第23回テレビ朝日新人シナリオ大賞。応募総数1023篇(前回は1064篇)。
今回の募集テーマは「ラブストーリー」。
第1次選考は日本脚本家連盟に所属する脚本家によって行われ、164篇が通過。第2次・3次選考は、テレビ朝日のプロデューサーやディレクターなどで構成された社内選考委員会によって審査が行われ、第3次選考で10篇に。最終選考会では、選考委員の井上由美子さん、岡田惠和さん、両沢和幸さんの3氏によって、大賞1篇・優秀賞2篇が決定。
そしてこのたび、現在、シナリオ・センターの本科で学ばれている松下沙彩さんの『スプリング!』が大賞を受賞。先日、授賞式が開催され、そのときの松下さんの受賞スピーチによると、「ラブストーリー」は自分では絶対に描けないと思っていた難しいテーマで、どうしても思いつかなかったので、恋愛以外のある実体験を掛け合わせて作ったのだそうです。
「恋愛ものを書くのは苦手」という方もいらっしゃるのではないでしょうか?松下さんの受賞コメントと、選考委員お三方の講評に、恋愛ものを書くときのヒントがあると思いますのでご紹介。広報の齋藤がリポートいたします。
大賞受賞:松下沙彩さん
「ラブストーリーは、実は絶対に描けないと思っていた難しいテーマだった」
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==受賞作『スプリング!』あらすじ==
優等生で書道部に所属する女子高生・逢坂碧は、受かると期待され挑んだ国立大学の前期入試に落ちてしまう。失意のどん底で声をかけてきたのは、同級生でバスケ部の村瀬佑。佑も、碧と同じく法学部に落ちたという。現役合格最後のチャンスは3日後に控える後期試験だが、試験科目は小論文、合格者はたったの10人。碧の気持ちはすっかり浪人に向かっていた。投げやりモードの碧を、なぜかしつこく励ます佑。一緒に小論文を勉強しようと、国語教師の佐山に引き合わせようとする。佑の巧みな誘い文句、次第に一理あると思いはじめる碧。性格も学校カーストも正反対の2人の、短期集中・合同後期試験対策がはじまる――。
〇松下さん:大賞とは思はなかったのですごくビックリしています。
この作品は、以前通っていたシナリオ学校で書いていた作品で、そのときの先生お三方と同期のクラスの皆さんにアドバイスやご意見をいただいて何度もプロットを修正して、シナリオも修正して、応募しました。
作品の中で主人公が小論文を書くのですが、その中に“推敲”という言葉があります。この作品も応募する前にたくさんの方に読んでいただいて、主人公と同じように推敲を重ねて仕上げた作品です。ご協力いただいた皆さんに感謝いたします。
小論文をテーマにしたのは、私の体験談から。大学受験のときに前期試験で落ちて、「もう終わったな」と思ったんですけど、一週間後にあった後期試験で5人の枠に入って受かりました。今回、どうしても“恋愛”で思いつかなかったので、当時の体験と、そのとき私には何も起こらなかったけど、もしあのとき “恋愛が降ってきたら”どうなったかなと思って、掛けあわせて作りました。
私の職業はライターで、誰かを取材して、その“誰かの話”を記事にするのが仕事なんですけど、あるとき「人の話を聞いて書いてるだけだな」と。「自分でゼロから書いてみたいな」と思ったのが脚本家を目指したキッカケです。
今までも仕事をしながら地道に脚本を書いてきたので、これからもそれを続けていって、いつか自分の作品が1本でも映像になったらうれしいなと思います。
(今後もしテレビ朝日のドラマを書くことになったら)今回のテーマであるラブストーリーは、実は絶対に描けないと思っていた難しいテーマなので、できればラブストーリー以外で書きたいです。特に、「母親の物語」を書きたいです。あと、声優さんが好きで、いま声優業界の話を書いているので、それをいつか使えたらなと思っています。
選考委員による講評:井上由美子さん
「次回は“ちょっと尖ったチャレンジ”を読みたい」
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〇井上さん:今年も1000本以上の作品が集まって、第3次選考で絞り込まれた10篇を心を込めて読みました。
今年の傾向としては、題材がラブストーリーだったので、作者も作品の登場人物も全体的に若い印象がありました。それはとても良いことかなとも思いましたが、一方で、題材や人物の人間関係などが似通った作品が多く、もう少しバラエティに富んだものを読みたかったなというのが、最終審査を終えた正直な感想です。
一口にラブストーリーといっても、高校生の男女がいれば、老人の男女もあり、不倫もあり、LGBTQももちろんありますし、60年くらい前に室生犀星が『蜜のあはれ』で金魚に恋をする話を描いたように、それぐらいちょっと“尖ったチャレンジ”を次回は読みたいなと思っております。
でもそんな中で、こちらのお三方の作品は個性的で、筆力もずば抜けていたと思います。
大賞を受賞した松下沙彩さんの『スプリング!』は高校生の男女が小論文を通して恋を紡ぐ物語ですが、小論文という題材はなかなか見たことがなくて、とても新鮮で、展開も無理がなく、作品の世界をスムーズに楽しめたなという感じがしました。「推敲を重ねていた」ということなので、「やはり推敲は大事だな」と自分でも反省しました(笑)。
優秀賞を受賞した伊藤彰汰さんの『雨のサンカヨウ』は、将来の見えない男子高校生が、無戸籍の少女と出会い、恋をして成長するお話です。重いテーマなんですが、人物の造形やセリフがとても軽やかで、このギャップもあって、とても面白い作品になっていました。応援したくなる物語だったと思います。
同じく優秀賞を受賞した寺岡恭兵さんの『スマートフォンより愛をこめて』は、運命的な出会いを夢見ている女性が幼馴染幼馴染みの男性と再会して、ストーカーをする。しかし、実はその相手こそが、自分のストーカーだった、というラブコメ風味が効いた物語でした。
実は今回、選考委員3人の推した作品が割れまして、私は『スマートフォンより愛をこめて』を推させていただきました。どの作品も素晴らしかったのですが、ストーカーした相手が自分をストーキングしていたという設定は、思いつきそうでなかなか思いつかない仕掛けですし、そのアイデアに溺れずに人物を魅力的に描こうという工夫を重ねているのが、すごく伝わってきました。
ただ、惜しいのはタイトル。『スマートフォンより愛をこめて』というタイトルはやっぱりどこかで聞いたことがありそうなタイトルで、損をしているなぁというふうに、“応援団”としては思いました。もう少し新鮮で内容にフィットしたタイトルがあれば全体の見え方も変わってきたと思います。
皆さん本当に素晴らしい才能で、ドラマへの愛が伝わってくるお三方でした。今は“浮く”のがみんなイヤだそうで、学校などでも先生に褒められないように生きている子どもが多いと聞きますが、脚本家は浮いてなんぼの仕事ですから、浮いたり批判されたりすることを恐れず、思い切っていろいろな世界を描いていってほしいと思います。3人がドラマ界を背負って立つ日を楽しみに待っております。
選考委員による講評:岡田惠和さん
「“激しい恋愛もの”は求めていないのかな、という感じが新鮮だった」
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〇岡田さん:今回はラブストーリーがテーマだったので、どういう作品が上がってくるのか、とても楽しみにしていました。全体の傾向としては、「激しい恋愛もの」みたいな作品はほぼなくて。禁じられた愛とか、結ばれない愛とか、濃い純愛とか、不倫もそうですけど、みんなたぶんそういう激しさを、ラブストーリーを、求めていないのかなという感じが逆にすごく新鮮で面白かったです。
その中でも、個性豊かに愛を描いたお三方の作品が最終的に勝ち抜かれてきた、というふうに思います。
松下さんの『スプリング!』は、とてもかわいらしい作品。2人で小論文に取り組んでいくことで恋愛が進んでいくというもの。ぶっちゃけ「小論文、どうやって“画”にするの!?」という(笑)、そういう存在をテーマにするのは難しいし、表現が分かりづらい部分もあるかと思うんですけど、どういうところで悩んで、どういうところが弱くて、最後にそれをどう思って小論文に書いたのかということが、2人の恋愛の行動とちゃんと結びついているという、すごく誠実で清々しい作品だと思いました。キャラクターもセリフも巧みで、センスがあると思いました。
選考でいうと、僕は『スプリング!』に最も高い評価をさせていただいた、と記憶しております。過不足なく、ちゃんと悩まれていて、足したり削ったりした“痕”があって、僕も頑張ろうと思いました(笑)。
伊藤さんの『雨のサンカヨウ』は、今回の応募作品の中で最も強い恋愛のカセを作ったドラマ。ヒロインが無戸籍という存在なので、シリアスすぎたり、正義を振りかざしたり、というようなドラマになりがちなところを、すごく明るく、すごくリアルな感じで描いていくことに成功している作品だと思いました。正義感の押し付けとかではない、読後感の良さも感じましたし、主人公の男の子のキャラクターがとても好きでした。主人公のお母さんのキャラクターの作り方も独特で、とても魅力がありました。最終選考の場では割と最後のほうにグッと推されてきたような感じでした。
寺岡さんの『スマートフォンより愛をこめて』は、とにかく面白く駆け抜けた作品。これはなかなかできることではなくて、構成も巧みで思い切っていて、セリフもうまいし、力を感じますし、すごい即戦力の人だなと思います。20年ぶりに出会った男女がもう一度恋に落ちるというものすごくシンプルな話ですが、なんだか見ていて結ばれてほしいなと思うような、2人ともちょっとおバカで(笑)、かわいいドラマになっているなと思いました。
非常に楽しい選考で、僕ももう少しだけ頑張ってみようと思うので、日本のドラマ界をこれから一緒に作っていけたらなと思っております。
選考委員による講評:両沢和幸さん
「愛がもつ両面性や多様性に深い考察を加えた作品がもっと増えてくれれば」
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〇両沢さん:最後に残った3本は、なかなか議論が割れました。
『スプリング!』は受験の話で非常にユニークでしたね。自分が落ちたと落ち込んでいると、同じく受験で落ちた男の子が一緒に勉強しようと誘ってきて、後期の試験に通れば受かるよと。ところが男の子は嘘をついていて……という。2人が勉強する話なんですけども、そこは少しユニークでした。
70年代頃に『ペーパーチェイス』というアメリカ映画があるので機会があったら是非観てください。ハーバード大学法学部の学生がホテルに閉じこもってひたすら勉強するんだけど、ホテルが追い出そうとして、ホテル側と闘いながら勉強する、という。「最後にどうやって見せ場を作るんだ!?」と思うんだけど、「どうやったら勉強というものをスペクタクルにするか」を追求した非常に面白い作品だったので参考になるかと思います。
昨年、テレビ朝日新人シナリオ大賞で大賞をとった作品は映像化されたので、今年も映像化してもらえるのかな? だとすれば、さらに推敲しなければならないと思いますが、映像化を楽しみにしております。
『雨のサンカヨウ』の「サンカヨウ」という言葉は初めて知って勉強になりましたね(笑)。僕はこの話、かなり好きでした。戸籍のない少女と高校生のラブストーリー。この2人のラブがなかなか切なくて、今回の応募作品の中では、ドラマチックで、「戸籍がない」という割と強いカセを持ってきたところと、彼女が風俗店で働いているんですが、そこで勉強するというところがすごく面白かったです。オリジナリティーを感じましたね。
『スマートフォンより愛をこめて』は、初恋の2人がずいぶん経ってから再会して、片方がなかなか気づかないと思っていたら、実は気づいていて、その思いを伝えられないという、A面とB面があるような凝った構成で、そこが面白かったです。ただ個人的には、両方とも「受け入れ態勢OK」みたいなところからスタートしちゃってることがちょっと残念でした。もうちょっと、「片方は結婚していて、次に会ったときは離婚していて」くらいの展開があってもいいんじゃないかなと思いました。
「ラブストーリー」というと、この言葉の響きからして、おしゃれで楽しい話になりがちなんですが、日本語に訳すと「愛の物語」となります。愛の物語は非常に沢山あって、究極的に言ってしまえば、芸術や文学が描くテーマは大体、愛と死なんですね。愛を描くか、死を描くか。そういった二大テーマの1つである「愛」は、人を元気づけるときもあれば、破滅に追いやるときもある。だから、“軽い響き”で収めてしまうのではなくて、愛がもつ両面性や多様性といったものに深い考察を加えた作品がもっと増えてくれるといいなと思っております。
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今回ご紹介したこちらのブログとともに、シナリオ・センター発行『月刊シナリオ教室』(2024年1月号)掲載予定の松下さんの受賞シナリオとコメントも参考にしていただきまして、次回のテレビ朝日新人シナリオ大賞やその他のコンクールにぜひ応募してください!
次回応募する際の参考に!
これまでの「テレビ朝日新人シナリオ大賞」授賞式の模様&講評
・第22回テレビ朝日新人シナリオ大賞/視聴者を惹きつける“もう一捻り”
・第21回テレビ朝日新人シナリオ大賞/応募するならクライマックを意識
・第20回テレビ朝日新人シナリオ大賞優秀賞受賞 長島清美さん/テーマ“25歳”で書いて
・第19回テレビ朝日新人シナリオ大賞にみる/どんな脚本が賞 をとるのか
・第18回テレビ朝日新人シナリオ大賞 映画部門・優秀賞受賞 川瀬太朗さん
・第18回テレビ朝日新人シナリオ大賞にみる①/脚本コンクールで賞をとるには
・第18回テレビ朝日新人シナリオ大賞にみる②/映画・テレビドラマ・配信ドラマの部門について
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