先日、新井一樹 著『シナリオ・センターが伝える 14歳からの創作ノート』(KADOKAWA)の出版記念イベントとして、「カクヨム甲子園応援!特別講義:頭ひとつ抜けた小説を書くためのシナリオ・センター式 創作術」がZoomで開催されました。
なお、カクヨムとは、「KADOKAWA」と「はてな」が共同開発した 誰でも自由なスタイルで物語を書ける、読める、お気に入りの物語を他の人に伝えられる、Web小説サイト。
カクヨム甲子園とは、KADOKAWAが主催する高校生限定の小説コンテストのこと。
イベントのタイトルにもあるように、今回のイベントは「カクヨム甲子園2024」への応募を考えている高校生や、カクヨムで小説を投稿されている方&これから投稿される方に向けて実施されました。
当日は大きく4つ、
①全体の長さから考える「構成の立て方」
②読者を感情移入させる「登場人物のつくり方」
③盛りすぎずに魅力的にする「設定の考え方」
④イメージさせて、心に刺す「文章表現のコツ」
――についてをご紹介。
中でも、①全体の長さから考える「構成の立て方」は、「頭ひとつ抜けた小説を書きたい」という方だけでなく、「最後まで書き切れない……」とお悩みの方も必見必聴では!と思いましたので、この部分を主に、広報の齋藤がリポートいたします。
物語の全体の長さを把握する
*
〇新井:事前にいただいていた高校生からのご質問の中に
・「自分の書きたいものと流行の折り合いの付け方を知りたいです」
・「自分が書きたいことが読者ウケしなさそうなことでも、書きたいことを書いて読者がかなり減ってしまうことがあります。自分が書きたいことと読者が求めているもの、どちらを取るべきなのでしょうか?」
というのがありました。
折り合いはつけなくてもいいと思います。自分が書きたいものを書いてください。「何を書くか」は皆さん自身の中にあるものでいい。
ただ、自分だけが分かればいい、という“ひとりよがり”になってはいけないと思っています。
そこで大切になるのが「どう書くか」です。自分以外の他の人にも「面白い!」と思ってもらえるように書くために、技術が大切になってきます。
こういうことをシナリオ・センターの講座ではご紹介していて、それを僕なりにまとめたのが『シナリオ・センターが伝える 14歳からの創作ノート』です。今日はそれをもっとギュっとまとめてお話しします。
自分も他の人も面白いと思えるものを書く。
その第一歩が、物語の全体の長さを把握すること。
小説サイトに投稿したり、コンクールに応募するなら、募集要項に書いてある文字数を確認して「自分はこれからこのぐらいの長さを書くんだ!」ということをまずは把握してください。
その上で、これからご紹介する「構成(起承転結)」を考えていくと、
物語をどうやって組み立てていけばいいかが分かるだけじゃなくて、
・途中で筆が止まってしまう。
・最初がやたらと長くなり、最後は尻つぼみになってしまう。
・肝心の主人公が目立たずに、平坦なまま進んでクライマックスがない。
といったことを防ぐことができます。
では、長さを把握する例として、「カクヨム甲子園2024」で考えてみましょう。
カクヨム甲子園の募集要項を見ると
・ロング部門
6,000字以上、20,000字以下の作品を募集。
・ショート部門
400字以上、4,000字以下の作品を募集。
とあります。今回は「ロング部門で出す」と想定しましょう。
で、一旦このことは置いておきます。
次は、構成「起承転結」のそれぞれの機能を抑えましょう。
起承転結を考える
〇新井:分かりやすく考えるために、起承転結を図に表すと、山のカタチになります。『シナリオ・センターが伝える 14歳からの創作ノート』のP208にも書いてあるので参考にしてくださいね。
★起承転結それぞれの機能
・起:時代(天)、場所や舞台(地)、人物(人)を紹介する機能。「アンチテーゼ」(“転”で伝えたい逆のこと)から始める。
・承:事件や事情が積み重ねてドラマを進行する機能。主人公に「障害(困らせること)」をぶつけて、イライラさせたり、迷わせたりする。
・転:テーマを感じさせる機能。「クライマックス」といわれるところ。
・結:テーマの定着と余韻をもたせる機能
〇新井:起承転結を考えるときは最初に「転」を決めます。ここは「物語を通して伝えたいこと=テーマ」を感じさせるところ。テーマを考えるときは「友情の大切さ」とか、シンプルな言葉でOK。分からないときは「〇〇は××だ(例:友情は大切だ)」と考えてみてね。
次は「結」。例えば「友情の大切さ」がテーマだとしたら、読者が「友情ってやっぱり大切だな」「久しぶりに連絡してみようかな」と思うような余韻を持たせる部分です。
そして「起」。「友情の大切さ」がテーマならその逆から始めるので、「友達なんていらない」と思っている主人公が「転」に向かって徐々に変化していく姿を描きます。あと、時代はいつで、舞台設定の場所はどこで、どんな登場人物がいるのか、このパートで分かるように書いてくださいね。
最後は「承」。主人公をどんどん困らせてください。主人公をイライラさせたり、AにするかBにするか迷わせたりするようなものをどんどん主人公にぶつけていくんです。そうすることで、読者は「どうなっちゃうの?」と引き込まれていきます。
「友達なんていらない」と思っている主人公が、クライマックスとなる「転」で「友達って大切なんだ!」となるように、少しずつ気持ちが変化していく姿を「承」で描きます。
それを意識して、この主人公ならどんなことにイライラするのか、迷うのか、を考えていきます。
そのためには、構成を立てる前に、主人公のキャラクター(=性格)を設定する必要があります。キャラクターによってイライラすることや迷うことは違いますからね。
※キャラクターの設定については、『シナリオ・センターが伝える 14歳からの創作ノート』のP67・68(登場人物の作り方)、P75(魅力的なキャラクター)、P80(脱のっぺらぼう)を是非お読みください。
※こちらの記事もご覧ください。
▼脚本の勉強法 :シナリオでキャラクターを出すコツ
〇新井:機能が分かったら、次は「起承転結の配分」についてです。
それぞれの配分は、
・起:物語全体の1~2割
・承:物語全体の7~8割
・転&結:物語全体の1~2割
で考えると構成しやすいと言われています。
で、ここで先ほど触れた、「カクヨム甲子園2024」のロング部門(6,000字以上、20,000字以下の作品を募集)に出す、という話に戻ります。
もし、文字数20,000字で書くとするなら
・起:2,000字(原稿用紙5枚)
・承:16,000字(原稿用紙40枚)
・転&結:2,000字(原稿用紙5枚)
となります。
あくまでも目安ではありますが、こんなふうに具体的なボリュームや、この部分ではこういうことを描く、という“着地点”が前もって分かっていると、書きやすいんじゃないかなと。
そして、途中で筆が止まったり、最後のほうで書くチカラが尽きて尻つぼみになったり、結局何を伝えたいのか分からない平坦な物語で終わっちゃったり、というふうにはならないんじゃないかなと思います。
シナリオの技術は「書くことを縛るもの」じゃなくて「自由に書くためのもの」
*
イベントの終盤、Zoomのチャット欄にはこんな感想が!
「今回の講義を受ける前に、『シナリオ・センターが伝える 14歳からの創作ノート』を購入しました。今まで、“技術=縛るもの”と考えており、自己流で執筆してきたので、分かっているようで分かっていなかった土台部分を改めて学習でき、目から鱗が落ちる思いでした」
――このコメントを読んで、
〇新井:そうですよね、技術というと自分を縛るものっていうイメージがあって、「いや、自分の感性を活かしたい!カタチにとらわれたくない!」って思っちゃいますよね。
だけど「どう書くか」を分かっていると、「じゃあ、こういう風に書いてみようかな」って、自由に書けるようになるんじゃないかと。今日をキッカケに、技術へのイメージがちょっと変わったんじゃないかなって思います。
それから、「仕事があってなかなか腰を据えて執筆する時間が取れません。そのためカクヨムへの投稿もかなり不定期なものになってしまっています。毎日続けて執筆できる方法やアドバイス等があれば教えてください」というご質問もいただきましたが、たとえ5分でもいいから自分でどうにか時間を作って、1行でもいいから毎日書いていくしかないかなって思います。僕がこの『シナリオ・センターが伝える 14歳からの創作ノート』を書いたときもそうでした。
書くのって大変ですよね。だからこそ、技術を知っていると、闇雲に悩むんじゃなくて、「こういうときはこういうふうに考えてみよう」と道筋が分かる悩み方ができるんじゃないかなと思います。そんなときにも、この本を捲っていただけると嬉しいなと思ってます!
新井一樹 著書情報
今回こちらのブログでご紹介した「構成」以外の、
②読者を感情移入させる「登場人物のつくり方」
③盛りすぎずに魅力的にする「設定の考え方」
④イメージさせて、心に刺す「文章表現のコツ」
――についても『シナリオ・センターが伝える 14歳からの創作ノート』で詳しくお伝えしておりますので、是非この機会にお読みいただければ。「14歳からの」となっておりますが、14歳未満のお子さまにも、大人の方にも、楽しく読み進めていただけるかと思います。
・2024年6月19日発売
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▼面白い物語になっているかチェック!『シナリオ・センター式 物語のつくり方』