これまで2回にわたって進捗状況(※)をご紹介している、昭和女子大学×世田谷区立下馬図書館×VIVITA JAPAN「VIVITA BOOKS 世田谷ふしぎの本プロジェクト2023」。
<プロジェクト概要>
子どもたちが作家役、昭和女子大学の学生たちが編集者役となり、下馬図書館の来館者に読んでほしい本をともに作り上げるプロジェクト。まちを歩いて見つけた「不思議に思うもの」をキッカケに、チームで本作りに必要な工程を学び、お互いのもつ視点を面白がりながら作品を完成させる、というもの。
※「不思議な物語を書くとき@世田谷ふしぎの本プロジェクト2023」
※「子どもと一緒にお話づくりをするとき/対立関係やテーマを設定」
先日、完成した絵本のお披露目会が開催され、約半年間の本作り活動の紹介と全4チームの作品を発表。
お手伝いをさせていただいたシナリオ・センターの新井も出席し、作品発表後、「特にこういうところが良かった!」とお伝えしました。その際、リトマス法、障害、登場人物のキャラクター、社会問題を入れていること、登場人物の名前、テーマ、世界観・舞台設定、アップとロング、といった面白い物語を作るときに欠かせないポイントについても触れました。
これは、本作りに興味のあるお子さんにも参考にしていただけるかと思いますので、その模様を広報の齋藤がリポートいたします。
チーム①の作品『FUTURE RACING ~絆のレース場~』
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・まちを歩いて見つけた“不思議”:あやしいピンクの粉、白い粉の足跡
・そこから膨らませた今回のストーリー:「ある街のレースの練習場に、世界一のトップレーサーを夢見る2人の若き勇者がいました。これは、彼らの成長の絆の物語――」
〇チーム①の皆さん:最初はそれぞれが見つけた不思議から、恐竜が出てくる話を考えていたんですけど、なかなか登場人物や内容が定まらず、お互い納得のいくものができませんでした。そこでもう一度、「不思議」を見つめ直したときに、性格も年齢も全然違う私たちが絵本を作ろうとしていること自体が不思議だなということに気づいて、主人公である達郎と美子の二人を私たちに反映することにしました。私たちは性格も年も全然違うんですけど、お互いを尊敬してひとつのゴールに向かっていくという部分は、主人公たちと重なるように作りました。この主人公たちの姿や変化を意識しながら読んでほしいです。
〇新井:「トップレーサーを決めるレースがあるよ」と聞いて、達郎は「すぐに出たい!」と言うんだけど、美子は少し迷うんだよね。冒頭に、達郎と美子のキャラクター説明はあるんだけど、「レースがあるよ」に対するリアクションの仕方(※)で、二人のキャラクターをちゃんと出しているところがとてもうまいなと思いました。
あと、いろんな「障害」が出てくるよね。障害というのは主人公を困らせるもの(※)。主人公が困れば困るほど読者は感情移入するので、物語で障害を作るのはすごく大事。達郎と美子が問題にぶつかって、大丈夫かなと思ったらまた壁にぶつかって、お互いの気持ちが揺らいで「もうダメかも」となって2人がぶつかる。
で、諦めそうになるんだけど、二人には「世界一になりたい」という目的があるから諦めずに進んでいく。この「目的=諦めない理由」を設定しているのもすごくいい。そして、これまたすごいのは、「自分たちの目的のためだけに進むのかな」って思って読んでいくと、達郎と美子の強い絆の話に繋がっていく。物語の「構成」についてもきちんと考えられていて、とても素晴らしいと思いました。
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▼【リトマス法とは】シナリオでキャラクターを出すには
チーム②の作品『動物シティーのベルリン探偵事務所』
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・まちを歩いて見つけた“不思議”:セミ、向きがばらばらに生えている植物
・そこから膨らませた今回のストーリー:「カワウソのベルはこのまちの探偵です。ハムスターのリンはベルの助手として働いています。ベルリン探偵事務所には今日も、依頼の電話がかかってきます――」
〇チーム②の皆さん:動物たちの本来の習性を活かして、犯人の行動を考えたり、最初にたくさん動物について調べました。ストーリーの後には、動物図鑑のような動物紹介のページもつけました。新井さんからアドバイスをいただいて、犯人は悪役だけど完全な悪にはならないような物語にしているつもりです。そこに注目して楽しんでいただけたら嬉しいです。
〇新井:このチームはアイデアが豊富で、だからこそ「じゃあそのアイデアを使ってどう物語を組み立てていくのか」という部分で結構苦しんでいたなと。でも、ちゃんと動物の性質を、登場人物のキャラクターに活かせていますね。
例えば、昼光性だけど、明るいから昼だと思って夜に鳴いちゃうセミ。で、夜に鳴いちゃうから、騒音トラブルみたいになっちゃう。何気なく社会問題を入れているところは、ほんとにうまく考えたと思う!
シナリオ・センターでは小学5年生~中学生向けのオンライン創作クラス「考える部屋」というのがあって、最後に大発表会を開催するんだけど、そこで発表する課題はできれば社会問題を入れて描いてみよう(※)というふうにしているんです。
というのは、物語作りには自分なりの視点で「今」を考えることも大事だから。今どんなことが起こっていて、それについて自分はどう思うのか。そこに向き合うことで自分がどんな作品を作りたいのか、という方向性も見えてくるからね。完成に至るまですごく悩んでいたのを見ていたのですごくいい物語ができて、僕もとっても嬉しいです!
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▼『考える部屋』3期生大発表会より
チーム③の作品『えっ きみが?!』
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・まちを歩いて見つけた“不思議”:地下にあったプール、光るものをくわえたカラス
・そこから膨らませた今回のストーリー:「四角い顔の四角一顔須賀(しかくい・かおすか)くんはお人好しで損しがちな性格です。今日も中学校の先生に手伝いを頼まれてしまいました。そのお礼として先生は、ポケットからぐしゃぐしゃの紙切れを四角一くんに渡しました――」
〇チーム③の皆さん:新井さんに指導していただいたとき、登場人物の「らしさ(=キャラクター)」と物語の「テーマ」を設定するのが非常に難しいと感じました。特にこの絵本は、核となるテーマがないような気もしたので、最終的にはみんなで“ナンセンスの文学”でいきましょうと決めました。
〇新井:さきほど、登場人物のキャラクターを作ることとテーマを考えるのが難しかったって言ってましたけど、確かにそこは難しいところなんですけど、でも、ちゃんとできていますよ!
まずすごく良かったのが登場人物の名前。顔が四角いから「四角一顔須賀」、友達は歌舞伎役者っぽいから「花不気役者(かぶき・やくしゃ)」。まず絵を描いて、そこから名前を付けていったんだよね。これはすごくいい名前の付け方で、たとえイラストがなくても名前の漢字や音だけでも登場人物のイメージがちゃんと伝わります。
あと、物語の中で四角一くんや花不気くんの体が小さくなっちゃうんだけど、この発想はどこから?
〇チーム③:う~ん、二人ともちょっと心細いから心が小さくなる、みたいな感じかな。
〇新井:なるほど、心が小さくなって、それが体にも影響しちゃう、という。で、物語の後半で「ギャフンと言わせてやる!」ってチカラが湧いてくると体がもとに戻っていく。こんなふうに、気持ちの動きで体の大きさも変わってくる、というのがほんとにうまい。「核となるテーマがない」って言っていたけど、「心と体は繋がっている」みたいなことがうまく表現されているし、大きくなったり小さくなったりするビジュアルは絵本的でもあるし、よく考えられているなと思いました。
チーム④の作品『くつとえがお』
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・まちを歩いて見つけた“不思議”:道に落ちていた靴底、穴が空いたあじさいの葉っぱ
・そこから膨らませた今回のストーリー:「テクノワールドにはビルがたくさん並んでいて、空を飛べる車だってあって、みんな足元までオシャレをしています。けれど、彼らには欠けているものがあるのです。誰かが転んでもみんな知らんぷりをします。地球にはビルなんてありません。車もありません。みんな泥まみれで畑仕事をしています。けれど、みんなで協力できてとても楽しそうです――」
〇チーム④:あじさいの葉っぱの穴をくぐると時間や空間を移動できるんじゃないか、という設定が生まれて、そこから靴底というアイデアも絡み合って今回の話ができました。ワープができるということを掛け合わせて、二つの世界の交流を描きました。
〇新井:最初の導入がいい。「おや?キミ、この本をひらいてくれたってことは、地球のれきしを知りにきたの?」と始まることで、この物語の世界にスっと入っていける。また、テクノワールドはこういうところ、地球はこういうところ、という設定がしっかりできていて、この紹介も最初のほうにあるので、世界観がよく分かる。
また、主人公・アルロの変化と成長をちゃんと描けているのも、すごくいいなと思いました。テクノワールドはハイテクでオシャレだけど、誰かが転んでも知らんぷり。そこで生きていたアルロが地球に行って、人間に長靴をあげたら「ありがとう」って言われて、親切にされると嬉しくなるんだということを初めて知る。
で、テクノワールドに戻ったら、助けてくれる人は誰もいなくて、悲しくて寂しくて泣いちゃう。この対比を丁寧に描いていくことで、アルロの気持ちの変化や成長がよく分かる。
〇新井:それから、このアルロの泣き顔。ドアップで描いているのがすごくいい。アルロがすごく悲しんでいるのがよくわかるでしょ。映像でもね、観客に注目してもらいたいシーンはアップで撮るんですよ(※)。こういうテクニックを絵本でさりげなくできているところも驚きでした。
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▼@デジタルクリエーションクラブ/③ ロング バスト アップ を意識
本作りの際にお役立てください!
VIVITAさんの担当者の方によると、新井がお伝えした物語作りのためのアイデア整理の方法をキッカケに作品の“軸”が見えてきてとても参考になった、という意見が編集者役の学生さんから多かったとのことでした。大人だけでなく、本作りをしたいというお子さんも、今回そしてこれまでご紹介してきた模様を参考にしていただければと思います。
なお、VIVITA BOOKS の活動はInstagramにて発信中。
ぜひご覧ください↓
▼VIVITA BOOKS Instagram
また、以下のシナリオ・センター実施中の取り組みも是非↓
①「面白い物語をつくるために、創作のポイントをもっと知りたい!」ということでしたら、小学5年生~中学生向けオンライン創作クラス『考える部屋』へ!
▼『考える部屋』について
創作が好きな子どもたちが日本全国から集まって、切磋琢磨する特別クラスです。創作を楽しみながら、考える力を身につけていきます。『考える部屋』基礎科4期は6月25日(火)に開講します。体験&説明会も実施しますので是非ご参加ください!
>>詳細はこちらをご覧ください。
②「書くにあたって参考にできる本、何かないかな」ということでしたら新井の『プロ作家・脚本家たちが使っている シナリオセンター式物語のつくり方』(日本実業出版社)を!
小学校高学年~中学生向けオンライン創作クラス「考える部屋」の小学5年生のメンバーが「シナリオ講座を実際に受けているような感覚で楽しんで読めました。また、私の悩みを全て解決してくれるすごい嬉しい一冊でした。ものすごく分かりやすかったです」と感想をくれました。お話作りが好きなお子さんにもオススメです!
▼『プロ作家・脚本家たちが使っている シナリオセンター式物語のつくり方』
③いろいろな施設や学校で出前授業「キッズシナリオ」も実施しております。事例をご紹介しておりますので、「うちにも来てほしい!」ということでしたらご参考までにご覧ください。