脚本家でもあり小説家でもあるシナリオ・センターの柏田道夫講師が、公開されている最新映画を中心に、DVDで観られる名作や話題作について、いわゆる感想レビューではなく、作劇法のポイントに焦点を当てて語ります。脚本家・演出家などクリエーター志望者だけでなく、「映画が好きで、シナリオにもちょっと興味がある」というかたも、大いに参考にしてください。普通にただ観るよりも、勉強になってかつ何倍も面白く観れますよ。
-柏田道夫の「映画のここを見ろ!」その77-
『ザ・クリエイター/創造者』ありきたではない「AIもの」の造り
SF超大作の『ザ・クリエイター/創造者』を取り上げます。この映画は画期的で、実に独創性に富んだSF映画の傑作で、そうしたジャンルとは縁遠いと思う志望者が多いかもしれません。いえいえ、この映画から学べるところ、作劇術、ここを見ろ、といえるポイントが実はたくさんあります。
監督・共同脚本は初の長編SF映画『モンスターズ/地球外生命体』で、世界中のSFファンをあっといわせたギャレス・エドワーズ。共同脚本は、『アバウト・ア・ボーイ』の監督・脚本のクリス・ワイツで、エドワーズ監督とは『ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー』でタッグを組んでいます。
超大作といっても『ザ・クリエーター』は、エドワーズ監督独自の手法で、この手のハリウッド映画の半分ほどの製作費なのだとか。監督自身が最小限のスタッフと、小型デジタルカメラで、タイ、ベトナム、カンボジア、ネパール、インドネシア、そして日本を回り、風景や町を撮影、その映像を元に、CGとVFXを駆使し、ポストプロダクションで場面を仕上げていったとか。
実際映画を見ると分かりますが、東南アジアの田園風景に巨大宇宙船が襲来したり、おなじみの黄色い衣を着たロボットの僧がチベットの寺院にいたり、さらには未来都市としての東京のネオン街が背景になっていたりします。そうした場面としての造りも注目点なのですが、物語はいわゆるAIと人間の戦いというおなじみのSFの設定、テーマとなっています。
人間が開発したAI(人工知能)が突然、核を爆発させたことで、人類 vs AIの戦争が激化。西欧世界がAIを排除、アジア圏は共存させている。
潜入捜査官ジョシュア(ジョン・デヴィッド・ワシントン)は、妻を亡くし失意にいたのだが、AI側を勝たせることのできる兵器の創造者“ニルマータ”を見つけ、暗殺せよという命を受けてアジアへ向かう。もうひとつ、妻は生きているという情報もあり、彼女を探そうとする。そこで出会ったのは、6歳の少女の姿をした超進化型AIのアルフィー(マデリン・ユナ・ヴォイルズ)で……。
ここから戦争アクションを展開させながら、ジョシュアとアルフィーの旅を経ての人間とAIに絆は生まれるか? というおなじみのテーマが展開されます。ちなみに反乱軍を率いるAIのハルンを演じているのは渡辺謙さん。
さて、今回の「ここを見ろ!」は、まさにここ、いわゆる「AIもの」の描き方やアプローチについてです。
近年、ChatGPT(生成AI)とかが話題になったりしていて、これからの社会や生活にこうしたAIがいやおうなく関わってきます。そうした時代の動きからなのか、皆さんが書いてくる作品に「AIもの」が増えてきています。で、正直「またかよ」と思ったりします。
これが壮大なSF作品とかなら、まだ興味も沸いてくるのですが、ほとんどが(日本では特になのか)こぢんまりとしたホームドラマか、恋愛物です。近未来の都会で、日常に人型ロボット、もしくは人間と区別が付かないAIのアンドロイドがいて、主人公のパートナーとなっていて、そこから心を持つAIと、友情だったり恋愛の対象、あるいはストーカーになって、みたいな。これは一典型ですが、AIというと、誰もが真っ先に思いつく設定、アイデアの作品だったりします。
ところで、ロボットとかが人間に反乱を起こしたり、愛情が芽生えたりという設定のSF映画は、大昔からたくさんあります。AIに限っても、例えばスピルバーグ監督の『A.I.』は、ど真ん中のそうしたテーマでした。あるいは近年では、画期的だった『エクス・マキナ』をぜひご覧下さい。心を持った女型AIと、振り回される青年の斬新な低予算映画でした。
で、『ザ・クリエーター』もある意味、メインテーマは述べた通りで、心を持つ進化型のAI少女と、殺すという指命を帯びた男との(『子連れ狼』的な)旅を通しての、人間とAIとの絆が深まっていくというのは変わりません。
ですが、映像で展開するニューアジア圏の、AIと人間が共存している世界のなんと美しく、新しい風景なのか?
AIという最先端を題材にしながらも、あえて新しさとは真逆な世界と融合させる。こうした逆転の発想を成立させ、これまでにないSF映画としています。
さらに、この美しい世界を破壊しようとする西欧勢力という対立軸の、いかにもシンプルかつ分かりやすいメッセージ性、こうした造り、アプローチ法をじっくりと見て下さい。
※YouTube
映画『ザ・クリエイター/創造者』日本版本予告(60秒)
-柏田道夫の「映画のここを見ろ!」その78-
『ゴジラ-1.0』テーマと人間ドラマこそが感動を呼ぶ
前回はSF超大作『ザ・クリエイター/創造者』をご紹介しました。それをしのぐようなわが国製作のSF(?)超大作を取り上げます。そうそう、いきなりのロケットヒットスタートを切った『ゴジラ-1.0』です。
ゴジラこそは日本が世界に誇る一大スターです。パンフには、実写日本版『ゴジラ』映画のリストが載っていますが(この「『ゴジラ』映画史」と「ゴジラ造型の歴史」は資料価値あり!)、本作がちょうど30作目とのこと。
前作が2016年の庵野秀明さん脚本・編集・総監督の『シン・ゴジラ』で、これは画期的な現代版で、大怪獣ゴジラの襲撃に精鋭チームで挑む、群像劇的なデザスター・スペクタクル映画でした。ある意味正統派シミュレーション活劇。
この大ヒット作に続く新版に、監督・脚本・VFXとして挑む山崎貴さんのプレッシャーを想像するだけで身も震えるほどですが、見事に前作とはまったく違うアプローチと、テーマ性、人間ドラマとすることで、新たな傑作を送り出したと思います。極力、ネタバレしないように語りますね。
山崎監督は新たにゴジラを登場させる時代として選んだのは、太平洋戦争終戦の年(1945)と、その2年後の、ようやく焼け野原からの復興がなされようとしていた東京です。ゆえにマイナス1.0という意味です。
私自身、1954年の第一作『ゴジラ』の衝撃から、ずっと追いかけてきたのですが、この一作目の中で、電車の乗客がゴジラ襲来ニュースに怯え、「せっかくここまで復興したのに、また焼け野原になるのか」と嘆く場面がありました。
さらに第一作でゴジラは、アメリカによるビキニ環礁での水爆実験で目覚めたという設定で、怒りの化身であり、反戦、反核の思いを背負っていました。この原点ゴジラの精神を徹底的に踏まえつつ、さらに深めるカタチとして山崎監督は、終戦直後という時代性を据えたわけです。
さて、我らにはおなじみの怪獣映画『ゴジラ-1.0』ですが、今回の「ここを見ろ!」は、テーマと人間ドラマ性こそが感動を呼び起こすということ。ところで、ゴジラ映画に関しては、かなり前ですが、第9回にアメリカ版の『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(※)を取り上げました。
この映画ではゴジラの仇敵であるキングギドラ、さらにモスラやラドンも登場してバトルをするスペクタクルで、いわゆるハリウッド版「三幕形式」として構成されている点が、「ここを見ろ!」でした。それはそれとして、それら見せ場を重要視したせいか、主人公の科学者やその一家、さらにはキーパーソンのはずの芹沢博士(渡辺謙)らの人物造型や人間ドラマ性がパターンで浅く、シナリオとして失敗していると指摘しました。
『ゴジラ-1.0』の感想の中には、いわゆる怪獣映画の一番の見せ場、スペクタクルである、都市や人間の兵器の破壊場面が少なく(中盤の都心大破壊場面の迫力だけで、私は満点を差し上げたいのですが)、さらには怪獣同士のバトルシーンもなくて残念というのもありました。
その感じ方も分からなくはないのですが、『ゴジラ-1.0』には、作家が訴えたいテーマががっちりと据えられています。あの戦争で特攻に象徴される、若者が命を国家に捧げるのは当たり前、神聖な讃えるべき行為とされた反省を訴えていて、その思いがキャッチである「生きて、抗え。」に示されています。
またところでですが、私が脚本を書いた(五十嵐匠監督共同脚本)沖縄戦を描いた『島守の塔』は、国に命を捧げることこそを信条としている軍国少女(吉岡里帆)に、政府から赴任した知事(萩原聖人)と警察部長(村上淳)が、「生きろ!」と告げるのですが、これこそが本映画のメインテーマでした。
『シン・ゴジラ』が群像劇だったのに対して、『ゴジラ-1.0』の主人公は、特攻兵でありながら、その任務から逃れた敷島浩一(神木隆之介)。すなわちあの時代に生き残った多くの日本人が、抱えていたであろう負い目、戦争の傷が新たに襲いかかるゴジラとの戦いに挑む姿として感動を呼びます。
唯一の欠点があるとすると、敷島と共に生きようとする孤独な女性の大石典子役が浜辺美波さんで、「その組み合わせはついこの前まで……」と連想してしまうところでしょうか。ともあれ、こうしたスペクタクルが売りの映画であっても、背景として時代性であったり、人間ドラマこそが感動を導き出すというところを見て下さい。
※その9『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』についてはこちらを。
※YouTube
東宝MOVIEチャンネル
【予告】映画『ゴジラ-1.0』《2023年11月3日劇場公開》
- 「映画が何倍も面白く観れるようになります!」
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