シナリオ・センターの新井がお手伝いさせていただいている、昭和女子大学×世田谷区立下馬図書館×VIVITA JAPAN「VIVITA BOOKS 世田谷ふしぎの本プロジェクト2023」(全10回)。
▼前回の模様はこちらで
「不思議な物語を書くとき」
このプロジェクトは、子どもたちが作家役、昭和女子大学の学生たちが編集者役となり、まちの「気になるもの」や「不思議だなと思うこと」をテーマに、下馬図書館に来る子どもたちや地域の方々に読んでほしい本をともに作り上げるというもの。子ども&学生でペアを組み、本の企画・設計・編集・手製本など、本作りに必要な工程を学び、お互いの持つ視点を面白がりながら、それぞれの持ち味を活かした本づくりを目指します。作った本は下馬図書館の蔵書として展示・利用予定。
2024年3月頃の完成に向けて鋭意製作中の皆さん。2023年10月にはZOOMにて、昭和女子大学の学生さんによる進捗状況のご報告を受けました。その中で「今、ちょっとこんなこと悩んでいます」というお話が。
中でも、「新たにこういう登場人物を増やしたいけど……」というお悩みと、「こういう描き方をしてもいいのかな……」というお悩みは、特に子どもたちと一緒に物語を作るときに起こりやすいことではないかと思いました。そこでこちら2つの悩み事と新井が提案した解決策を、広報の齋藤がリポートいたします。
「新たにこういう登場人物を増やしたいけど……」というお悩み
今回ご紹介するのは、前回のブログでも取り上げたチーム②。そのときは、作りたい物語について、「動物に興味があるので、登場人物はすべて動物です。探偵のカワウソと助手のハムスターが事件を解決していく物語。事件を通して、動物の習性や特徴を描こうと思っています。動物の魅力を伝えたいです」と話していました。
チーム②の“編集役”である学生さんによると、いま悩んでいることがあるようで――
〇チーム②学生さん:事件が全部で3つ起こるんですけど、2つ目の事件で警察官のライオンを出したいねっていう話が出ているんです。犯人が逃げるかもしれないので、そのときに警察官のライオンが捕まえたらカッコイイよねという話をしているんですけど、警察官がいるなら探偵はいらないんじゃないかなって。
第2の事件だけライオンが参加するのも変だし、でも最初の事件から出すのであればちゃんと物語に関係した方がいいだろうし、でもそもそも探偵がメインの話だから登場しないほうがいいのかなとも思って……。ライオンを出すか出さないか、ちょっと今のところ検討中なんです。
〇新井:僕はいてもいいような気がするんです。例えば、3つの事件すべてにライオンが出てきて、「ライオンが解決しようとするけど……」みたいな描き方でもいいのかなと思うんですよ。主人公はあくまでも探偵のカワウソと助手のハムスターで、そのライバルが警察官のライオン、みたいな「対立関係」にしてみるのも面白いかなと。
探偵のカワウソと助手のハムスターからしてみたら、警察官のライオンは「いやいや、あなたたち警察がちゃんと解決できないからきているんでしょ!」みたいな存在。警察官のライオンからしてみたら、探偵のカワウソと助手のハムスターは「なんで警察でもないのに出てくるんだよ!お節介な奴らだな」みたいな存在。
主人公のカワウソとハムスターからするとライオンは邪魔。
ライオンからしても、カワウソとハムスターは邪魔なんだけど、「こいつらがいると解決されていくんだよな……」みたいな。そういう関係性にしてもいいかもしれない。ライオンが捜査するんだけどうまくいかなくて、みたいな感じにすれば、べつにライオンが出てきてもライオンばっかりすごく目立つということもなく、ちゃんと主役であるカワウソとハムスターを軸にして作れそうな気がするんですけどね。どうでしょう?
〇チーム②の学生さん:例えば、第1の事件からライオンを出すとしたら、次の第2・第3の事件に移るとき、ライオンも一緒に移動するっていうことになりますか?
〇新井:あ、僕のイメージだと、前回さ、「カワウソとハムスターは夜行性だから活動するのは夜」と言っていたから、午前中に1つ目の事件が起きて、ライオンが捜査しているんだけどうまくいかなくて、夜になるとカワウソとハムスターが出てくる。で、解決して、よかったよかったと言って、翌日また事件が起きて――、みたいに進んでいくのかなと思っていたの。そういう感じにしていけば、一緒に行動しなくてもいいんじゃないかなと思ったんだけど。どう?
〇チーム②の学生さん:なるほど、そっか。いまお聞きした対立関係、ちょっと考えてみます。
〇新井:うん、ちょっと考えてみてくださいね!
「こういう描き方をしてもいいのかな……」というお悩み
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また、このチーム②はこんなお悩みもあるようで。
〇チーム②の学生さん:3つの事件すべて、「犯人が逮捕」という終わり方になっていて、それでいいのかなって。3つのうち、1つの事件を「逮捕」じゃなくて「和解」という終わり方も検討中なんですがちょっと微妙で。
〇新井:この部分を悩んでしまうのは、3つの事件を解決していって、最終的に何を伝えたいか、というところの「テーマ」がはっきりしていないからじゃないかな、と思うんだよね。「テーマ」は何にしているんだっけ?
〇チーム②の学生さん:テーマとしては「動物ってすごいんだよ」ということと「動物の特徴をもっとみんなに知ってもらいたい」というところをメインにして物語を作っていきたいというのが当初からありました。
〇新井:そっかそっか。ちょっと前回お伝えしたことの復習をしましょう。
まず、「テーマ」「モチーフ」「素材」の3つを整理していくと、作りたい物語の“輪郭”がはっきり見えてきます。
テーマは、伝えたいこと。物語を作るときの旗印なので複雑だと物語の方向性を見失ってしまいます。だから「友情の大切さ」とかシンプルに考えます。
モチーフは、テーマを伝えるために描いていくもの。もっと言うと、タイトルなしでも「ああ、あの話」と分かるような、「作品を象徴するもの」。
素材は、モチーフを具体的にしたもので、「天・地・人(=時代・舞台となる場所・人物<動物>)」のこと。
これを踏まえたうえで。さきほど“テーマ”として言ってくれた「動物のすごさ」は、実はね、“モチーフ”なんですよ。カワウソやハムスター、また、3つの事件の犯人たちには「こういう特徴があるよ」というのがその動物のすごさになっていると思うんだけど、その動物のすごさを通して物語全体としては何を伝えたいのか、っていうところが、ちょっとまだ見えていないんじゃないかと思うんだよね。
例えばね、人間はお腹が空いていなくても食べるけど、動物や虫はお腹が空いてなければ食べない。つまり必要以上に贅沢をしない。だから、ここで出てくる動物が盗みをしてしまうのは欲望とは違う何かしらの理由があるんじゃないのかなと。人間みたいに得をしようと思って盗みをしたわけじゃなくて、そこに動物としての理由がある。その動物が盗んでしまった悪さというのは、人間的な悪とはまた違うよねみたいな。だから、あくまでも例えばだけど、テーマを「共存することの大切さ」にして、これを伝えるためのモチーフを「盗んだ理由=その動物の特徴が絡んでいること=その動物のすごさ」にしてみるとかね。
そうすると、逮捕するのか和解するのか、という描き方の答えが、おのずと見えてくるような気がするんですけど、どうですか?
〇チーム②の学生さん:う~ん。。。
〇新井:中身を大幅に変えなきゃいけない、というわけじゃないんだよ。だけど、この物語の軸となるテーマがはっきりしてないと、どんなシーンを描いていけばいいか、今みたいに“迷子”になっちゃう。
絵本だとよくさ、「食べ物を残してはいけません」とかテーマがすごくシンプルにあるでしょ?そういう教訓的なものをテーマにしちゃうとつまらないかもしれないんだけど、でもちょっとこういう教訓めいたテーマを、動物たちの特徴・すごさを通して、柔らかく伝えていくと面白いんじゃないかなと思うんだよね。
〇チーム②の学生さん:難しい(笑)
〇新井:大丈夫大丈夫!まずはもう一度「テーマ」について考えてみてください!
〇チーム②の学生さん:ちょっと整理してみます。
〇新井:完成を楽しみにしております!
「対立関係を描くこと」「テーマを設定すること」を意識
お話づくりが大好きなお子さんがいらっしゃる親御さんや先生方。「こういう話が作りたい!とアイデアはたくさん出るけど、ひとつの物語として収拾がつかない……」というときは、今回ご紹介した「対立関係を描くこと」「テーマを設定すること」を意識してみてください。この部分を少しアドバイスするだけで、物語がグンと面白くなるかと思います。ぜひお試しあれ!
なお、VIVITA BOOKS の活動はInstagramにて発信中。ぜひご覧ください↓
▼VIVITA BOOKS Instagram
今回の学生さんのように「私たちも直接教えてもらいたい!」という場合は、“出前授業”も実施しておりますので、お気軽にお問い合わせください。ご参考までにこちらのブログも是非↓
▼コミュニケーション力 を上げるシナリオ研修 事例まとめ
また、「書くにあたって参考にできる本、何かないかな」ということでしたら新井の『プロ作家・脚本家たちが使っている シナリオセンター式物語のつくり方』(日本実業出版社)を!
小学校高学年~中学生向けオンライン創作クラス「考える部屋」の小学5年生のメンバーが「シナリオ講座を実際に受けているような感覚で楽しんで読めました。また、私の悩みを全て解決してくれるすごい嬉しい一冊でした。ものすごく分かりやすかったです」と感想をくれました。お話作りが好きなお子さんにもオススメです!
▼『プロ作家・脚本家たちが使っている シナリオセンター式物語のつくり方』