小学校高学年~中学生向けのオンライン創作講座「考える部屋」基礎科(全24回)。12回目の「中間発表会」と、最終回となる24回目の「大発表会」では、子どもたちが書いたシナリオを発表します。
その模様は親御さんの他、シナリオ・センターの生徒さんや一般の方もオーディエンスとしてご視聴いただけます。ご覧いただくと大半の方は「子どものときにこんな貴重な体験ができていいなあ」と羨ましがります。
というのは、「考える部屋」は小学校高学年~中学生向けではありますが、学んでいるのはプロの脚本家の方も使っているシナリオの技術。お伝えしている内容は基本的にシナリオ・センターの基礎講座やゼミと同じです。
先日実施した3期生の中間発表会でも、オーディエンスとして参加してくださったシナリオ・センターの生徒さんが「私がつい最近、ゼミの課題を通して学んだことをその年齢でもう経験しているなんて……」とびっくりされていました。
そこで、特に“創作を通して大人顔負けな体験”をした「考える部屋」メンバー2人の模様を、広報の齋藤がリポート致します。「小中学生のうちに、何か為になることを体験させたい!」とお探しの親御さん方、是非参考にしてください。
「調べたことをどれだけ捨てられるか」はとても大切
中間発表会で発表する課題は、「考える部屋」担当の新井と講師のヒロくん(※考える部屋では先生とは呼びません)による「制限があることで、かえってアイデアが鋭くなる」という想いから、以下のようなルールを設けています。
・テーマ「料理」
・シナリオの形式で書く&発表(伝わるように書くのがポイントなので補足で説明はしない)
・200字詰め原稿用紙「ペラ」で10枚(400字詰め原稿用紙なら5枚)で書く
・主要人物は3人くらいで(3人だと本音と建前が交錯して物語が面白くなるため)
上記のルールに沿って、9名の3期生たちはそれぞれ個性あふれる作品を執筆&発表。
そのうちのひとり、Yさんの作品をご紹介します。
作品タイトルは『七色の香辛料』。
==あらすじ==
インドカレー専門店が舞台。今日は有名なカレー鑑定士・ミスター辛口が来る日。なのに店長やスタッフが来ない。しずもり れいあ(小学4年生)が困っていると「僕らが手伝ってあげるよ」という声が聞こえ、とんがり帽子をかぶった7人の小人たちが出てくる。「カレーを作るぞ!」と促された れいあ は作り始めるが――。
作品発表後は、感想を伝えたり、作者には「今回工夫したところ」も話していただきます。
◆考える部屋メンバーの感想
・小人たちが、楠色帽子の小人、黄土色帽子の小人、赤茶色帽子の小人、みたいな名前になっていて、話が進むうちに、帽子の色はスパイスの瓶の蓋の色なんだなっていうことと、この瓶が小人なんだなっていうのが分かって、これをセリフで説明するんじゃなくて、ト書で表現しているのがすごいなと思いました。
・小人たちのそれぞれのキャラクターが、セリフやト書で表現できていて、すごいと思いました。
・店長さんが最後に言った「昔も今も不思議なことがあるもんだな」というセリフから、店長さんも昔同じような不思議な体験をしたんだな、というのが分かって面白かったです。
◆ヒロくん・新井の感想&作者による今回工夫したところ
〇ヒロくん:まず、主人公の「目的」をきちんと考えて、れいあが「インドカレーを作る」という目的に向かって進んでいくというところがすごくいいなと思いました。「考える部屋」で習った「貫通行動(主人公が自分の目的に向かって進むための一貫した行動)」がしっかりできています。
れいあの変化もよく描けていましたね。はじめは「自分一人でも作れる」と小人たちの言うことに耳を貸さなかったけど、うまくいかなくて、「言うことを聞いておけばよかった」と落ち込んで、小人たちとカレーを作っていく。この変化をセリフとト書によってしっかり描かれているのが上手だなと思いました。
あと、最後にお店の名前が分かるようになっていたのも良かったです。
〇Yさん:最後にレイアが「ようこそ、“七色の香辛料”へ」とお店の名前を言うところ。あれはどうしようかな、ってすごく迷ったんです。でも最終的に一番初めに思いついたことだったので、それを使いました。工夫したことのひとつかなと思います。
〇新井:あとさ、「ベーと舌を出す」とか「ペタッとへたり込む」っていうト書で、れいあの感情をうまく出していたよね。カレーの作り方もすごく調べたんじゃない?
〇Yさん:はい!インドカレーの作り方を調べた、というのも工夫したところです。でも、けっこう調べたんですけど、シナリオではカットしまくったので、ほとんど出てこなくて……。それがすごく悲しかったです。
〇新井:そうなんだね。でも、「作り方を調べた」というのは、作品の“厚み”としてちゃんと出ていたよ!
それに、「調べたことをどれだけ捨てられるか」というのは、実はとても大切。
同じことをプロの脚本家もやっています。脚本を書く前に沢山取材したり調べたりするけど、全部は使わない。例えば、主人公のキャラクターが出ていないエピソードや、その物語で伝えたい「テーマ」から外れたエピソードは、たとえどんなに面白い内容だったとしても使わない。捨てます。
だからね、Yさんは今回、大人顔負け、プロ顔負けのことを経験したんですよ(笑)。
――Yさん、新井の言葉に照れています。
でも本当に、この“気づき”はすごいことなんです。オーディエンスとして参加してくださったシナリオ・センターの生徒さんは「調べたことを全部盛り込まないで精査していくことを、小学生の時点で実感するなんて……」と驚かれていました。
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“実際の感じ”を知っていると強い
もうおひとり、Tさんの作品をご紹介。発表後、新井や考える部屋メンバーから「おお!」という声が洩れました。作品タイトルはナシ。
==あらすじ==
教室から生徒たちが次々と外へ出ていく昼休み。おおはし むつみ(小学6年生)はひとり本を開く。そこへ弟の けん(小学1年生)が、チーム戦で行う料理選手権に出たいが人数が足りないと誘いに来る。乗り気でないむつみに、けんは同じマンションの子にもお願いしようと提案。最初に訪ねた かわかみ りん(小学6年生)は「ずっとむつみちゃんと仲良くなりたかった」とすぐに承諾。これで申し込めると思いきや、けんは2人にあることを告げる――
◆考える部屋メンバーの感想
・私にも弟がいるんですけど、むつみとけんの関係がステキだなって。2人の関係性に感動しました。
・けんが「出たいけど人数が足りない」とポスターを持ってきて、そこに「チーム戦」と書かれているのを見て、「チーム戦は無理だよ」ってむつみが言う。ここまでをセリフで説明するんじゃなくて、小道具のポスターを使うことでポンポンと進んでいってるのがすごいなと思いました。
・けんが「実はその選手権、締切りが終わっちゃったんだ」と言ったけど、本当に終わっていたのかなって。最後の「でもいいじゃん。姉ちゃん友達できたし」っていうセリフから、本当は友達がいないお姉ちゃんのために計画を立てて、仲良くなれそうな子を探そうとしたのかなとか、だとしたら、けんはすごい頑張ったんだなと思いました。
◆作者による今回工夫したところ&ヒロくん・新井の感想
〇Tさん:りんちゃんは、選手権が終わっていたと知らされても「えー!でも、これがキッカケで仲良くなれたから、まいっか!」みたいなキャラクター。りんちゃのこういう勢いにむつみが押されるような感じを出したのは、工夫したところかなと思います。
〇ひろくん:そうだよね、どの登場人物もキャラクターが良く出ていました!特にむつみのキャラクター。冒頭の、昼休みになった途端、ゆっくり本を開くという描写。このト書で、いつも一人で本を読んでいるような子なんだなというのがすぐ伝わる。ファーストシーンで主人公のキャラクターが分かるというのはすごくいいです。
あと、お姉ちゃん想いの心温まる話になっているけど、それだけじゃない。むつみは、チーム戦とか誰かと関わるのはあんまり好きじゃないけど、弟に頼まれたら「しょうがないな」と受け入れる。そういったところから弟想いということも分かる。姉想いの話でもあるし、弟想いの話でもある。この姉弟愛の描き方がとても上手でした。
〇新井:Tさんには弟がいるよね、むつみとけんの関係性に近いところってある?
〇Tさん:うーん、けっこう仲はいいですね。考えてみたら、自分と弟との関係みたいなものも出ているかもしれないです。
〇新井:うん、出ていると思う。
シナリオ・センターには「本科ゼミナール」というクラスがあって、そこに「姉妹(兄弟)」という課題があります。この課題を通して「他人とは異なる宿命的な姉妹(兄弟)だからこその感情を描く」というのを勉強するんだけど、兄弟姉妹って友達とはまたちょっと違う関係性だから、描くのは難しいんです。でも、もうTさんはしっかり描けていますね。
やっぱり、“実際の感じ”を知っていると強い。自分と周りの人との関係性とかね、自分が普段感じていることを、創作にどんどん活かしていってくださいね。
〇Tさん:はい!
自分の「こだわり」を、自分の言葉で説明
最後、オーディエンスとしてご覧いただいた保護者の方から、「登場人物のキャラクターやストーリー展開、登場人物の関係性など、皆さんそれぞれの“こだわり”が表現されていて素晴らしいと思いました。ありがとうございました!」というご感想をいただきました。
こだわり。新井は“締めの言葉”として、こんなことを話していました。
〇新井:今回は中間発表会なので、面白い物語になるようにみんな頑張ってくれたと思います。でも、それよりも何よりも大切なことがあります。今は、物語をうまくまとめることよりも、自分は何を書きたいと思ったのか、そのためにどんなことを考えて、どういう工夫をしたのか、というところに「作家の眼(色々な方向から物事を考えること)」を向けてほしい。
だから、今日は作品発表だけじゃなくて、自分がこだわった「工夫したところ」も言ってもらいましたよね。創作過程やそこに込めた想いを自分の言葉で説明できるか、というのも大切なんです。でも、みんなちゃんと説明できていたよね、素晴らしかったです!
これからも、物語を作ることを通して、考える力を高めていきましょう!
* * *
――今回の模様をご覧いただいた「小中学生のうちに何か為になることを体験させたい!」という方、いかがでしたでしょうか。「物語を作ることを通して、書くこと以外にもいろいろ学べるんだ!」ということがお分かりいただけたのではないでしょうか。
なお、来年は『考える部屋』4期生の募集と、そこに向けた体験会も実施予定です。ご興味ございましたら是非ご参加ください!
※「考える部屋」についてはこちらの記事も参考にしてください。
▼小学5・6年生、中学生向けオンライン創作講座『考える部屋』まとめ
▼観客・視聴者・読者が 「おもしろい!」と思うシーンを考える『考える部屋Ep6』
▼『考える部屋』EP12 中間発表会/「物語を書くのが好き!」な子どものチカラ
▼書きたいことを形にするには/小学校高学年・中学生が物語を考える
▼子どもの考える力を伸ばすには/キッズシナリオ『考える部屋』大発表会
▼面白い物語が作れていない時は「起承転結」で考える/「考える部屋」1期 Season2よりご紹介
▼創作が好きな子どもにお薦めの習い事/好きな事を共有できる場所
▼シナリオの形式が身につくと面白い小説が書けるようになる/『考える部屋』2期生 中間発表会
▼『考える部屋』2期生大発表会/書き手のイメージが読み手に伝わるように