今回ご紹介するキッズシナリオは、こういったお問い合わせから始まりました。
差出人は、広島県呉市立広南中学校3年生担当の先生。
この中学校では毎秋、地域の方々に日頃の感謝をこめて、文化活動発表会「広南劇場」を開催。学年ごとに演目が異なり、3年生は地域の歴史等をテーマにした創作劇を行っています。
でも、「毎年シナリオを手掛けていた先生が異動されたため、シナリオ作成が難しくなり、“創作劇”というより“調べ学習の発表”のようになってきてしまった」と。
また、「生徒たちがシナリオを書くことで、子どもたちの主体性を高めるキッカケにもなるのでは!」ということで、ご相談を受けた、というわけです。
担当の先生によると、今年の創作劇は『ミュンヘンへの道 采谷選手物語』を原作として、1972年ミュンヘン五輪に出場された呉市出身のランナー 故・采谷義秋さんを主人公にすることが決まっています。
一見すると、「原作があるのだからイチから考えるよりも簡単そうだな」と思いますよね。いえいえ、原作があるからこそ気を付けなければいけないことがあるのです。
それがこの2点。
・主人公のキャラクターを決めること
・そのキャラクターが一番出ているシーンを原作から抜粋すること
なぜこれが重要なのか、担当の新井がお伝えした模様を、広報の齋藤がリポート致します。「原作の脚色ってどうやるんだろう」とお悩みの方や、「地域を盛り上げるような創作劇を作りたい!」という方は特に参考にしてください。
“調べ学習の発表”ではなく“創作劇”を作るために
=今回の概要==============
・サービス名:「<キッズシナリオ>広南劇場を成功させよう!-第1回目-」(オンライン)
・目的:創作劇のシナリオを作る
・対象:呉市立広南中学校 3年生
・時間:約2時間
※キッズシナリオの詳細
https://sites.google.com/view/kids-scenariocenter/home
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「広南劇場」は地域の皆さんが毎年楽しみにしている大切なイベント。
「地域を盛り上げるために力になりたい!」と新井、燃えています!
〇新井:みんなは、地域の皆さんにどう思ってもらえたら「創作劇、成功した!」となりますか?
――すると、生徒さんから続々と意見が。
・「なるほど!」と思って、感動してくれたら。
・地域の方々に喜んでもらえたら。
・地域の方々に采谷義秋さんのことをもっと知ってもらえたら。
・地域の方々に采谷義秋さんのことを深く知ってもらって、より“地域の誇り”と感じてもらえたら。
・采谷義秋さんの奥様に感動してもらえたら。
〇新井:おお!いいですね!そう感じてもらいたいよね。
〇新井:事前に先生から「最近の創作劇は“調べ学習の発表”のようになってしまっている」とお聞きしました。これはね、原作があるときに起こりがちなことなんです。
なぜそうなってしまうのかというと、原作に出てくる「こんなことがありました」っていう出来事をただ単に並べていってしまうと、こうなっちゃうんです。
皆さん、「ストーリー」という言葉は知ってますよね。たぶん、シナリオを作るためには「ストーリーを作らなきゃ」って思ってるんじゃないかな、と。
――ZOOMの画面に映る皆さん、「え?違うの?」という表情です。
〇新井:「ストーリー」というのは、「出来事を並べたもの」なんです。「出来事」を羅列して、こんなことがあって、ああなって、こうなりましたっていう「ストーリー」を作ると、“調べ学習の発表”になっちゃうんですよ。
ストーリーだけでは面白くならないんです。
それはなぜか。そこに「ドラマ」がないからです。
よくスポーツ番組とかでさ「今回の試合では素晴らしいドラマがありましたね!」って聞いたことない?全力を出して頑張っている選手たちの姿を見て、感動しない?
――生徒さんが頷いてくれています。
〇新井:つまり、「ドラマ」というのは「人間を描くこと」なんです。ひとつひとつのシーンに、人間が描かれていないと、観客は感動したり、面白いと感じない。
〇新井:じゃあ、「人間を描く」にはどうしたらいいかというと、登場人物のアクション・リアクションを描きます。この登場人物は、こんなとき、どんなことをするのか、どんなことを言うのか、を描くわけです。
そのために一番最初にやるのが「登場人物のキャラクター(性格)」を設定すること。
登場人物のキャラクターが分からないとアクション・リアクションが描けないんですよ。例えば、友達と遊んでて帰りが遅くなったとき、「遅くまで何やってるの!」とかさ、お父さんやお母さんに何て言われるか、なんとなく分かるよね?
――「うんうん」と生徒さん。
〇新井:それって、お父さんやお母さんのキャラクターを知っているからなんです。だって、僕が何て言うかはまだ分からないでしょ、今日会ったばっかりだもんね(笑)。
――生徒さん笑っております。
〇新井:ということで、第1回目となる今日は、登場人物のキャラクターについて考えていきます。
登場人物のキャラクターを設定する
*
〇新井:さっきみんなが言ってくれたように、この創作劇を観た地域の人が感動したり、采谷さんのことを深く知ってもらうためにはまず、采谷さんのキャラクターを決めます。
皆さん、「采谷さんはこういう性格だと思う!」というのを考えてみてください。
――すると、すぐに意見が!
・自分で言ったことは最後までやり遂げる性格
・走ることが大好きな性格
・諦めない性格
・まめな性格
〇新井:さすが!『ミュンヘンへの道』やその他いろいろな資料を読み込んでいるだけにスラスラと出てきますね!
では、「私が思う采谷さんはこういう感じ」というのがバラバラだとまとまらなくなるので、今回の劇で描く采谷さんの性格はどれにするかみんなで1つ決めてほしいのですが、その際、ポイントがあります。
性格を考えるときは「〇〇すぎる性格」と少し極端にしてください。ドラマや映画を観てると「そこまでやる?そこまで言う?」って思うときありません?でもね、控えめに性格を設定しちゃうと、主人公のアクション・リアクションが書きづらくなっちゃうの。
例えば、「まじめすぎる性格」な主人公だったら、授業が始まる5分前から、机の上に教科書とか全部準備して座っていたりとかね、そういうアクションが書ける。このシーンを見ただけで「この主人公ってすごく真面目なんだな」って伝わるでしょ。
――皆さん頷きながらメモを取ってくれています。
〇新井:そして、「〇〇すぎる性格」を決めたら、次は「憧れ性」と「共通性」を決めてください。
憧れ性は、観客が「すごいな!」と思うところ。
共通性は、観客が「自分と同じだ!」と思うところ。
この2つがあると、魅力的な人物になるんですよ。
「憧れ性」を決めるっていうのはなんとなく分かると思うんだけど、なんで「共通性」も決めなきゃいけないんだと思う?もっと言うと、なんで「憧れ性」だけではダメなんだと思う?
――首を捻る皆さん。
〇新井:「憧れ性」だけだと「すげー!」で終わっちゃうからなの。観客は「自分と同じだ!」って思うと、親近感が湧くんです。親近感が湧くと「この後、どうなっちゃうの?」って主人公に共感して、感情移入して、で、「面白い!」と感じるんです。
例えば、僕が「実は呉市出身なんです」って言ったら「え!」って僕にちょっと興味わくでしょ?
――「ああ!」と皆さん。
〇新井:だから、「①性格(〇〇すぎる性格)」「②憧れ性」「③共通性」は、登場人物のキャラクターを考えるときの「核」となります。それでは実際にこの3つを考えてみよう!
――皆さん「うーん」とちょっと苦戦中です。
――皆さんが一生懸命考えてくれたアイデアがこちら。
・「①諦めない性格」「②足が速い」「③呉出身」
・「①諦めない性格」「②諦めずに走り続ける」「③挫折を経験したことがある」
・「①何度くじけても立ち上がる性格」「②毎日努力をかかさない」「③苦痛を味わったことがある」
・「①走ることが好きすぎる性格」「②どんな雨・風が強くても走ることをやめない」「③落ち込んだり、呑みに行って愚痴ったりするところ」
〇新井:おお!いろいろ出ましたね。「憧れ性」を考えるのがちょっと難しかったかな?
――「うんうん」と皆さん。
〇新井:考えるときのポイントなんだけど、もっと抽象的に考えてOKです!
例えば、「性格」は「諦めが悪すぎる性格」とか「一生懸命すぎる性格」みたいな感じで考えてみてください。
それから、「足が速い」というのは憧れる部分ではあるけど、ちょっとピンポイント過ぎるし、これだと特技とか特徴になっちゃう。
憧れ性は「メンタルなこと」と考えると作りやすいと思います。例えば、「諦めが悪すぎる性格」だったら、憧れ性は「どんなときもやり遂げる」とかね。
どうでしょうか?難しい?大丈夫?
――すると画面に「グッドボタン」が!
〇新井:あ!大丈夫ですね、ありがとうございます。
こんなふうに采谷さんの「〇〇すぎる性格」「憧れ性」「共通性」を1つずつ、みんなで決めて統一してほしいんです。
だから、「この3つをどう設定するか」という視点でもう一度『ミュンヘンへの道』を読んでみてください。もし可能だったら、采谷さんの奥さまや采谷さんのことを知っている人たちに取材して、どんな方だったのかお話を聞くというのもいいかと思います。
これが次回のキッズシナリオまでにやってもらいたいことの1つ目です。
登場人物のキャラクタが一番出ているシーンを原作から抜粋する
*
〇新井:そして、次回のキッズシナリオまでにやってもらいたい2つ目のことが、この創作劇で描きたい采谷さんのキャラクターがしっかり出ているシーンを、『ミュンヘンへの道』から探してもらうこと。
「キャラクターが出ている」というのは、采谷さんのキャラクターならではのアクション・リアクションが描かれている、ということです。
例えば、采谷さんを「一生懸命すぎる性格」と設定するなら、一生懸命すぎる采谷さんだからこそ言うだろうな、するだろうな、というアクションやリアクションが描かれているシーンを『ミュンヘンへの道』から見つけてください。「幼少期のシーンがいいんじゃない?」とか「挫折したときのシーンがいいんじゃない?」とかね。
というわけで、『ミュンヘンへの道』を読んで「〇〇すぎる性格」「憧れ性」「共通性」を決めたら、それがよく出ているシーンを抜粋するという視点で、またもう一度『ミュンヘンへの道』を読み返してください。
「今回の授業を受けて、より良いものが作れるんだ!と実感しました!」
*
――こんなふうにあっという間に終了の時間となった第1回目。
今回、新井がお伝えしたことをもとに
①主人公のキャラクターを決めること
②そのキャラクタが一番出ているシーンを原作から抜粋すること
――を次回までに皆さんにやっていただきます。
最後に生徒さんがこんな感想を言ってくれました。
〇生徒さん:私たちがやろうとしている創作劇は、この地域で実績がある方を主人公にしていて、そして、それを地域の方々に観ていただきます。これはとてもすごいことです。だからこそ、より良いものを作りたいし、今回の授業を受けて、より良いものが作れるんだ!と実感しました!
――新井、感動。
元気よくバイバイした後、担当の先生からいただいたメールにはこんなことも。
〇先生:生徒にはいつも日記を書いてもらうのですが、今日は「すごく良かった」「分かりやすくシナリオ作りの極意が学べた」「知らないことを知ることができた」「リモートで東京と授業できたことが新鮮で楽しかった」等々、普段はそれほど沢山書かない生徒が、びっくりするほど書いてくれて、すごく充実していたんだなと思いました。また、授業でとったメモもびっしり書いており、楽しく学べたのだと改めて実感しました。
――新井、さらに感動。
皆さんのスケジュールとしては、6月頃までには台本を完成させ、7月には配役決め&読み合わせ、9月から舞台で練習し、10月初旬に発表、を予定しています。
次回のキッズシナリオでは「構成(起承転結)」をやる予定です。
「原作の脚色ってどうやるんだろう」「地域を盛り上げるような創作劇を作りたい!」という方は、今回そして今後ご紹介していく模様を是非ヒントにしてみてください。
※「うちも授業を受けたい!」という方はご参考までにこちらのブログもご覧ください。
▼「コミュニケーション力 を上げるシナリオ研修 事例まとめ」