シナリオ・センター 新井の新刊『プロ作家・脚本家たちが使っている シナリオセンター式物語のつくり方』(日本実業出版社)
先日、ジュンク堂書店池袋本店で刊行記念対談「あなたもきっと書きたくなる&書けちゃう!物語のつくり方」を開催しました。対談のお相手は、シナリオ・センター 出身ライターの坂口理子さん。
当日は、ご参加いただいた皆さまからのご質問にもお答えしながら進行。
そのご質問で感じたのは、皆さん何かしら「書きだせないでいる理由」をお持ちなんだな、ということ。
例えば、書きたいことはあるけど
「結末まで考えたほうがいいのかな」
「いろいろ考えずに勢いで書いてもいいのかな」
――と悩んで書き出せないでいる、というケース。
終了後、会場にいた代表・小林や、わたくし広報・齋藤のもとに「自分も悩んでいたのですが、書いてみよう!という気持ちになりました」とお声がけくださった方が数名いらっしゃいました。
そこで、こちらのブログでは、前述した2つの「書きだせないでいる理由」に対する新井と坂口さんの回答をご紹介。「書きたいと思っているけどなかなかスタートできないでいる」という方。新井と坂口さんの言葉が背中を押してくれると思いますよ!
「Q 書き始める際に結末を決めなくてもいいのでしょうか?」
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〇新井:『シナリオセンター式物語のつくり方』の中で、「とりあえずどんな話にしたいか、1行考えてみるといいと思いますよ」と書いています。で、その1行を考えるときは、「〇〇する話」「〇〇になる話」じゃなくて、「〇〇しようとする話」「〇〇になろうとする話」にしよう、と提案しています。
というのは、「〇〇する話」「〇〇になる話」だと、「そうしなきゃいけない」「そうならきゃいけない」と結末が縛られてしまう。でも、「〇〇しようとする話」「〇〇になろうとする話」だと、しようとするんだけど or なろうとするんだけど上手くいかなかったというニュアンスが入るので、結末は「してもいいし、しなくてもいい」「なってもいいし、ならなくてもいい」みたいな感じで、どっちになってもいいんですよ。
なので、結末は決めなくてもいいと思うんですよね。ただ、「こんなシーンが書きたいな」っていう結末のイメージがあるんだったら、そこに向かってどうやって組み立てていけばいいかを考えればいいと思います。
〇坂口さん:脚本を担当した映画『銀河鉄道の父』を書いているとき、最初の段階で「あ、浮かんだ!」と思ってメモ書きした結末のシーンがそのまま採用されています。勿論、その結末に行きたいと思って、そこに向かって書くけれども、その結末にたまたまた行き着いただけであって、行かなくてもいいんですよ。そのぐらいのつもりでいればいいと思うんですよね。
また、「結末をこうしたいのになぜか書けない」という場合はもしかしたら、その結末がいま自分が書きたいものと違うのかもしれない。書き進めていくうちに書きたいことが変わってくることだってあると思うんですよね。テーマはあると思うけど、でもそのテーマすら、もしかしたら変わることだってあるかもしれない。
書きたい方向へ、動き出したほうへ、楽しんで書いたほうが面白いんじゃないかなと思います。だから、結末を最初に決めるというのはアリだと思うんですけど、決めたところに行かなきゃいけないわけではないと思います。
「Q 自分が書く物語のテーマについて伝わりやすくするために、読み手の人物像を深く考えるべきでしょうか。それとも、自分のクリエイティブがほとばしるままに筆を走らせてもいいのでしょうか?」
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〇坂口さん:最初は読み手を想定しなくていい気がします。自分の思った通りに、誰がどう思おうが、「これは私の、俺の、書きたい物語!」でいいと思います。
情熱のほとばしるままにエンドマークまで書いてみて、「この作品は自分の胸にしまっておきます、大事なメモリーです」というんだったら、それはそれでいい。
でも「誰かに見てもらって共感してほしいな」とか、「はて、私のために書いた、私が大好きなこの物語を、これで終わらせていいんだっけ?」と思ったら。そのときになって初めて、読み手とか観客というのが出てくると思うんですよね。で、そこから「直し」がはじまるわけです。
わりと皆さん、作品って“固いもの”と思っているんじゃないかなと。「こう書かなきゃいけない」と思いがちなんですけど、書いてみてダメだったら直せばいいんですよ。そのぐらいに思っていたほうがいい。
だから、この質問に対する答えは、最初はそんなことにとらわれずに自分が書きたいと思うものを書きたいだけ、情熱のほとばしるままに書いてください。「情熱がほとばしる」なんて最高じゃないですか!
もし情熱がほとばしらないなら、読んでもらいたい人を想定して、その人に伝わるにはどう書こうかなと考える方法もありますし、書いていく順番はいろいろです。こうしなきゃいけないとか、これはダメ、というのはないんじゃないかな。
〇新井:僕もそう思う。
創作ではないけど、この本を書いたときは「誰に向けて」をまず考えました。シナリオ・センターでは小学校高学年~中学生向けのオンライン創作講座「考える部屋」というのもやっています。
そのメンバーのひとりで、大人も唸るような考え方や発想をもっていて、繊細な物語を書く子がいるんですけど、その子が「なるほど!」と思ってくれるような本にしようと思いました。この子がそう思ってくれたら、たぶん他の人もそう思ってくれるんじゃないかなと。
なので、創作でも創作以外のこういう本でもどちらでも、書いていく順番というのは関係なく、自分がやりやすいようにやっていけばいいのかなと思います。
役割や機能を知っていれば、悩まずに済む!
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――沢山お寄せいただいたご質問の中には、「書き始めたけど、書けなくなった」というこんなご質問も↓
「Q 執筆中に、自分が書こうとしているテーマと同じものが世に出ているのを知り、しかも、そのレベルの高さに、書く自信がなくなってしまいました。このまま書き進めても挫折してしまいそうです」
対する回答がこちら。
〇坂口さん:テーマは被るのが普通だと思うんですよね。心折れなくても全然大丈夫ですよ。
〇新井:テーマは被りまくりでいいと思うんです。この本の中で、テーマは「友情は大切だ」みたいに、抽象的でシンプルでいいよ、とお伝えしています。「友情は大切だ」をテーマにした作品は沢山ありますよね。
テーマはあくまでも物語を作るときの旗印。そこに向かってシーンが積み重なって、物語が展開していく。テーマを具体的にしていくのは「シーン」です。だからテーマを、他の作品とは被らないように具体的に設定してしまうと、シーンを考えていくときに行き詰まってしまいます。
――この二人のコメントに、会場の方も「うんうん」と頷かれていました。
こんな風に、役割や機能を知っていれば、悩まずに、途中で諦めずに、書き進めていくことができるのではないでしょうか。坂口さんとの対談を通して、新井はこの本を書いたキッカケについても触れていました。
〇新井:この本に書いてあることは僕が考えたことではありません。タイトルに「シナリオ・センター式」とあるように、シナリオ・センターのやり方です。これを考えたのは僕の祖父であり、シナリオ・センター創設者の新井一です。そして、その技術を伝え続けてきてくだったシナリオ・センターの先生方の“蓄積”も、この本に詰まっています。
僕は新井一さんのオタクなんです。新井一さんは、創作には「何を書くか」と「どう書くか」がありますよと。「何を書くか」は皆さんの中にあるからそれは教えられません。でも「どう書くか」の技術はいくらでもお渡しできますよと。
で、新井一さんは『シナリオの基礎技術』『シナリオの技術』『シナリオ作法入門』などで技術を紹介してきました。
創作の悩みに対する答えは、もう既にここに書かれていると僕は思っています。ただ、その答えが、どこに書いてあるのかを見つけるのが少し大変かなと。そういった分かりづらさを解消したいという想いもあって、この本を書きました。
〇坂口さん:読まれたかた皆さん感じると思うんですけど、すっごい優しいんですよ。「書けなくても大丈夫です、安心してください。書けなくても、それはあなたの才能がないんじゃなくて、やり方が少し違うだけなんですよ。それをこれから解説しますよ」って言ってもらっているみたいなんですよ。こう言われれば救われるじゃないですか。だから、書き手の味方になってくれる本だなと。
〇新井:ありがとうございます!皆さんの日々の創作に役立ててもらえたら!と思います。
この本が“優しい杖”のような存在になれば
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――会場に来てくださった方々のほかにも、オンラインでも沢山の方々にご視聴いただきました。感想もいただきましたので一部ご紹介。
・物語を書くことで、人を見る眼や社会を見る眼が変わると仰っていたのが興味深かったです。いろんな人の物語を想像することで、「この人はなんでこんなことを言うんだろう」といつもならイラっとすることが、今までと違う視点で見ることができそうだなと思いました。今まで、特に創作したことはないですが、「後から何度でも書き直せばいいから、とりあえず書いてみればいい」というお言葉を聞いて、とりあえず書きたい部分から、好きに自由に書いてみたいなとワクワクしました。
・とても面白く分かりやすく、内容の濃い、愛溢れる対談をありがとうございました。迷っておりましたが、本も買わせていただきます。そして、私も情熱のほとばしるままに書いてみたいと思います。
・「ストーリーではなくシーン」「ストーリーに合わせてキャラを変えない」「結末にこだわらない」「<〇〇する話>ではなく<〇〇しようとする話>」など、シナリオ(フィクション)に関するお話でしたが、ある種のドキュメンタリーや、『鶴瓶の家族に乾杯』的な番組にも通じるなぁと思いながら拝聴していました。ありがとうございました!
・「ストーリーではなくドラマが大切である」というお話に腹落ちした。
・物語にとって何が大切なのかを教えてもらえた。本は読んだが、重要な部分を強調してもらえた。有意義だった。
・物語の書き方のヒントを得ることができました。
・最後に新井さんが言った、「いろんな視点を持つ人になってもらえたら」という趣旨の言葉が印象に残りました。
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――今回の対談でも、取材していただくときも、新井は「この本に書いてあることが“正しい”かは分かりません。ただ、創作をする際のひとつの方法として使ってもらえたらと思っています」と話しています。
坂口さんには「書いている人のジレンマを分かってくれて、“こういうところで躓くよね。ほら!”って杖を優しく差し出してくれるような本」とも、言っていただきました。そんな“優しい杖”のような存在になれば、と新井は思っております。
書きたいことはあるけど書き出せないでいる方、また、途中で挫折してしまう方、今回ご紹介したコメントとともに、宜しければぜひ『シナリオ・センター式 物語のつくり方』を参考にしていただければと思います!