“シナリオ界の芥川賞”と称される城戸賞。第49回城戸賞(選考対象脚本424篇)では、長濱亮祐さん(元本科)の『道々、みち子』が準入賞を、キイダタオ さん(作家集団)の『シュレディンガーの恋人たち』が佳作を受賞。
『月刊シナリオ教室』(2024年4月号)にインタビューを掲載。ブログ用にもコメントをいただきました。
受賞作に関する情報の他、「脚本コンクールへ応募すること」についてもお話しいただいています。これからコンクールに挑戦しようとしている方も、いま少し自信をなくしている方も、参考にしてください。
準入賞受賞:長濱亮祐さん
「最後まで書けただけでも、スゴいと誇っていいのでは」
=『道々、みち子』==
夫の世話と母の介護をしているうちに四十になったみち子。母が死に、老人ホームで働き始めた彼女は、ある老人からうな重を食べさせてほしいと頼まれる。それをきっかけに、みち子は金を貰って老人の頼みを聞く裏の仕事を始める。平凡な主婦の自由と覚醒の物語。
――本作を書こうと思ったキッカケ
〇長濱さん:介護者と被介護者の間で起きる様々な事件をニュースで多く見たことがきっかけです。クライムサスペンスやノワール系(裏の世界や犯罪者の世界などを描いたもの)のジャンルが好きなので、介護施設で犯罪が起きるなら何だろう?と考えているうちに、入所している老人の、本来なら実現の難しい望みや欲望を叶える介護士がいたら面白いかも……と。
――主人公について
〇長濱さん:最初は男性の介護士で主人公を考えていました。でも、話が転がらず行き詰ったので、思い切って女性に変更したところ、「人のお世話ばかりしているうちに40代になった女性が自分の人生を取り戻していく物語」という大筋が見えてきました。
――書くにあたって準備したこと
〇長濱さん:介護関連書籍や介護士、ケアマネージャーの方々によるSNSでのつぶやきや、YouTubeにアップされた介護施設の様子、介護士の1日の紹介動画などをリサーチしました。
また、みち子のキャラクターは、40代の女性が抱えている悩みって何だろう?と思い、悩み相談のサイトを見たりして作りました。
――今回、特に意識したこと
〇長濱さん:クライマックスをきっちり盛り上げることを“課題”に、「みち子の気持ちが途中でガス抜きできてしまうようなシーンは書かないぞ!」と常に意識しましたね。
そのため、いいことがあったと思ったら、それが原因で厄介なことが起き、気づくといつの間にか取り返しのつかない場所まで来ている、という展開にして、みち子にストレスを与え続けました。
――コンクールに応募することについて
〇長濱さん:シナリオを書き始めた当初は、自分が受かるわけないと思って、応募でなく他の方法でプロになる方法を考えていました。そんなときSNSで見つけたのがピンク映画の脚本募集。
応募してみたら運よく採用され、1本書かせてもらい、その後ビデオ作品も1本書いたのですが、実力不足で後が続かず、どう書いていいのかわからなくなりました。このままだとダメだなと、いちからシナリオを勉強し直して、4年前ぐらいから「創作テレビドラマ大賞」「テレビ朝日新人シナリオ大賞」「城戸賞」などに応募するようになって、今回の城戸賞は4度目の応募になります。
コンクールに応募するときは、自分の「面白い」を信じて、その「面白い」がどうすれば人に伝わるのか考え、楽しく書くことが大事だと思っています。結果が出ないことが続くと苦しいですが、ほとんどの人が終わりまで書けずにやめてしまいます。最後まで書けただけでも、スゴいと誇っていいんじゃないか、と思います!
佳作受賞:キイダタオ さん
「気に入ってくれる人が、自分と似た感性の人が、必ずどこかに」
=『シュレディンガーの恋人たち』==
ある日突然 宇宙消滅の危機を知らされた冴えない青年・朱本月星(ルイ)。そんな彼の前に現れたのは、10年前に姿を消した元同級生の蒼井星月(シヅキ)。そして世界を救う鍵は、2人が過ごした大学時代の思い出の中にあった――。量子力学とマルチバースが織りなす、ある男女の曖昧な関係と青春の終わりの物語。
――本作を作ろうと思ったキッカケ
〇キイダさん:量子力学には「実際に見てみるまで2つの可能性が同時に存在する」ということを表す「シュレンディガーの猫」という概念があって、それを使いたかったんです。
今まで結構、コメディ寄りのものを書いていたのですが、一昨年、城戸賞の最終に残った作品がファンタジー系ラブストーリーで、審査員の方々からの評判がとても良かったんです。
あと、意外とみんな、ラブストーリーやSFって書かない。だけど僕はどちらも好きなので、こういう路線で書き始めた次第です。
――主人公2人の組み合わせについて
〇キイダさん:『スパイダーマン:スパイダーバース』というマルチバースを描いた映画から発想しました。全く異なる次元で活躍するさまざまなスパイダーマンたちが集結するという話で、この“関係性”をラブストーリーでやってみたいと思いました。
主人公2人の名前は、“この宇宙で「月星(ルイ)」がいるポジションに、もう1つの宇宙では「星月(シヅキ)」がいる”ということを表現するために、漢字の「月」と「星」を逆にしています。
――2つの世界と時間軸が交錯する展開や構成について
〇キイダさん:めちゃくちゃ大変でした。思いついたアイデアをワードやメモ書きにして、ある程度出尽くしたらそれをどう並べるかを考えました。
今回はアイデアが多すぎて、思いつきで書いたら破綻すると思ったので、一番オーソドックスな構成の「三幕構成」を使って表を作ることに。どのタイミングで何を入れるか、をパズルのように当てはめて、具体的に構成を固めてから脚本を書き始めました。
――今回、意識したこと
〇キイダさん:マルチバースや量子力学の設定をメインにすると分かりづらくなると思ったので、あくまでも2人の恋愛の話が中心で、その周りで色々なことが起きる、という作りにしました。
それから、特殊な世界観であっても「普遍性」は入れたくて、青春モノによくある 男女が夜のプールに飛び込むシーン。これを宇宙レベルでできないかと考えました。
――コンクールに応募することについて
〇キイダさん:コンクールに出すようになったのは研修科ゼミあたりからです。初めて出した、フジテレビヤングシナリオ大賞の作品が二次まで通って、「これならいけるかも!」と勘違いしまして(笑)。
でもその後は全然ダメな時期が何年も続きました。それで、もうこれでダメなら辞めようと思ったときに、城戸賞で最終まで残りまして。で、もうちょっとやってみるかと一時的に自信を取り戻し、昨年もいろいろ応募したのですが……。
城戸賞の最終に残れたのもまぐれだったのかもな、とまた自信を失って、やっぱりもう書くのはやめようかと思ったのですが、この『シュレディンガーの恋人たち』は前々から準備していたものなので、これだけは書いておこうと思って、書き上げて出したんです。
これまでコンクールに応募してきて感じたのは、傾向と対策も大切ですが、ウケ狙いで書いたものは見透かされるんじゃないかなと。観客の目を意識していきなり“広く”狙うと、むしろ誰にも届かない作品になるような気がします。だから最終的には、書いていて面白い、自分が観たいと思うものを書くのが一番。そうすれば気に入ってくれる人が、自分と似た感性の人が、必ずどこかにいると思います。
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※これまでもシナリオ・センターの生徒さん・出身生の方々が城戸賞で受賞されています↓
▼自分の想い・仕事・経験を物語にするとき/第48回城戸賞受賞 竹上雄介さん・島田悠子さん
▼【物語を作る事が好きな方注目】第47回城戸賞佳作受賞 島田悠子さん
▼自分の作品を人に見せる 勇気/第46回城戸賞 準入賞受賞 島田悠子さん
▼妄想から物語 を作る/第45回城戸賞 佳作受賞 弥重早希子さん
※「脚本コンクールに出したい!」という方はこちらの記事も併せて↓
▼主なシナリオ公募コンクール・脚本賞一覧
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