女郎花
シナリオ・センター代表の小林です。東京も涼風がたってきて、ちょっと一息な気分です。
蓼科の友だちから「今日は10度だよ、寒いよ~。セーター着ている」と便り。秋は確実に来ているのですね。
土曜日に大竹しのぶさんの「ふるあめりかに袖はぬらさじ」を観劇してきました。
有吉佐和子さんの原作で、私は文学座の名優杉村春子さんのお芝居も観たことがあります。
ここのところ、大竹しのぶさんは「女の一生」もそうですが杉村春子さんの当たり役をおやりになっていて杉村さんを追っているのかなぁと思いながら拝見しました。名優杉村春子に負けず劣らず、大竹さんはうまいです。
この作品は、尊王攘夷に騒ぐ江戸時代末期、男に翻弄されながらも女の意地を通して必死に生きていく女たちの姿が描かれています。
横浜の女郎が、異人に身請けされることを拒んで自死をしたとして瓦版でもてはやされ、「露をだにいとふ倭(やまと)の女郎花(おみなえし)ふるあめりかに袖はぬらさじ」という辞世まで作られます。
その嘘を昔なじみのお園が語るところが見せ場です。自分たちのいいように解釈したい攘夷の男たちに「本当も嘘もありゃしませんよ」というお園。
有吉さんはこの作品で、男社会に振り回されて、フェイクニュースの張本人になってしまうお園という女性を通して、社会の無知さ、個人の尊厳、メディアの危うさなど現代にも通じるテーマをはるか昔に喝破されています。
有吉佐和子さんの「恍惚の人」「複合汚染」今一度読み返したい。
猫弁と狼少女
お待たせしました!!やっとでました、出身作家大山淳子さん、待ってました!!
猫弁第2シリーズ4作目。「猫弁と狼少女」(講談社刊)
猫弁こと百瀬太郎は、ようやく事務所も引っ越し、婚約者とも同居を始め、少しずつ一般的な生活にも足を踏み入れ始めた矢先、依頼人の家の塀を登ろうとしていた女の子を捕まえようとして、誘拐犯として逮捕・拘留されてしまいます。
無実なのに、弁護士なのに、なぜかひたすら黙秘を貫きます。
亜子さんはもちろん、事務所の野呂さん、七重さん、後輩の沢村弁護士、浪人生の正水直などなど周囲の人を巻き込んでちょっと大変。
それには捕まえようとした女の子への事情があるのですが・・・さて。この先はネタ晴らしになるので、内緒。
読んでください。もう止められない勢いで読めますから。(笑)ああ、それでやさしい気持ちになります。
まずは、相変わらずのどうしていいかわからない亜子との生活から百瀬らしさを、過去の夢から百瀬の性格形成の一端を楽しんでください。
私が「猫弁」を大好きなのは、登場人物の悪い人もみんないい人だからです。(?)
そう、それぞれが2面性(多面性)を持っていて、悪人も善人も一筋縄ではいかないのです。
人それぞれの思い方、悪さ、やさしさ、すべてに出し方が違う、だからこそのぶつかり合いで、そこにドラマが生まれる。大山さんのうまさはそこなんですね。
そして、そーぉっと、声高ではないが男性(同性)同士の結婚が許されない、同棲していても結婚していないと家族とはみなされないとか、社会の理不尽さも突いています。
怒りの小林のストレート表現とは違って(笑)、こういう伝え方こそが沁みとおるのですね、大事なんですね。
大山さんの作品は、大山さんがとても人間が大好きで、ろくでもなくてもなんでも愛おしいと思っているからこそ生まれるのではないかと私は思っています。
実は、ここ数日友人が亡くなったことで悲しみ以上に怒りに満ちていた私でしたが、ああ、そういう風に考えてもいいんだなぁと見事に癒してくれ、心穏やかに友人の死を受け入れようと思うことができました。
本の一冊が人の心にどれだけ入り込んで、自分と向き合わせてくれるのか。
改めて、本のすばらしさを感じました。
読書の秋です。読書嫌いの方も「猫弁」ならすーっと入って来て、楽しめますよ。
追:明日は「表参道シナリオ日記」私事でお休みさせていただきます。申し訳ありません。