「主役と脇役の描き分けが苦手」「脇役の方が面白く書けちゃう」とお悩みの方に是非お読みいただきたいのが今回のお話です。
このコーナーでは、「自分にはシナリオを書く才能がないかも……」と悩んでいるかたへ、面白いシナリオが書けるようになるちょっとした“術”を、シナリオ・センター講師・浅田直亮著『いきなりドラマを面白くする シナリオ錬金術』(言視舎)&『月刊シナリオ教室(連載「シナリオ錬金術」)』よりご紹介いたします。
脇役は脇役
シナリオを書いているうちに脇役だったはずの人物のイメージがふくらんできて気がつくと主人公そっちのけで脇役ばかり書いていた経験はありませんか?
あるいは20枚シナリオを書いていて、あれ?こっちの脇役を主人公にした方がいいんじゃないかなと途中で主人公を変更したことはありませんか?
時々、ゼミで20枚シナリオを受け取って見ると人物表の1番目の人物と2番目の人物を矢印で順番を入れ替えてあったりします。
でも、主人公を入れ替えて上手くいくことは、まず、ないでしょう。主人公が変わるということはドラマそのものが変わるということです。もちろん、主人公を変えた時点でシナリオを白紙にしてゼロから書き直せば別かもしれませんが。
実際のプロの現場でも主人公を入れ替えることは、ほとんどありません。企画を作る段階から、どんな主人公にするかは、どんなことよりも重きをおいて考えられ、それが途中で、やっぱり、こっちを主人公にしようとは、まず、なりません。
また、主人公のキャスティング(どの俳優が演じるか)がすでに決まっている場合もあります。そうなると主人公を変えるなんて、ありえません。あくまでも脇役は脇役なのです。
アンコを作る時に塩を加えるのを、ご存知ですか?塩を加えることで、より甘味が強く感じられるようになるのですが、でも塩を加えるのは、あくまで少量であり脇役です。
そりゃそうですよね、塩が多くなって主役になってしまったら、甘くない、しょっぱいアンコになってしまいますから。
というわけで、今回は「塩がアンコを甘くするの術」!
主人公を困らせる
じゃあ、脇役の使命は何かというと、主人公を困らせることです。
もちろん、脇役が主人公を助けるケースもあるんですが、基本的には主人公が困るようなキャラクターに作り、主人公を困らせているところを描いてみて下さい。
脇役が主人公を困らせるというポイントを、しっかり押さえておけば、脇役ばかり描いてしまったり、どっちが主人公か分からなくなったりしなくなります。
たとえば、映画『羊たちの沈黙』のハンニバル・レクター(アンソニー・ホプキンス)。
原作の小説はレクター博士を主人公としたシリーズものですが、この映画『羊たちの沈黙』では主人公のクラリス・スターリング(ジョディ・フォスター)を困らせる(後半、連続殺人事件解決のヒントを与えますが)役に徹底しています。
ストーリーは、連続猟奇殺人が発生、FBI訓練生のクラリスは主任捜査官から、もとは天才的な精神科医でありながら殺害した被害者の人肉を食べたため州立精神病院に収監されているレクター博士の協力を得るよう命じられます。それまで捜査への協力を一切拒否していたレクターがクラリスにだけは協力する姿勢を見せ始め…というサスペンス。
とにかく、このレクターという男、最凶の怪物です。
かつて精神病院で拘束を解かれた、ほんの一瞬で、看護婦の顎に噛みついて骨を砕き舌を食いちぎって食べてしまったのです。その異常な行動によって州立病院精神異常犯罪者診療所に終身拘束されています。
仕切りガラスに近づくな、個人的な話はするな、レクターからは何も受け取るな、など細かい注意を受けて面会しますが、クラリスは会うだけでもビビリまくりです。
さらにクラリスが訪ねてきた時、隣の囚人が侮辱的な言葉を言ったり行動をしたのに対しレクターは、その囚人を言葉だけで追いつめ自殺させています。つまりレクターは言葉を交わすだけでも相手を殺すことができるわけです。
そして、クラリスは捜査に協力してもらう代わりにレクターから自分の過去について質問され答えなければならなくなります。
後半、レクターはクラリスに事件解決のヒントを与え(その後、見事に脱獄!)、そこからクラリスは真犯人にたどり着くのですが、それまではクラリスがレクターと会うたびに、どうなる? どうする? と引きこまれます。
レクターのような個性の強い強烈なキャラクターができた時、主人公よりインパクトがあるので、つい、こちらを主人公にした方がいいんじゃないかと考えてしまいがちです。
ただ、レクターのようなキャラクターだと、観客や視聴者は共感したり、感情移入しにくくなります。まずは、観客や視聴者が共感・感情移入できるような主人公のキャラクターを考えてみてください。
『ディア・ドクター』
主人公を困らせる脇役はレクターのような極悪人や個性の強い人物ばかりではありません。映画『ディア・ドクター』の八千草薫さん演じる鳥飼かづ子は、悪人でもありませんし決して個性も強くありません。
主人公は笑福亭鶴瓶さん演じる伊野治。かつて無医村だった山間の小さな村の診療所の村唯一の医者で、村人たちから名医と信頼され人柄も慕われていましたが、実はニセ医者です。
かづ子は未亡人で、三人の娘がいるのですが、それぞれ村から離れて生活していて一人暮らし。伊野は、かづ子に近づかないようにしていました。かづ子の娘の一人が本物の医者だからです。
しかし、胃を押さえてうずくまっているところを偶然通りかかり放っておけません。診察してみると癌です。しかも、かづ子は娘たちに負担をかけまいと、本当のことを言わないでほしいと伊野に頼みます。
伊野は断れません。独学で胃癌の治療にあたりながら、何とか、かづ子の娘にウソをつこうとして別人の胃カメラを用意したりします。そのことでニセ医者であることがバレそうになり伊野は追い込まれていきますが、かづ子は伊野がニセ医者であることを知りません。
意図的に困らせているのではないのですが、結果的に主人公を困らせ右往左往させて追いつめてしまっているのです。
『素直になれなくて』
テレビドラマ『素直になれなくて』では、東方神起のジェジュンさんが演じたパク・ソンス(ハンドルネームはドクター)も悪人ではありませんでした。それどころか、むしろ、すごくいい人です。でも、いい人だからこそ上野樹里さん演じる水野月子(ハンドルネームはハル)を困らせています。
ストーリーはツイッターで知り合った5人の男女が恋愛や仕事に悩みつつ友情を育てていく姿を描く青春群像劇ですが、ハルと瑛太さん演じる中島圭介(ハンドルネームはナカジ)のラブストーリーがメインです。ドクターはハルに思いを寄せストレートに愛を告白したり、メンバーの前で自分がハルを好きだと宣言したりします。
実はハルはナカジのことを好きなのですが、ドクターが、あまりに素直で真っ直ぐなので傷つけることが出来ません。
さらにドクターは、ナカジの恋人のことで傷つき泣いていたハルを優しく励ましたり、高校の非常勤講師をしているハルが教え子たちに襲われているのを助けたりします。
ハルは、ドクターの想いを受け入れ交際を始めます。そんなハルにドクターはプロポーズ、韓国に一緒に行って欲しいと頼みます。ここでもハルとナカジの行き違いがあって……と、ハルが振り回され困らされるのです。
たとえ「こんなこと、自分は絶対できません」ということでも、あえて自分ではできないことをできてしまうキャラクターを考えて、主人公を困らせてみてください。
出典:『月刊シナリオ教室』(2011年1月号)掲載の「シナリオ錬金術/浅田直亮」よ
※主役と脇役についてはこちらの記事も併せて!
▼これでスッキリ!人物の描き分け
▼新刊『ちょいプラ!シナリオ創作術 人気ドラマが教えてくれる「面白い!」のツボ』(言視舎)
▼『いきなりドラマを面白くするシナリオ錬金術』はこちらのシナリオ・センターの書籍一覧で
▼『シナリオ錬金術2』発売記念ブログ「“シナリオ、楽しい!”を増やしたい!」はこちらから
「シナリオの技術を、楽しくわかりやすく伝えます!」