「登場人物を考えるときは履歴書を作ろう、とよく聞くけど、そのやり方だとうまくいかない……」とお悩みでしたら、「登場人物の背景を設定する」という方法をお試しください。
昭和女子大学×世田谷区立下馬図書館×図書館総合研究所「VIVITA BOOKS 世田谷ふしぎの本プロジェクト2024」(全11回)の模様を通してご紹介。
このプロジェクトは、子どもたちが作家役、昭和女子大学の学生たちが編集者役となり、まちの「気になるもの」や「不思議だなと思うこと」をテーマに、下馬図書館に来る子どもたちや地域の方々に読んでほしい本をともに作り上げるというもの。
昨年も、そして今年も、シナリオ・センターの新井がお手伝いさせていただいております。
今回は、前回マインドマップで広げたアイデアをもとに作った物語を、新井の講義をもとにさらに整理。
講義修了後、学生さんたちだけ残って、講義を受けて現時点ではどのようなカタチになったのか、そしてこれからどう進めていくか、を新井にフィードバックしました。
その中で、特に「これは物語を作りたいすべての方に必聴だ!」と感じたあるチームの学生さんと新井とのやりとりがありましたので、その内容を広報の齋藤がリポートいたします。まずは、学生さんのフィードバックから。
講義を経て、学生さんからのフィードバック
「登場人物の“背景”をしっかり設定しなきゃ」
*
〇学生さん:アイデア探しの「feel度walk」(※)で、Aちゃんが「防犯カメラが作動中 花をとらないで!」という看板を見つけました。そこから、「花泥棒」のお話を作ろう、となりました。
※feel度walkとは:なんとなく気になるモノ・コト・ヒトと「出“遭”い(であい)」ながらあてもなく歩くこと。
主人公は魔法使いの女の子で、魔法が使える世界が舞台です。ウサギの女の子も出てきます。この子は満月の夜だけウサギが住む世界から魔法が使える世界へ来ることができます。このウサギが魔法使いの女の子の庭の花を盗んでしまうというストーリーです。
具体的に言うと、庭の花が盗まれていることに気づいた魔法使いの女の子は魔法のチカラでその原因を探ろうとしますが、なかなか真相が分からない。
そこで「防犯カメラが作動中だから花をとらないでね」という看板を立てます。それでもなかなか進展がないのですが、ある満月の夜、女の子は花を盗んでいるウサギを捕まえ、「理由」を尋ねます。ウサギには何らかの「理由」があって盗んでしまったということが分かる。
最後は、魔女の女の子とウサギの女の子が仲良くなって、これもまた何かしらの「理由」があって一緒に暮らすことになります。
これが前回までに私たちが決めたことでした。
今回の講義を受けて、まず私たちが考えたのはこの物語のテーマ(=伝えたいこと)でした。劇中、ウサギの女の子は花を盗みます。人のものを盗む行為は悪いことですが、その行為だけで、この人は悪い人と判断してしまうのはどうなんだろう、と。そこから私たちは「1つの情報だけで人を判断しない」ということをテーマにしたいね、となりました。
盗むことは勿論悪いことだけど、ちゃんと話を聞いてみたらその子にも「理由」があるよ、みたいな。で、その「理由」が分かった2人は打ち解けて、一緒に生活するようになる、みたいな流れにしようかなと思っています。
で、今日感じたのは、ウサギが花を盗む「理由」や、2人が一緒に暮らすことになる「理由」を考えるには、ウサギや魔法使いの女の子の「背景(=今までのこと)」をしっかり設定しなきゃいけないんだな、ということでした。
そこで私たちはまず、2人とも家族がいなくて、これまでずっと独りぼっちで暮らしてきた、という同じような境遇にしようかなと。そうすれば、一緒に暮らすことになる、という流れが“必然的”になるんじゃないかと。
で、魔法使いの女の子は庭に咲いている草花を使って薬を作って生計を立てているから、これを盗まれると困っちゃう。一方、ウサギも独りで生きているから盗まなきゃいけないんですが、盗む理由はまだ固まってません。現時点ではこんな感じです。
フィードバックを受けて新井からのアドバイス
「登場人物のキャラクターを掘り下げよう!」
*
〇新井:いいテーマにしましたね!それから、今日の気づきとして挙げてくれた「背景」。これは他のチームの皆さんにもポイントとして抑えてほしいところなので、もう一度、復習してみましょうか。
今日の講義で、物語を作るときはまず構成「起承転結」を考えよう!とお伝えしました。
・起:時代(天)、場所や舞台(地)、人物(人)を紹介する機能。「アンチテーゼ」(“転”で伝えたい逆のこと)から始める。
・承:事件・事実・事情を積み重ねてドラマを進行させる機能。主人公に「障害(困らせること)」をぶつけて、イライラさせたり、迷わせたりする。
・転:テーマを感じさせる機能。「クライマックス」といわれるところ。
・結:テーマの定着と余韻をもたせる機能
この物語の場合は、「結」の部分で「ああ、そうだよね、人を行動だけで簡単に判断しちゃいけないよね」と余韻を感じてもらえればいい。
そのためには、構成の7~8割を占める「承」のところで、いかに読者を感情移入させるか、が大切になります。
構成を図にすると山のカタチになるよ、って先ほどお話ししましたよね。主人公がどんどんこの山を登っていく部分が「承」。
〇新井:でもなんで、主人公はこんなに頑張ってこの山を登らなきゃいけないのか。それは主人公にはこの山を登らなきゃいけない「目的」があるからです。この物語の場合は、魔法使いの女の子には花泥棒を捕まえるという目的がある。
でもなんで捕まえなきゃいけないのか。それは、花を盗まれると薬が作れなくなって生計が立てられなくなるという「背景」があるから。
背景と目的が無理なくうまく繋がってますよね。そうすると、読者も「そうだよね、盗まれたら困っちゃうもんね!」「がんばって犯人を見つけて!」と感情移入して物語に惹き込まれていきます。
だから、主人公の「目的」を考えて、なおかつ、その目的をもつ理由となる「背景」も考えてください。この2つを設定しておくと、そういう人物だからこういうことを言うだろうな、するだろうなと、セリフやアクション・リアクションも考えやすくなって、結果、この「承」の部分も作りやすくなるんじゃないかと思います。
主人公だけじゃなくて、物語のキーになる登場人物も「背景」を作っておくといいですよ。この物語なら、ウサギの女の子だよね。
「背景」は人物の「キャラクター(=性格)」を作るときに一緒に考えてくださいね。ウサギが花を盗む理由も、ウサギのキャラクターをもっともっと掘り下げていくと固まってくるんじゃないかなと思います!
創作のヒント:こちらも是非参考に!
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今後、学生さんたちは子どもたちと一緒にさらに内容を詰めていきます。次回お会いできるのは来年の発表会。どのような物語が完成するのか楽しみです!
このプロジェクトの学生さんや子どもたちのように、「物語を作りたい!」という方は、今回ご紹介した「登場人物の背景を設定する」という方法を登場人物のキャラクターを作るときに実践してみてください。ここを設定してみるだけで、これまでよりスムーズに物語作りが進むのではないかなと思います。
なお、世田谷ふしぎの本プロジェクト2024 の活動は、世田谷区立下馬図書館のInstagramにて発信中。ぜひご覧ください↓
▼世田谷区立下馬図書館Instagram(@setagaya_shimouma_lib)
これまでリポートした内容も、創作のヒントが沢山つまっていますので併せてご覧ください↓
・世田谷ふしぎの本プロジェクト2023
▼不思議な物語を書くとき
▼子どもと一緒にお話づくりをするとき/対立関係やテーマを設定
・世田谷ふしぎの本プロジェクト2024
▼マインドマップでアイデアを広げる
また、「講義でお伝えしている内容をもっと詳しく知りたい!」という方は新井の著書を是非↓
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▼面白い物語になっているかチェック!『シナリオ・センター式 物語のつくり方』