第52回創作ラジオドラマ大賞。応募総数331作品(前回325作品)の中から、大賞1作品、佳作1作品、奨励賞2作品が決定。
そのうち、門前日和さん(研修科修了)の『父さんが会いにきた』が大賞を、
三谷武史さん(シナリオ・センター大阪校)の『サクラサクラ』が佳作を、
青山ユキさん(作家集団)の『優しい嘘』が奨励賞を受賞。
なお、門前さんは第46回創作ラジオドラマ大賞で佳作を受賞されていますので、今回で2度目の受賞。
『月刊シナリオ教室』(2024年10月号)には受賞作のシナリオとともに受賞インタビュー&受賞の言葉を掲載。ブログ用にもコメントをいただきましたのでご紹介。
特に、「シナリオを書くのやめようかな」「コンクールに出すのやめようかな」とお悩みの方には刺さる言葉がたくさんあるのではないかと思います。
大賞『父さんが会いにきた』門前日和さん
「とにかく書いて出して、立てる打席にはすべて立とう」
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=あらすじ=
鈴木諒介は冴えないサラリーマン。パワハラ上司に虐げられ、妻の咲とは別居中。ある日、遠く函館に住む父・和夫が倒れたという報せがくる。上司に休暇を取ると言い出せないまま、翌日目を覚ますと、目の前に和夫が。どうやら幽体離脱して会いにきたらしい。「なにやってんだ、早く駆けつけてくれよ」と言いながら、和夫は上司の説得を請け負い、ついでに諒介と咲を仲直りさせてやると意気込むのだが――。
〇門前さん:この作品は、諒介の前に死ぬ直前の父・和夫が突然現れて、「俺もうすぐ死ぬから病院に駆けつけてくれよ」と言われる話と、和夫の部屋から布団乾燥機がたくさん見つかって、「あれはなんだったんだろう?」という2つの話を組み合わせて作っています。
遺品を整理していたら同じものがたくさん出てきた、というのは、ずいぶん前から書いてみたかった題材で。
というのは、家をゴミ屋敷にしてしまう人の家には、新品の掃除機が5・6台とか並んでいることが結構あるらしくて。きっと掃除機を買った瞬間は、掃除ができる自分に生まれ変わりたかったんじゃないかと思うんです。その気持ちを描いてみたいと、ずっと思っていました。
でも、掃除機をそのまま使いたくないから、ちゃんとなりたい人がイメージする、ちゃんとした人がすることって何だろうと考えました。そして季節ごとに布団乾燥機で布団のお手入れをする人はちゃんとしているよなぁと思いついて決めました。
本作を書くにあたって、「変わりたいと思う人間」をテーマの主軸に置こうと思いました。変わろうとする行動ってわりと滑稽じゃないですか。たとえば高校生のときに「今日から俺はクールになるんだ!」って宣言して一言も喋らなくなるとか。今考えるとばかばかしいけど、でも、その気持ちは尊い気がするんです。
ハッピーエンドにしなかったのも、主人公が今までやってきたことを反省して、離婚を決断して伝えることが、彼にとっては「ちゃんと変わった」ということになると思ったんです。それに、今は3人に1人が離婚しますし、離婚イコール不幸という時代ではないので、この方がリアルかなと。
実は、前回の受賞作『母ちゃんと王様』は割と自信があったのですが、今回の『父さんが会いにきた』は、先ほど申しました通り、元々別の話で考えていた2つの話を組み合わせて作ったので、ちゃんとかみ合っていなかったんじゃないか、どうなのかなあと思っていた部分がありまして……。正直、受賞は期待していなかったのでびっくりしました。
前回の受賞後、ラジオドラマのお仕事に参加させていただきましたが、その間もテレビや映画のコンクールはちょこちょこと出していました。でも、創作ラジオドラマ大賞は出すのをやめていたんです。ただもう一度ラジオドラマをきちんと書いてみたいと思い、再度、創作ラジオドラマ大賞にも出すことにしました。
というのは、去年10月に大好きな劇団の主催者の方が突然亡くなられて。年齢も若く天才だと思っていた方なので、とてもショックでした。人生どうなるかわからない。ダメダメな作品でも完成度が低くても、とにかく書いて出して、立てる打席にはすべて立とうと決めました。
今後も一生書くことは続けていこうと思います。
自分なんてダメダメですけど、脚本でも戯曲でも小説でも漫画でもアニメでも書けるものは書いて、チャレンジしていきたいです。せっかく自分のところに降りてきてくれたアイデアに申し訳ないので、形にすることは諦めたくない。出さないと結果を見る楽しみもないですし。後悔しないように、やり続けたいです。
佳作『サクラサクラ』三谷武史さん
「下手な鉄砲、数、撃たなきゃ当たらない」
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=あらすじ=
田嶋煉(27)はビルの解体作業員。解体作業中、事故でコンクリートの下敷きになってしまう。同じく生き埋めとなった金子(43)が救出を呼ぶために鉄の棒を叩いたリズムから、昔、妹の桜(4)に教えたピアノの音を思い出す。煉と桜は、母親の虐待のせいで児童養護施設に入所していた。そこで桜に「お前のテーマソングだ」とピアノの弾き方を教えたのが「さくらさくら」だった。コンクリートの下敷きになり、身動きできない状況の中で、煉はさらに記憶を辿って行く――。
〇三谷さん:念願であった創作ラジオドラマ大賞で賞をいただくことができ、大変感動しております。
創作ラジオドラマ大賞応募の歴史は、悲惨なものでした。一次を突破したこともありません。こりゃもう、よっぽど相性が悪いとしかいいようがありませんな、と投げやりになっておりましたが、それでも「下手な鉄砲、数、撃たなきゃ当たらない」が信条の私は、今年も撃つことにしたのでした。
学習能力を総動員し対策を検討した結果、「やっぱり『音』だな」という結論に達しました。『音』といっても、なんの音にすればいいのか……。
ぼんやりと、ストリートピアノが騒音の苦情のせいで撤去があいついでいるというニュースを見て、これいいじゃん、とは思ってはいましたが、どうにも主人公の動機が陳腐なものしか浮かんで来ないまま、無情にも師走の時は足早に過ぎていくのでした。
応募締切は1月10日。さすがにヤバいと思い始めた12月16日、その『音』は聴こえました。
その日は、共同墓地にあった祖父の墓の墓じまいでした。墓石の撤去をする際、重機も入らない狭い共同墓地のため、現地で墓石を砕くしかありませんでした。墓石に小さな穴を穿ち、そこに鉄の棒を差し込んでハンマーで叩き、割るという作業です(もちろん実際の作業は石材店の方です)。鉄の棒は規格が揃ったものではなく、叩くと違う音色になりました。それを聴いているうち、これはラジオドラマになるな、と予感したのです。
すぐに単調な音色で奏でられる『さくらさくら』のメロディが浮かびました。
次は、このメロディーがどこから聴こえてくるのか、です。そこで閃いたのが、ビルの解体現場で作業員が生き埋めになり、助けを呼ぶために鉄骨を叩く、というものでした。
これはいけるぞ、年明けから一気に書き上げようと決意して迎えた元日。能登半島地震が発生したのです。今は、生き埋めの話は不謹慎じゃないかと躊躇っているうち、時は過ぎ、実際、書き始めたのは1月3日。さすがに無理か、とも思いましたが、陸上競技で言えば、400m走のように疾走したのでした。
ただ、330mくらいで力尽き、這うようにしてゴールしたのが拙作『サクラサクラ』。力尽き具合は、『月刊シナリオ教室』10月号でご確認ください。
奨励賞『優しい嘘』青山ユキさん
「プロット大切。セリフ大切。書き続けることは何より大切」
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=あらすじ=
保険外交員の森末創太(28)の母、恭子(53)が交通事故で死んだ。その日から森末家の迷走が始まった。葬式後まもなく、創太の父・瑛二(56)に、認知症の症状が出始め、母似の妹・穂波(26)ではなく、創太のことを恭子と思い込むようになった。そんな瑛二に慄く創太は家から逃げ出すが、それによって瑛二の認知症が悪化し、おまけに転倒して頭を負傷。穂波と相談の末、これ以上、瑛二を刺激しないよう、創太は瑛二の前で恭子を演じることになる――。
〇青山さん:本作では、家族を亡くしたことを受け入れられない主人公の「心の旅」を描きました。大切な人を失った時の悲しみ、それはどこまでも深く、一筋縄ではいかない感情です。その「悲しみ」をストレートに描くのではなく、個性的な主人公の行動にハラハラしつつも、共感できるエンターテイメントに仕上げたいと思いながら書きました。
その試みが成功しているかどうかはともかく、思い描いた結末まで書き切ったこと、そしてその作品で賞をいただけたことは自信につながりました。今回の受賞、大変感激しております。
少し、自分語りをさせてください。私とシナリオ・センターの出会いは随分前です。当時書くことはもちろん、それと同じくらいゼミ後の飲み会が楽しくて、数年通いました。
しかし、時の流れと共に自分を取り巻く環境や興味に変化が生じ、また、仕事や生活に追われ、書くことをやめてしまいました。
そして長い年月が流れたある日、突如、毎日配信ドラマを見る生活が始まりました。そう、コロナ禍です。特に、韓国ドラマにどハマりした私は、ネットフリックス中毒になりました。そんな風にドラマや映画を見倒す日々を過ごしているうちに、忘れていた感情がムクムクと湧き上がりました。
「シナリオを書きたい」。
長い時を経て、再びシナリオ・センターの門を叩きました。
しかし、すぐに壁にぶつかります。その壁とは「プロット」です。私が所属するクラスでは、シナリオだけでなく、シナリオを書く前に作る物語の筋書き「プロット」を発表します。が、それまで私はプロットを書いたことがありませんでした。セリフを書くことは好きなのですが、その気持ちだけで長編シナリオを書くのは無謀です。だから「プロット」を頑張りました。でも、シナリオに落とし込む過程で迷走、あるいは脱線し、違う話になってしまうこともしばしば。
そこで『優しい嘘』のプロットでは、やり方を変えました。いつもだったら、初稿プロットをゼミで発表した後、いただいたコメントを頭に入れ、即シナリオを執筆し始めます。せっかちなんです、私。
でも今回は、プロットの段階で粘りました。
その甲斐あってか、迷走せずスラスラとシナリオが書けました。
そして、賞をいただくことができました。
この経験を通し、私の中でプロットの重要度がググンと上がりました。
プロット、大切。
それでも、私にとってのシナリオを書く醍醐味は、やはり登場人物たちのキャラクターが表現できるセリフです。
こっちも、大切。
そしてなにより書き続けることが、大切。
そうです。益々精進すべく、書き続けます。
ご指導くださった大前玲子先生に心より感謝いたします。
こちらの記事も併せてご覧ください
これまでも、シナリオ・センター在籍生や出身生の方々が創作ラジオドラマ大賞で受賞されています。
▼第50回創作ラジオドラマ大賞
物語を書くときの発想パターン
▼第49回創作ラジオドラマ大賞
大賞・佳作一席・二席の受賞者全てがシナリオ・センター出身生
▼第48回創作ラジオドラマ大賞
ラジオドラマで時代劇
▼第47回創作ラジオドラマ大賞
書きたいものを書いて賞をとるには
- シナリオは、だれでもうまくなれます
「基礎さえしっかりしていれば、いま書いているライターぐらいには到達することは可能です」と、シナリオ・センター創設者の新井一は言っています。“最初の一歩”として、各講座に向けた体験ワークショップもオススメです。
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