広島県呉市立広南中学校3年生の皆さんは、毎秋、地域の方々に日頃の感謝をこめて開催する文化活動発表会「広南劇場」で創作劇を行います。内容は『ミュンヘンへの道 采谷選手物語』を原作として、1972年ミュンヘン五輪に出場された呉市出身のランナー 故・采谷義秋さんを主人公にしたもの。
そのシナリオを作るために、キッズシナリオを実施させていただいており、今回はその第2回目。
※第1回目の模様はこちらから
▼地域を盛り上げる創作劇/@呉市立広南中学校
=今回の概要==============
・サービス名:「<キッズシナリオ>広南劇場を成功させよう!-第2回目-」(オンライン)
・目的:創作劇のシナリオを作る
・対象:呉市立広南中学校 3年生
・時間:約2時間
※キッズシナリオの詳細
https://sites.google.com/view/kids-scenariocenter/home
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前回に引き続き、新井が担当。広報の齋藤が当日の模様をご紹介します。
「取材で聞いた話や実話を元にストーリーを作りたい!」「創作劇を作りたい!」という方、是非参考にしてください。
取材でどんな話を聞くことができたか発表
〇新井:まずは前回の復習から。
取材で聞いた話や実話を元にストーリーを作るとなると、「このエピソードも入れたいし、これもいれたい」ってなると思います。でも、そうやってストーリーを作ると出来事をただ羅列しただけの“ストーリー”になってしまいます。
そうならないためにはどうしたらいいか。
まず、面白いストーリーには、ひとつひとつのシーン(場面)に“ドラマ”があります。“ドラマ”とは人間を描くことです。ひとつひとつのシーンに、人間が描かれていないと、観客は感動したり、面白いと感じません。
人間を描くには、こういうシチュエーションならこの人はこうやるだろうな・こう言うだろうな、という「アクション・リアクション」を描きます。
そのために肝心になるのが、登場人物のキャラクターの設定。キャラクターが定まっていないと、アクション・リアクションが描けません。
そこで前回、采谷義秋さんのキャラクターを決めるために、「〇〇すぎる性格」「憧れ性」「共通性」を設定しよう!というお話をしました。で、2つの宿題を皆さんにお出ししましたよね。
・宿題①
「〇〇すぎる性格」「憧れ性」「共通性」を決めるという視点で、もう一度『ミュンヘンへの道』を読んでみる。また、もし出来たら、采谷さんの奥様や知り合いの方々に取材して、そこで聞いた話も参考にする。
・宿題②
①で決めたキャラクターが一番出ているシーンやエピソードを、『ミュンヘンへの道』や取材で聞いた話から抜粋する。
――先生によると、宿題①に取り組むために、生徒の皆さんは采谷さんのお兄様、奥様、また、走るキッカケを作った指導者、中学の同級生、教え子といった方々にも取材を実施したとのこと。
どんな話を聞くことができたのか、発表してもらいました。その一部がこちら↓
・子どもの頃、独楽を空中で回す技“ちょんかけ”が出来るようになるまで必死で取り組んでいた。
・采谷さんが走るキッカケを作った指導者の方は、大学時代に陸上を学び、当時はお風呂屋さんを営んでいて、その近くに采谷さんの中学校があった。走れそうな人をチョイスして、何人か集めて、チームを作ろうとしていた時期で、野球部の練習で采谷さんが走っているのを見てスカウトしたいと思った。
・中学時代、野球部でピッチャーをしていたが、得意だったからではなく、不器用でそれ以外できなかったからピッチャーをやっていた。
・ミュンヘン五輪のマラソン代表に選ばれたとき、采谷さん自身は「ピークを越えている」と感じていた。
――「すごい!いろいろな話が聞けたんだね!」と皆さんの取材力の高さに新井、拍手。
――では、取材で聞いた話と『ミュンヘンへの道 采谷選手物語』から、皆さんはどんな「○○すぎる性格」「憧れ性」「共通性」にしたのでしょうか!?
宿題①:「〇〇すぎる性格」「憧れ性」「共通性」を決める
――皆さんが考えてくれた「〇〇すぎる性格」「憧れ性」「共通性」がこちらです。
・〇〇すぎる性格:挑戦することに熱心すぎる性格
・憧れ性:努力・継続・ひとりでも達成するまでやりきる
・共通性:無口・普通・不器用
〇新井:すごくよく考えてくれましたね!
ここから、もうちょっと絞っていきましょう!
「〇〇すぎる性格」「憧れ性」「共通性」を考えるときのポイントは、内面的なものを、できるだけシンプルに考えること。例えば、
・〇〇すぎる性格:熱心すぎる性格
・憧れ性:努力し続ける
・共通性:不器用
でいいかなと思います。熱心すぎる性格だから、努力し続けるし、一方で不器用。
〇新井:そのほか考えてくれた「挑戦する」「ひとりでも達成するまで続ける・やりきる」「無口」というのは、“特長”になります。熱心すぎる性格だから、難しいことにも挑戦する。努力し続けるから、ひとりでも達成するまで続けるし、やりきる。不器用だから、話すことがあまり得意ではなくて無口。みたいな感じです。
キャラクターを作るときは、こういった特長も大切ですし、加えて「見た目」「趣味」「苦手なもの」とか、今回の劇では使わなくても一応決めておくと、采谷さんのイメージがより固まっていきますよ。
――生徒の皆さん、メモメモ。
〇新井:1つ気になったのが共通性のところで考えてくれた「普通」。これは表現するのが難しいんです、人それぞれ「普通」の認識が違うからね。もうちょっとどんな感じなのかを考えてほしい。たぶん、みんなは「オリンピック選手なのに、その凄さは出さない、自然体な人」みたいな意味で「普通」って言葉を選んだのかな?
――生徒の皆さん「うんうん」と頷いています。
〇新井:そうだよね!「普通」みたいに、定義するのが難しい言葉は、人に伝わるように言い換えてみてね。
こんな感じで、「〇〇すぎる性格」「憧れ性」「共通性」が決まると、これを軸にして、「こういう人だから、こうなんじゃないか」を考えられるようになります!
〇生徒さん:はい!
宿題②:キャラクターが一番出ているシーンやエピソードを抜粋
――次はいよいよ宿題②。取材で聞いた話や『ミュンヘンへの道』から、①で決めたキャラクターが一番出ていると思うシーンやエピソードを発表してもらいました。
〇生徒さん:“ちょんかけ”が出来るようになるまで必死で取り組んでいた、というエピソードを入れたいです。
〇新井:いいね!憧れ性の「努力し続ける」が表れているエピソードだね!
――他にも、スカウトされて走ることになったエピソード、毎日走るトレーニングをしていたこと、ミュンヘン五輪のマラソン代表に選ばれたとき、など沢山出ましたが、新井はここで一旦ストップをかけました。
〇新井:いま言ってもらったエピソードを全て入れると、出来事を羅列したストーリーになってしまって、“ドラマ”が薄くなる可能性があります。何を描くのか、描かないのか、を選ばないといけません。
そこで大切になるのが「テーマ」。
テーマとは采谷さんの姿を通して「観客に伝えたいこと」。
テーマを決めるときのポイントは、シンプルに「〇〇は△△だ」とか「〇〇の△△さ」と考えること。例えば、「努力することは大切だ」とか「諦めないことの大切さ」とかね。
テーマが決まると、そのエピソード必要か、そうでないか、選べるようになります。
――「なるほど」というように頷いてくれる生徒さん。
〇新井:で、次に「選んだエピソードをどう構成するか」を考えます。構成を考えるとは、「起承転結」を考えることです。
――起・承・転・結、それぞれの機能がこちら。
・起=「天(時代)」「地(舞台・場所)」「人(登場人物のキャラクター人物)」を紹介する部分。また、「アンチテーゼ(テーマの逆)」から始める。
・承=障害が発生して、葛藤する部分。障害の種類は3つ、①事実 ②事情 ③事件
・転=テーマ(この物語で伝えたいこと)を感じさせる部分
・結=テーマの定着と余韻を持たせる部分
〇新井:さきほど言った「テーマ」というのが「転」。この山形の図を見てください。「転=テーマ」に向かって物語が進みます。例えば、テーマが「努力することは大切だ」なら、この部分で伝わるよ、ということです。
――こんな風に、起承転結の説明をする中で、皆さんが特に「そうか!」と驚かれていたのが「承」でした。
〇新井:「承」は全体の7~8割を占めます。この部分で大切なのが「主人公を困らせること」。主人公が進みたい方向があるなら、それを邪魔して困らせればいいんです。
主人公が困れば困るほど、観客は「どうなるの?」と感情移入する。また、ピンチに陥ったときほどキャラクターが出ます。“その人らしさ”が出ると、観客は「がんばれ!」と物語にどんどん引き込まれます。だから「困らせる」というのが大切なんです。
〇新井:さっき、「スカウトされて走ることになったというエピソードを入れたい」って言っていたよね。
ちょっと質問したいんだけど、もしみんなが野球をやってて、いきなり「走るの速そうだから野球より走った方がいいよ」って言われたら、どう?
〇生徒さん:びっくりする
〇生徒さん:野球を続けたいなって思う
〇新井:そうだよね!これは僕の勝手な想像だけど、当時の采谷さんはスカウトされてすぐ「はい、分かりました!」とはならなかったと思うの。「え、どうしよう……」って困って、葛藤したと思うんですよね。
だから、このエピソードは単なる「マラソン選手になったキッカケ」ではなくて、「承」で描く障害の種類の1つである「事件」として描けると思うんです。
こんな風にね、抜粋したエピソードの中で“采谷さんを困らせる材料”になるものがあるか、想像してください。
そうすれば、出来事が羅列しただけのストーリーにはなりません。ドラマがちゃんと描かれている、つまり人間が描かれている面白いストーリーになります。
――「ああ!」という生徒さんの表情がZOOMの画面に映っています。
シナリオ執筆に取り掛かる前にやる5つのこと
*
――皆さんは、6月中のシナリオ完成を目指しています。そのために、まずは以下5つのことに取り掛かってくださいと新井は伝えました。
①今日お伝えしたことも踏まえて、「○○すぎる性格」「憧れ性」「共通性」が出ていると思うエピソードや原作のシーンを、もう一度考えて選ぶ。
②選んだエピソードを時系列で並べる。
③テーマを決めて、そのテーマで描く上では、いらないエピソードを消す。
④「承」で使う、采谷さんを困らせる材料になるようなエピソードを選ぶ。
⑤「起」の“出だし”で使うエピソードを選ぶ。
〇新井:⑤の注意点です。どういう“出だし”なら観客が引き込まれるか、を考えてください。
それから「起」は時系列にこだわらないでいいですよ!例えば、ミュンヘン五輪のマラソン代表に選ばれて、祝福ムードの中、采谷さんだけ嬉しそうな表情をしてない、というところから始まってもOK。
――考えなければいけないことが沢山ありますね……。でも、皆さんの表情は全然どんよりとはしていません。それどころか、こんな嬉しい感想を言ってくれました。
〇生徒さん:物語を作る上で一番重要なところを知ることができたので、今日お聞きしたことをもとにして、采谷さんの奥さんや観客の皆さんに感動を届けられるものを作りたいと思います!
――新井とともに楽しみにしていますので頑張ってください!
* * *
今回ご紹介した構成「起承転結」は特に、、物語を作る上では肝心なところです。
「取材で聞いた話や実話を元にストーリーを作りたい!」「創作劇を作りたい!」という方、こちらのブログも併せてご覧ください。
※「キッズシナリオを実施してもらいたい!」という方はご参考までにこちらのブログもご覧ください。
▼コミュニケーション力 を上げるシナリオ研修 事例まとめ