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しゃれおつなお店や人々が行きかう街、表参道。そこで働くシナリオ・センタースタッフの見たもの触れたものをご紹介します。

創作の視点で観る
『ソウルメイト』『落下の解剖学』 見どころ・感想

映画から学べること

脚本家でもあり小説家でもあるシナリオ・センターの柏田道夫講師が、公開されている最新映画や、DVDで観られる名作や話題作について、いわゆる感想レビューではなく、作劇法のポイントに焦点を当てて語ります。脚本家・演出家などクリエーター志望者だけでなく、「映画が好きで、シナリオにも興味がある」というかたも、大いに参考にしてください。映画から学べることがこんなにあるんだと実感していただけると思います。そして、普通にただ観るよりも、勉強になってかつ何倍も面白く観れますよ。

-柏田道夫の「映画のここを見ろ!」その81-
『落下の解剖学』ホームドラマをミステリーで引っ張る緻密な構造

一年に一度ですが、短期の「ミステリー講座」をやっています。

一言で「ミステリー」といっても、ジャンルは細分化されます。タッチや手法などで、本格推理、刑事もの、スリラー、サスペンス、ハードボイルド、コージーミステリー、スパイもの、法廷もの、ケイパーもの、詐欺師(コンゲーム)、誘拐もの、サイコサスペンス、悪女ものというように。

一応、私なりの定義としては、「謎(秘密)」を提示して、その解明、真相に迫る過程で展開する構造の物語でしょうか。それぞれのジャンルの違いや特徴などは、拙著『ミステリーの書き方 シナリオから小説まで、いきなりコツがつかめる17のレッスン』(言視舎)をお読み下さい。

この物語を引っ張る「謎」が核として据えてあれば、まさに純然たる「ミステリー」になるのですが、ホームドラマだろうが恋愛ものだろうが、人物が秘めている謎や秘密を配置することで、がぜんおもしろさが増します。

例えば、ある女性と恋に落ちて、付き合うようになった青年がいる。彼女は自分の過去をけっして明かそうとしない。ある時、彼女の友人が現れて、「あの女と一緒だと、必ず不幸になるよ。知りたいかい?」と告げられて……。

恋愛ものに限らず、物語の行方を阻む障がいやカセは必須ですが、それが秘密や謎であれば、観客や視聴者の「知りたい!」という欲求を刺激します。

ミステリー要素がおもしろさの秘訣になるということでは、第73回の是枝裕和監督・坂元裕二脚本作『怪物』()でも述べました。

今回取り上げる『落下の解剖学』は、その謎が、雪の山荘で起きた夫の墜落死ですから、王道としてのミステリーといえるのですが、そこからじわじわとあぶり出されるのが、夫婦、家族の実相、秘密です。まさにホームドラマに、ミステリー要素を放り込む手法といえます。

監督・脚本(共同脚本:アルチュール・アラリ)はジュスティーヌ・トリエ。2023年の第76回カンヌ国際映画祭で、最高賞のパルムドールを受賞、本年度のアカデミー賞でも作品賞や監督賞、主演女優賞など5部門にノミネートされていますが、脚本賞の大本命だと思います(2024年2月時点)。文句なしによく出来た脚本です。

トップシーンは、売れっ子作家のサンドラ(ザンドラ・ヒュラー)が、雪山にある山荘で、学生からインタビューを受けている。すると、屋根裏部屋でリフォームをしている夫サミュエル(サミュエル・タイス)が流す大音量の音楽が邪魔なり取材は延期される。

11歳の息子・ダニエル(ミロ・マシャド・グラネール)は、視覚障がい者ですが、愛犬のスヌープと散歩して帰宅すると、父のサミュエルが頭から血を流し、雪の上に倒れているのを見つける。三階の窓から転落したらしい。

この死には不審な点があり、妻のサンドラが夫殺しの容疑で裁判に掛けられることになります。サミュエルの死は、事故なのか、自殺なのか、他殺なのか?

前半はこの死の経緯と、警察による取調べですが、後半は裁判劇となります。

死の真相は? 果たしてサンドラは夫を殺害したのか? という謎こそが、物語を引っ張るミステリー要素ですが、それだけでなく、裁判劇での進行で、この夫婦が抱えていた秘密や問題が次第に明らかになっていきます。

なにしろ【起】で、いきなりサミュエルの死ですが、この死体こそ彼の初登場場面です。その後もしばらく彼は死体や写真とかでしか出てきません。

パンフレットにトリエ監督のインタビューが載っているのですが、「最初から、回想シーンは使わないと決めていた」と述べています。

中盤以降の裁判シーンまで実際に回想シーンはありません。ただ途中に意味深なフラッシュバックシーンが二つ、さらに事件の前日に、二人がケンカをしていたという録音が法廷で流されるシーンの途中から、そしてダニエルが父について証言するシーンだけ、いわゆる回想シーンが流れます。実に考え抜かれ、かついろいろな解釈も可能な回想になっています。

ともあれ、このミステリーでは、観客は陪審員になったかのように、この夫婦と息子の、家族の本当の姿を次第に知っていく流れになっています。

実は夫婦の間にあった嫉妬や葛藤、感情の溝、それも息子が事件の決定的な証言者になってしまうという残酷さ。

そうした関係者によるセリフ劇としての脚本の巧みさを見てほしい。

表面的には、夫の死の真相は? というミステリーとして謎解き物語なのですが、それだけでない人間ドラマの要素を加えることで、謎解きを越える深味を与えてくれます。これこそがミステリーの質を高める秘訣なのです。

『怪物』についてはこちらから。

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ギャガ公式チャンネル
アカデミー賞脚本賞受賞!『落下の解剖学』予告編 2024.2.23公開

-柏田道夫の「映画のここを見ろ!」その82-
『ソウルメイト』「扇状型回想」によって、過去と現在のドラマを重ねる

公開されて少々時間が経っているのですが、韓国映画『ソウルメイト』を取り上げます。地方によってはこれから上映されるということですので。

元々は香港のデレク・ツァン監督の『ソウルメイト 七月と安生』を、韓国のミン・ヨングン監督で、済州島に舞台を移したリメイク作ということ。元の香港バージョンは未見なので、どのように変わっているかは分かりませんが、この韓国版も女同士の素晴らしい友情物語になっていて感動します。

さて、シナリオの基礎講座の後半になってようやく、「回想」のポイントや使い方をお教えします。テレビドラマとかで、当たり前のように使われる「回想シーン」なため、学び始めた皆さんから、いきなり「どう書くのですか?」という質問をされるのが、この「回想」シーンです。

で、皆さんも耳タコ状態だと思いますが、「実は難しい手法で、限りなくシナリオをつまらなくする要因のひとつなので、最初は使わないで下さい」と。

このコラムのスタート、第1回目のテーマこそが、「回想」をほぼ使わずに、宇宙飛行士の主人公が、月に初めて降り立つまでを描いた『ファーストマン』()。

そして2回目が、一箇所だけ、まさにここぞ、というところに回想シーンのあって絶妙な効果を発揮している傑作『スリービルボード』()。

さらに3回目は、前夜に起きた出来事を探っていくという設定なのに、回想シーンを使わないコメディ『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』()でした。

ところで、「回想」にもいろいろな手法があります。通常は、現在進行で物語が展開していて、途中途中に過去の場面が入る「直線回想法」です。

他にも現在から始まって、ここに至る過去の出来事を辿っていき、最後に現在に戻る「サンドイッチ型回想法」。上記の『ハングオーバー!』や、『タイタニック』、拙作『武士の家計簿』など。

そしてもうひとつ、現在から始まって、過去の逸話が展開して、途中でまた現在に戻り、さらに過去というような構成を取るのが「扇状型回想法」です。ひとつの出来事が、語る人間で違う様相を呈するという黒澤明監督の『羅生門』や、現在公開中のリュック・ベッソン脚本・監督『DOGMAN ドッグマン』など。

この「扇状型回想法」は、現在を基点にしつつ、過去の出来事が綴られるわけですが、なぜ現在に戻るのか? 過去の物語を描きつつも、現在のパーツで、何らかの物語の進行がなされなくてはいけない。そこから過去と現在のパーツを絶妙に交差できれば、その構成とする必然性となるわけです。

で『ソウルメイト』は「扇状型回想法」なのですが、まさにこの現在と過去の展開が見事に重なり、後半の着地によって感動を導く見本のような作品です。

トップシーンは現在で、美術展で入選したエンピツによる写真のような細密絵を、モデルとなったミソ(キム・ダミ)が見に来る。学芸員に作者のハウン(チョン・ソニ)の連絡先を聞かれるが、「近頃は会っていないので知らない」とそっけない返事。そこにもうひとり青年ジヌ(ピョン・ウソク)も現れる……。

そこからハウンとミソの子供時代の出会いや、仲良くなる逸話となります。自由で奔放なミソと、堅実に生きようとするハウン。対照的な性格ですが、二人はたちまち親友となります。ハウンの暖かい家族に迎え入れられるミソ。

高校時代にハウンが恋をするのですが、その相手こそがジヌでした。こうした彼女たちの友情が、ジヌという男性によって溝ができてしまう。しかも現在のミソはシングルマザーであるらしく、子供と暮らしています。

断片として描かれる現在をはさみつつ、過去の二人の幼児期、青春期、そしてジヌを加えた大人へとなる経緯が描かれ、次第に現代に結びついていきます。

前回の『落下の解剖学』は、ホームドラマをミステリー展開で引っ張る手法でした。この『ソウルメイト』は、扇状型とすることで、そこにミステリー要素をちりばめつつ、後半で謎の解明をする構成になっています。

ハウンがエンピツで描く細密画と、ミソの大胆に描かれる抽象画の対比、ピアスや、ジヌのおまじないの木片のペンダントといった小道具も絶妙。

そうした構成としての造りや、伏線回収といった手法もですが、メインテーマとしての「女同士の友情もの」こそが爽やかな感動を呼びます。そういえば、韓国映画には『サニー 永遠の仲間たち』(日本でもリメイクされた)という、女性たちの友情を描いた快作がありました。こちらも未見の方はぜひ!

『ファースト・マン』『スリー・ビルボード』はこちらから。

『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』はこちらから。

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2月23日(金・祝)公開 『ソウルメイト』本予告

「映画が何倍も面白く観れるようになります!」

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