「主人公ってどうやって登場させたらいいか分からない……」とお悩みの方。今回の解説と、例としてご紹介している映画やテレビを思い出していただくと「そういうやり方があった!」と何かアイデアが閃くのでは!
このコーナーでは、「自分にはシナリオを書く才能がないかも……」と悩んでいるかたへ、面白いシナリオが書けるようになるちょっとした“術”を、シナリオ・センター講師・浅田直亮著『いきなりドラマを面白くする シナリオ錬金術』(言視舎)&『月刊シナリオ教室(連載「シナリオ錬金術」)』よりご紹介いたします。
隠されると見たくなる
隠されると見たくなりませんか?
たとえば20枚シナリオや基礎講座の課題の添削で修正液によって消されている部分があると、つい光にかざして元々何て書いてあったのか知りたくなりませんか?
テレビのバラエティー番組で『魔女たちの22時』というのがあります。さまざまな魔女たち、たとえば50歳なのに20代の肌をもち、娘と歩いていると姉妹に間違えられる魔女、なんていうのが紹介される番組です。
いきなり魔女本人は登場しません。まず再現ドラマがあり、いよいよ、ご本人の登場です!となります。現れた魔女本人の姿にスタジオの観客やゲストたちは「オーッ!」と感嘆の声を上げますが、テレビには映っていません。まず足から映ってカメラは上へ上へと映していきます。さあ、顔が映るぞと思っていると、なんとモザイクがかかっていて見えません。そこでCMなのです。
こうなるとCMあけに魔女の顔を見ずにはいられなくなります。もちろんバラエティーだけではありません。ドラマでも映画でも何かを隠すことで観客や視聴者の気持ちを引きつけることがあります。
隠して、隠して、観客や視聴者が十分に食いついたところで隠していたものを登場させるというわけです。
そこで今回は、「いないいない、バア!の術」。
出だしで主人公を隠す
まず代表的なパターンが出だしで主人公を隠すこと。
映画『レオン』を観てみましょう。
主人公は孤独な殺し屋レオン(ジャン・レノ)。プロとして指示された仕事をこなしつつ鉢植えの観葉植物だけが友だちという生活を送っていましたが、アパートの同じフロアに住む一家が殺され、一人だけ難を逃れた少女マチルダ(ナタリー・ポートマン)を助けたことから、二人は奇妙な同居生活を始めます。それまで決して人に心を開くことのなかったレオンがマチルダと心を通わせていき彼女の復讐に力を貸すことに……というアクションものです。
冒頭はニューヨークの遠景から始まります。そしてカメラはニューヨークの街を走って行きます。と、リトル・イタリアの横断幕があります。これで天地人の天と地が示されます。
つまり『レオン』は撫で型で入っているわけです。
次は天地人の人、主人公が紹介されるわけですが、一軒のイタリアン・レストランが映り、店内でオーナーがレオンに殺しを指示しているシーンになります。
が、肝心のレオンの姿は映っていません。サングラスやミルクを飲む手がアップで映るだけです。
次のシーンからは殺しのターゲットを描いていきます。ターゲットは、つねに何人ものボディガードに囲まれ住居はカメラなどで監視されています。そのボディガードを、レオンは一人ずつ静かに確実に殺していきます。
やはり姿は映りません。降りたシャッターの弾丸痕の穴から中をのぞくサングラスの眼が映ったりするだけです。
ボディガードを全員殺され一人になったターゲットの首筋に背後の暗闇からスッとナイフが当てられます。その時、初めてレオンは姿を現します。
もちろん、ほとんどの観客が、姿を見せない殺し屋がレオンでありジャン・レノによって演じられていると知っているはずです。それでも、あえて姿を映さず隠すことで観客を魅きつけているのです。
重要な人物を隠す
映画『少年メリケンサック』は、主人公ではありませんが鍵となる重要な人物を隠すパターンです。
宮崎あおいさん演じる主人公・かんなが「少年メリケンサック」というパンクバンドを発掘し復活させるというストーリーですが、冒頭、このバンドの正体が隠されています。
まず、レコード会社で契約社員として働くかんながインターネットの動画投稿サイトで「少年メリケンサック」のライブ映像を見つけます。その荒削りで暴力的なライブとベーシストのAKIOがイケメンなのを観てレコード会社の社長は、すぐに契約するよう命じます。
かんなが、AKIOの連絡先である場末の飲み屋を訪ねると、そこにはパンクな髪形とファッションの若者がいます。でも、顔が違います。
と、奥から佐藤浩市さん演じる秋夫が「俺がAKIOだ」と現れます。ボサボサの髪にヒゲ面、穴があいたよれよれのラクダのシャツを着た酔っ払いの汚いオッサンです。
実は少年メリケンサックは25年前に解散しており、かんなが見つけたのは、その時の解散ライブの映像だったのです。もちろん、ほかのメンバーも、どうしようもないオッサンなのですが、かんなは行きがかり上、このオッサン・パンクバンドを何とか復活させなければならなくなるのです。
主人公の登場を遅らせる
姿を隠すのではなく主人公の登場そのものを遅らせるというパターンもあります。
テレビドラマ『古畑任三郎』のシリーズは、映画『刑事コロンボ』で有名な倒叙法といわれる描き方をしています。まず犯人が殺人を実行し、いかに自分の犯行ではないと工作するかを描いてから、田村正和さん演じる主人公・古畑任三郎が登場、犯人の工作を見破っていきます。
たとえば第3話は、まず古手川祐子さん演じる精神科医の笹山アリが、別の女性と婚約した恋人を、人を驚かせることが好きな恋人の性格を利用して言葉巧みに誘導し、自分を驚かすためにストッキングを被ってベランダから部屋に入ってこさせてバットで殴り殺します。強盗と間違えて殺してしまったと正当防衛を主張しようというのです。
アリは自ら警察へ通報し、古畑の登場です。バックライトの逆光の中、テーマ曲が流れて、なんとセリーヌの自転車で登場します。
このセリーヌの自転車に乗って登場するのは、この後、定番になるので今では古畑といえば当たり前になっているのですが、初めて観た時は驚きであり、思わず笑ってしまう意表をついた登場のさせ方です。
テレビドラマで主人公の姿を隠したり登場を遅らせるのは、あまり例がありません。
テレビは、すぐにチャンネルを変えることができます。なので最初から視聴者を釘づけにしたいのです。最も視聴者を魅きつける俳優やタレントさんが演じているのが主人公です。その主人公を最初から出すことで視聴者を釘づけにしようとするからです。
しかし、この『古畑任三郎』のシリーズは犯人役を、たとえば第1話が中森明菜さん、第2話が堺正明さん、のちにはSMAPやイチローも演じています。つまり犯人役のゲスト出演者で視聴者を釘づけにすることができるのです。
なので、あえて主人公の登場を遅らせることができるわけです。
映画『ジョーズ』と『ゴジラ』
映画『ジョーズ』は観たことがない人でも、ああ、あの人食いザメの映画ね、と知っていると思います。
前半、そのサメの姿が隠されています。
冒頭、海岸にキャンプに来ていた若い女の子が夜、一人で海に入って泳ぎます。と、いきなり何ものかに足を引っ張られ、ものすごい勢いで振り回されて、ついに海に沈んでいきます。
翌日、無残な死体が発見されサメに襲われたことが分かり、主人公の警察署長ブロディ(ロイ・シャイダー)は海岸を封鎖しようとしますが、海水浴場しか町の収入がなく海開きが近いため市長は海岸を封鎖させてくれず、何人もの犠牲者を出してしまいます。
後半、ブロディは海洋学者や漁師とともに人食いザメ退治に海へと乗り出しますが、そこで初めて姿を見せるまで、背びれなどの一部だけ見えるもののサメの姿は出てきません。
なので、かえって恐怖がかき立てられます。
これは映画『ゴジラ』も同じパターンです。
特にオープニングは圧巻です。題名や出演者、スタッフなどのタイトルロールが流れるのですが、バックには何も映っていません。黒い画面に、ただタイトルが流れていきます。そして、あの伊福部昭氏が作曲したテーマ曲とゴジラの足音と吠え声が聞こえているのです。
今では「ゴジラ」と聞くと、すぐに姿が浮かびますが、初めて観た観客は、このオープニングに、どれほど想像力をかき立てられたことでしょう!
20枚シナリオでは主人公を隠すのは、なかなか難しいと思いますが、この『ジョーズ』や『ゴジラ』のパターンならできると思いますので、ぜひチャレンジしてみてください。
出典:『月刊シナリオ教室』(2011年2月号)掲載の「シナリオ錬金術/浅田直亮」より
★次回5月27日に更新予定です★
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