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しゃれおつなお店や人々が行きかう街、表参道。そこで働くシナリオ・センタースタッフの見たもの触れたものをご紹介します。

【創作の視点で解説】
『パスト ライブス/再会』『異人たち』 見どころ・感想

映画から学べること

脚本家でもあり小説家でもあるシナリオ・センターの柏田道夫講師が、公開されている最新映画や、DVDで観られる名作や話題作について、いわゆる感想レビューではなく、作劇法のポイントに焦点を当てて語ります。脚本家・演出家などクリエーター志望者だけでなく、「映画が好きで、シナリオにも興味がある」というかたも、大いに参考にしてください。映画から学べることがこんなにあるんだと実感していただけると思います。そして、普通にただ観るよりも、勉強になってかつ何倍も面白く観れますよ。

-柏田道夫の「映画のここを見ろ!」その83-
『パスト ライブス/再会』好き同士が年月を経て「再会」する恋愛の描き方

話題のアメリカ・韓国合作の恋愛物『パスト ライブス/再会』。

脚本・監督はセリーヌ・ソン。自身の体験を元に脚本化したそうですが、この物語のヒロインのノラ(韓国名ナヨン)同様、ソン監督もソウル出身、ニューヨークで劇作家として活動、本作で長編映画デビュー。アカデミー賞で作品賞、脚本賞にノミネート、まさに絶妙な構成、セリフ、心理描写の脚本です。

さて、今回の「ここを見ろ!」は、感動恋愛物のテッパンでもある「愛し合う者同士の再会シチュエーション」の作り方です。

恋愛物、ラブストーリーもいろいろな構造、パターンがあります。好き合っている同士が、何の困難もなく結ばれました、では話になりません。恋の成就を阻むいろいろなトラブル、カセ、事情があって、それを乗り越えて結ばれる、もしくは愛し合っているのに、悲しい別れで終わってしまう。

ハッピーエンドかアンハッピーエンドとするかはともあれ、いかに観客を、物語で描かれる恋に「共感」させられるか? そこで“楽しさ(きらめき)”“せつなさ(思い)”そして“哀しさ(はかなさ)”が描けるかが決め手になると、第31回の『花束みたいな恋をした』()で述べました。

さて、そうした恋愛を描き方として、本作のような「再会」が、恋の再燃なり、新たな始まりとなる構造こそを学んでほしい。

『パスト ライブス/再会』は三つの時間軸で描かれます。まずソウル、12歳の思春期のナヨン(ノラ)とヘソン、二人の幼いながらピュアな初恋。ナヨン一家のカナダ移住で、二人は離ればなれになってしまう。

それから12年後の24歳。ニューヨークで劇作家になったノラ(グレタ・リー)を、ヘソン(ユ・テオ)がネットで見つけて、二人はパソコン画面を通して再会を喜び合いますが、直接会うことができずに、いつしか疎遠に。

さらに12年後、36歳。ノラは作家のアーサー(ジョン・マガロ)と結婚、恋人と別れたヘソンはノラの結婚を知りつつも、ニューヨークにやってきます。

12歳の初恋と別れ、そして12年後のネット上でのリアルとはいえない「再会」と別れ、そして大人になった二人の24年後の「再会」の行方は……

ところで、こうした「好き(愛し)合った同士の再会」恋愛物というのは、過去にも名作がたくさんあります。

古典だと、第一次と第二次大戦で、ヴィヴィアン・リーとロバート・テイラーによる出会いと別れ、悲しい再会の『哀愁』(1940)。

ハンフリー・ボガートの北アフリカの酒場に、夫を連れて亡命のために現れる昔の恋人イイングリッド・バーグマンとの再会『カサブランカ』(1942)。

わりと新しいところでは、 イーサン・ホークとジュリー・デルピーが、ウィーンで出会って別れる『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』(1995)と、同じキャストでの9年後の再会『ビフォア・サンセット』(2004)。さらに9年後の『ビフォア・ミッドナイト』(2013)シリーズも思い出されます。

隣人同士の夫婦としての再会で恋が再燃、悲劇となるファニー・アルダンとジェラール・ドパルデューの『隣の女』(1981)は壮絶なラストです。

最悪の出会いから、5年後の再会を経て、10年後に友情から恋に発展する、ビリー・クリスタルとメグ・ライアンによる『恋人たちの予感』(1989)も。

もう一作(私はアジアの恋愛映画では一番好きかもしれない)『ラヴソング』(1996)もぜひ!中国大陸から香港にやってきたレオン・ライとマギー・チャンの10年越しの出会いと恋と別れ、そしてまさにニューヨークでの再会! 

こうした年月を重ねるがゆえに、新たな局面が生まれてしまう(名づけると)「再会恋愛物」の構造、それぞれの人物が抱える事情やカセ、感情の機微が描けると、それこそ「共通性」と「憧れ性」も引き出せるかもしれません()。

どなたにも初恋の人とかがいるでしょう。初恋じゃなくても、その昔に心を焦がした相手の一人や二人、いたかもしれません。その人と何らかの導き、もしくは運命的な偶然であっても再会したら?どういうキャラクター同士で、どういうシチュエーションで再会するのか?その“if”から、せつない恋物語が描けるかもしれませんよ。

『パスト ライブス/再会』には、韓国の仏教的な用語「イニョン」(日本語にあえて訳すると“縁”)というキーワードも印象的に使われています。

また、ノラとヘソンの24年に渡る想いを、すぐ傍で見つめるノラの夫アーサーの描き方にも注目して下さい。

『花束みたいな恋をした』の回はこちらから。

共通性と憧れ性についてはこちらから。

▼YouTube
Happinet phantom
映画『パスト ライブス/再会』予告編|4.5全国公開

-柏田道夫の「映画のここを見ろ!」その84-
『異人たち』登場人物は4人のみ、美しい愛のゴーストストーリー

脚本家の山田太一さんが亡くなられたのは、2023年11月末でした。まさに追悼のように公開されたのが、山田さんの原作小説『異人たちとの夏』(新潮社刊)の映画化作品『異人たち』です。もちろん製作されていたのは山田さんの生前ですが。

脚本・監督はイギリス人のアンドリュー・ヘイ。

シャーロット・ランプリング演じる妻が、夫のもとに届いた一通の手紙に、揺れ動く心理が印象的な『さざなみ』(2015)。さらに15歳の少年が、競走馬をつれて逃避行をする『荒野にて』(2017)は、地味ながら美しい映画で、私のその年のベスト映画でした。

『異人たちとの夏』は1988年に、山田さんのたっての希望で、市川森一さんが脚色をし、大林宣彦監督で映画化されています。

こちらも忘れ難い映画でした。風間杜夫扮する中年の脚本家・原田英雄が、地下鉄銀座線の廃駅から故郷の浅草に行くと、死んだはずの両親・英吉(片岡鶴太郎)と房子(秋吉久美子)に遭遇し、懐かしく時を過ごす。脚本家の住むマンションには、藤野桂(名取裕子)という孤独な美女がいて、彼女とも関係を持つようになるが……。浅草の演芸場での亡き父との再会、両親とのすき焼き屋の別れのシーンなど、今でも鮮明に思い出します。

この不思議でせつないファンタジー・ゴーストストーリーを、ヘイ監督は新たな現代性を巧みに折り込んで、しっとりと感動的な映画にしています。

原作の核であるテーマを活かしつつ、現代要素を加えた脚色については、このコラムでは23回に、古典『若草物語』に女性の自立MeToo運動を折り込んだ『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』で述べました()。

『異人たち』は、主人公の脚本家のアダム(アンドリュー・スコット)はゲイで、同じマンションに住むハリー(ポール・メスカル)と恋人同士になります。アダムは12歳の時に交通事故で亡くした父(ジェイミー・ベル)と母(クレア・フォイ)の幽霊と再会し、家族の温かい時間を過ごします。

ただ、両親は亡くなった時の80年代の意識のままで、アダムのカミングアウトに、当時の感覚で反応したりします。そうした要素だけでなく、後半部分のアダムとハリーの関係や、帰着のさせ方もかなり違っています。

さて、今回の「ここを見ろ!」。

まずひとつ目は「テーマ」を継承するということ。特に原作物の脚色をする際には、原作が核としているテーマがある場合、脚色はそれをできるだけ踏まえる、もしくはしっかり配慮すべきです。

この「テーマ」の脚本化の際の据え方・考え方に関しては、第32回の西川美和監督作『すばらしき世界』でも述べました()。

『異人たちとの夏』の中にも触れられているのですが、山田さんは明治期に三遊亭円朝が作った落語の怪談『牡丹燈籠』を下敷きにしています。ここでその概略は省略しますが、主人公の浪人・新三郎が、お露という旗本の娘の幽霊と恋に落ちる物語。

お露は牡丹燈籠を掲げて、カランコロンと下駄の音をさせて、新三郎のところに通ってきます。一旦は、お露の霊から逃れようとする新三郎ですが、最後は自身の命を捧げて、お露との愛を貫く美しいラブストーリーなのです。幽霊との関わりとなると、通常は恐怖、死に近づく忌むべき物語になりますが、『牡丹燈籠』はある意味、死によって恋が成就する怪談なのです。

『異人たちとの夏』は、幽霊である両親への尽きせぬ思い、愛、そして出会ってしまった霊の女との愛が描かれるのですが、『異人たち』はそのテーマ性を継承、さらに深掘りする描き方になっています。

ヘイ監督が、ベースとなっていた『牡丹燈籠』を知っていたのか否かは、パンフレットとかにも書かれてないので分かりません。ですが、山田さんが『異人たちとの夏』で、メインテーマとしていた霊への愛こそに、ヘイ監督も強く惹かれて脚本化したことは間違いないでしょう。

そしてもうひとつの「ここを見ろ!」は、そうしたテーマをまさに深く突き詰めるために、『異人たち』は登場人物を、上記の4人のみに絞り込んでいる点です。それ以外の人物たちはエキストラとして登場しますが、セリフがあるのはほぼ、主人公と両親、そして恋人の4人だけなのです。

たった4人だけの物語と限定していながらも、これだけ多様なドラマ性に満ちた脚本にできる。さて、このラストなり、主人公のアダムの姿をどう解釈するか? それは観客に委ねられていると思います。

『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』の回はこちらから。

『すばらしき世界』の回はこちらから。

▼YouTube
サーチライト・ピクチャーズ
『異人たち』予告編│2024年4月19日(金)公開

「映画が何倍も面白く観れるようになります!」

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