形になる
シナリオ・センター代表の小林です。井上ひさしさんのお芝居を久しぶりに見てきました。
「夢の泪」、東京裁判三部作の2作目として久々の再演なのだそうです。
たまたま友人が「初日への手紙~東京裁判三部作のできるまで~」(白水社)の本をくれたのでパラパラと(めちゃ厚いんです、この本(笑))読んでいたところ、「夢の泪」が上演とこまつ座さんから観劇を勧められたので、渡りに船と拝見させていただきました。
「初日への手紙」は創作のノートのような本だったので、山のような資料を読み起こしている姿や、自ら細かく記した年表やメモを読んでいただけに、どんなお芝居になるのか興味津々でした。
まさに、今こそ見てもらいたいお芝居でした。
日本のお上たちは、自らの責任を認めずすべてを曖昧にして歴史を都合のよいように改竄したり、大事な記録を削除してしまったりとてもいい加減です。
お芝居は東京裁判をモチーフとしていますが、「法」をテーマにしたこの芝居は多くの方へ、また若者たちに見てもらいたいと思いました。
演出の栗山民也さんは「今上演することの意味はとても大事なこと。
法とは人間のフツーの命渇を規定するものであり、かつ、そこには国の方向を定めた憲法も含まれる。
だからこそ、裁判を今でも調べ続ける秋子のように我々は考え続けなければならないのです。
このような記憶についての作品を上演し続けなければならないのです。
なぜなら演劇は消費物ではなく、記憶を刻む芸術なのですから」
劇中、国会議員にいい加減な法律を作らせないためにはどうすればいいのを訊かれた進駐軍のビルの一言
「市民が議員を監視し続けること」
今日も、監視し続けましょう。ざるの規制法を作らせないために、戦争へまっしぐらの憲法改正をさせないためにも。
ドラマの力
先日のシナリオ作家養成講座の説明会で参加者のお一人から国に訴えたいことがあるのだが、直接、声高にいうのではなく、ドラマや映画を通して訴えることもできることを知って勉強したいと思ったというお話をお聴きしました。
岡田惠和さんの「虹色カルテ」をご覧になって
「岡田惠和さんのドラマには助けてもらっています。
障害者や家族の本音をさらりと温かい言葉で表現されています。障害への配慮が細やかにされていて心強いのです。」
障害をお持ちのお嬢様と暮らしていらっしゃるご自身の体験を通して、ドラマのもつメッセージ性の強さをお感じになられたようです。
ドラマの良さは、これだと思います。
きちっと人間を描けば、ドラマは楽しみながら、さらりと脚本家の視座・視点を伝えていくことができる素晴らしいツールだと思います。
今日見てきた井上ひさしさんの「夢の泪も」、ミュージカル風に歌い上げるので、本当は重いテーマなのに、すーっと笑いながら、さりげなく入ってきました。
私が、ここのところのめり込んでみていたドラマは蛭田直美さん脚色の「舟を編む ~私、辞書つくります~」(NHK BSプレミアム)。先週で終わっちゃったけれど、辞書作りのお話で原作は三浦しおんさん。映画にもアニメにもなりました。
映画では、辞書作りに没頭する馬締という男性編集者とその彼女を主体とした切り口でした。
今回のドラマは、原作では中盤から出てくる女性編集員を主人公に描かれていて、時代も最近のコロナ禍の話しになっています。切り口が変わるとこんなに違うものか、そして訴え方も。
岡田惠和さんも、井上ひさしさんも、蛭田直美さんも各々がお持ちの視座・視点で、他人にはできない切り口を作られる、これこそが創作のすばらしさではないかと思います。
参加者の方のお話しもあって、しみじみドラマの力を感じている昨今です。
重い広辞苑をしょぼしょぼした目でめくっている自分が、今とても好きです。(笑) ホント辞書ってすごーい。