に様々な事態にふりまわされながら、一気に読み進んでしまいます。
人間本来のやさしさを取り戻すことができたなら、どんなに世の中はよくなるのか、こんなにも優しくなれるはず・・・心揺さぶられるお話です。