清濁
シナリオ・センター代表の小林です。今週も私の朝は、朝ドラ「虎に翼」から始まりました。
今までもどの朝ドラも面白く拝見しているのですが、今回ここまではまってしまったのは、寅子が生きた時代と今が恐ろしいほどリンクしているからだと思います。
それを鋭い視点でさりげなく、だが痛烈に見る人に感じさせる吉田恵理香さんのシナリオの手腕には、毎朝脱帽しています。
先週の己を貫いて餓死した判事の花岡は本当にあったお話で、戦後、食糧管理法を遵守して餓死した山口判事がモデルで、山口判事のように己を律して亡くなった方は何人かいらっしゃいます。
清廉潔白とはなんなのだろう、「清濁併せ吞む」ことは人間が生きるためには必要ではないかとか、だけれど一歩間違えれば今の政治家たちと同じ穴の狢・・・この話を聴くたびに私だったらとどうするだろうと考えてしまいます。
山口判事が亡くなった時、当時の首相片山哲総理の連れ合い菊江さんが出した「奥さんがもう少し工夫をすればよかったんじゃないか」というコメントがあります。
視点としてはあるだろうけれど、これこそ政治家の妻だからこその、どうにもならない人がいることを知らない、かつ判事の奥さんが如何に傷つくかも考えに及ばない想像力のない言葉だと思いました。どっかの元首相の奥様もいらっしゃいましたっけ。
政治家の根底は、ずーっと変わらないのですね。
日本をどうしたいかなんて坂本龍馬で終わっている?
私利私欲だけの「濁」だけ飲み干す人ばかり。
「虎に翼」で描くドラマの世界は、現実世界に通じているので共感を持ってしまうのでしょう。
NHKのニュースは大本営発表しかないけれど、NHKドラマは攻めていますね。ガンバ!
最後の甲賀忍者
出身ライターの土橋章宏さんが、小説「最後の甲賀忍者」(角川春樹事務所刊)出されました。
映画「身代わり忠臣蔵」で評判を呼んだばかりの土橋さん。
実話を基にしたとかですが、忍者ものにはない視点で江戸幕府が大政奉還して、江戸時代崩壊の混乱期、戊辰戦争で一生一代の勝負にでた甲賀忍者の若者たちを書いています。
忍者が活躍した時代ではなく、戦いがなくなって必要とされなくなり、身分と領地を失った甲賀忍者がなんとか武士の身分を獲得しようとする設定が見事。
何より、まあ忍者といえども訓練していないとただの人なんだというのが笑えるのですが、そこはそこ忍者のDNAは生きていて、忍者として活躍した朧入道の特訓を受ける若者たちが前半イキイキと描かれています。
「手裏剣なんて持ち歩きには重いから本当は使わない」と朧入道。「えっ!っそうなの?」万事が万事で普通の忍者ものではありません。
「忍者の技を再び世に示し、甲賀忍者ここにあり知らしめれば武士の身分の返り咲ける」甲賀の若者がちっともカッコよくないのですが、大活躍するのです。
いつも喧嘩ばかりするはちゃめちゃ五人組の群像劇、このキャラクターが秀逸です。
親に捨てられた鬼っ子誰よりも果敢に動く了司、宮司見習いで了司を慕う金左衛門、家柄の良い箱入り息子伴三郎、了司とぶつかる甲賀一誇り高き血を誇る当作、少々歳のくったすごい薬を作る薬術師勘解由。
それぞれが身分、技量、特技の違いを活かして、薩長軍へ味方して最後の砦といわれる庄内藩を打ち破り、名を馳せるのですが・・・。
滅びゆく武士社会を知りながら、戊辰戦争で一世一代の働きをする甲賀忍者、だからこそ美しく心に響く物語になっています。きっとこれも映画化されちゃいますね。