南のシナリオ大賞は、日本放送作家協会九州支部 主催、日本脚本家連盟九州支部/日本脚本家連盟寺島アキ子記念委員会 後援。募集作品は、15分のラジオドラマのシナリオ(400字詰原稿 15枚以内)でテーマは自由。ただ、「シナリオの中に1回以上、九州か沖縄の地名が登場すること」。
18回目を迎える今回は、応募総数209篇(前回252篇)の中から、大賞1篇 優秀賞2篇が選出され、両角美貴子さん(研修科ゼミナール)の『私の声が嫌い』が優秀賞を受賞。受賞を記念してコメントをいただきましたのでご紹介。
お読みいただくと、両角さんがシナリオ・センターの講座やゼミ、そこで出される宿題をご自身で効果的に活用されているのがよく分かります。ラジオドラマを書きたい方や、シナリオコンクールに応募される方は特に為になることが沢山書かれていると思いますので是非参考にしてください。(広報・齋藤)
「この作品はシナリオ作家養成講座の宿題で書いた20枚シナリオが基になっています」
=受賞作『私の声が嫌い』あらすじ=
自分の低い声に劣等感を持っている女子大生が主人公。「声を出さずに会話ができる」ことを魅力に感じ、大学の手話サークルで手話を学んでいる。彼女が自分の声を嫌いになったきっかけは、中学生の頃、父から投げつけられた心無い言葉に深く傷ついたからだ。しかし父の抱えていた苦悩を知った主人公は、父との関係を見直し、また、自分の劣等感を克服するため、声を仕事にしようと決意。そして卒業後、夢をかなえてラジオのパーソナリティになる――。
――まずは受賞のご感想を。
〇両角さん:ラジオドラマのシナリオを書いたのは今回の作品が初めてなので、「南のシナリオ大賞」への応募も今年が最初です。
シナリオ作家養成講座や研修科での宿題を通して、「20枚シナリオ」(※)の仕上げ方には手ごたえを感じていました。そこで、まずは短いラジオドラマのコンクールに挑戦してみようと応募したのが、「南のシナリオ大賞」だったのです。
もう一つの動機としては、この賞で二次選考まで進むと選考委員の講評が掲載されます。二次選考まで残り、ぜひ講評を読みたいと思いました。ですから二次選考に通ったのは嬉しかったですし、優秀賞をもらえたのは予想外の驚きでした。
20枚シナリオの宿題には、精いっぱい向き合い、どの作品も思い入れたっぷりで時間をかけて書きあげています。今回の受賞で、私の努力の方向性が間違っていないと確信できたことは本当に喜びです。今後も、手を抜くことなく20枚シナリオを書いて、それと同時に、コンクールにも挑戦し続けよう、と私にとって大きな励みになりました。
※20枚シナリオとは、シナリオ・センター創設者・新井一が開発したシナリオ上達法で、200字詰め原稿用紙20枚のシナリオ(=ペラ20枚)を書くこと。両角さんが所属する研修科ではテーマに沿って30本の作品を書きます。
――ラジオドラマを書こうと思ったキッカケとは。
〇両角さん:私は20代の頃、シナリオ・センターに1年半ほど通っていました。でもその時は、他の受講生の作品に圧倒され、「私は才能がない」とあっさり諦めてしまったのです。
その後、30代の半ばまで、東京のラジオ局・文化放送でフリーランスの構成作家をしていました。ラジオの構成作家というのは、これは当時の状況ですが、企画・取材・音声テープの編集、構成台本の執筆まで、すべて1人で手がけるので、いつも時間に追われていました。音声テープを編集する編集室は、昼間、満室のことが多く、私は夜になってから編集作業をしなければなりませんでした。
そんなある深夜、やっと作業を終えて制作ルームに戻ると、人はほとんど残っていませんでした。疲れきってため息をつきながら帰り支度を始めると、局内にラジオドラマが流れてきたのです。私は帰り支度の手を止め、椅子に座り、最後まで聴きいってしまいました。
内容は忘れましたが、男女の会話に魅了され、また、俳優さんの深い声に疲弊しきった細胞が柔らかくほぐされる感じがしました。ラジオドラマの奥深い魅力に気づかされた出来事です。と同時に、一度は諦めたシナリオライターへの夢を思い出す貴重な時間ともなりました。
でも、「いつか必ずラジオドラマを書こう」と決意はしたものの…… 日々の暮らしに流され、その時から何十年も経ってしまいました。意を決して1年前、シナリオ・センターに再入学。あの時、胸に抱いた熱い感情、若き日の自分との約束をようやく果たすことができたと思います。
――受賞作『私の声が嫌い』を書こうと思った経緯を教えてください。
〇両角さん:この作品は、シナリオ作家養成講座で出題された宿題「夢(希望)」(ペラ20枚)が基になっています。自分の声が嫌いな女子大生は十代の頃の私がモデルです。このテーマは宿題で提出して終わりではなく、描き直してさらによい作品にしたいという強い思いがありました。
自分の声が嫌いということは、自分に自信がない、自分を好きになれない、というのと同じことなのです。声だけでなく、いろいろな理由から、自分で自分自身を嫌っている人は大勢います。私もそうでしたが、ありのままの自分を受け入れてみると、生きることが楽になります。そういう経験をしてほしくて、自分を好きになれない全ての人々にエールを送りたい気持ちで書きあげました。
――南のシナリオ大賞の公式サイトに掲載されている講評に「手話というラジオドラマ向きではない内容に果敢にチャレンジしていることに好感が持てる」とありました。今回、なぜ手話を取り入れたのか、どんな部分がチャレンジだったのか、お聞かせください。
〇両角さん:「声」をテーマにするのはラジオドラマ向きだと考えつつも、手話は無理かなと思う気持ちも少しありました。ですが、自分の声が嫌いだから手話を習う、という主人公の態度は、声に対する彼女の複雑な感情を表現するのにぴったりなので、やはり手話をとりいれようと決めました。
それに私は「コンクールに応募する=他の人がしていないことにチャレンジする」という考えをもっています。そのため最初に決めた通り、手話を使うラジオドラマにチャレンジすることにしたのです。
私には手話を学ぶ友人が数名いて、彼女たちが生き生きと楽しそうに手話の話をたくさんしてくれます。1つの単語を表す動作の意味を深く理解すると、言葉で説明されても頭の中に鮮明にイメージが湧きました。そういう経験があったからこそ、「ラジオドラマで手話を描く」のは可能だと思えたのです。
とは言っても、手話の部分をすべて言葉で説明してはシーンが長くなり過ぎますし、聴く人の記憶に残らず、効果的ではありません。そのため物語のキーワードである「声」「嘘」などの短い言葉を丁寧に説明しました。
――「音で表現するラジオドラマだからこそ、特にココをこだわった!」という部分はありますか?
〇両角さん:音だけで表現するラジオドラマでは、モノローグやナレーションは必須の要素です。
とはいえ、ラジオドラマの経験が豊富な、私が所属している研修科の坂田俊子先生 から「モノローグに頼り過ぎないように」と助言されました。そのアドバイスを忘れずに、なんでもかんでも主人公のモノローグにしてしまうのではなく、なるべくダイアローグで書こうと努力しました。
ラジオドラマの書き方の本によると、ラジオドラマの台詞の8割は説明ゼリフらしいです。だからこそ、自然な会話に聞こえる説明ゼリフになるよう工夫しました。
「20枚シナリオで習得したことは、そのままラジオドラマのシナリオに活かせる」
――シナリオ・センターが提唱するシナリオの技術は主に映像ドラマを書くことを想定していますが、この技術はラジオドラマにも活かせるのではないかと思います。今回、何か役に立ったことはありましたか?
〇両角さん:ラジオドラマを書きたい気持ちはあっても、技術面において不安があり、正直どうしたらいいのかと思っていました。
そこで、堀田りえ子先生の「ラジオドラマ講座」を受講しました。1日限りの特別講座でしたが、堀田先生はラジオドラマの魅力を熱く語りながら、ラジオドラマを書くノウハウを余すところなく教えてくださいました。
特にラジオドラマで描く「回想シーン」について学ぶことができたのは、大きな収穫でした。この講座ではペラ4枚(=200字詰め原稿用紙4枚)の宿題が出され、堀田先生が添削してくださいました。この宿題の中で描いた回想シーンやSE(効果音)の使い方について、講評の中で誉められたことが自信になりました。
堀田先生は講座の最後に仰いました。「ラジオドラマのシナリオは声に出して読んでください」と。私は自分の作品を何度も何度も音読して、台詞をブラッシュアップしました。
研修科で20枚シナリオを発表すると、「主人公の葛藤がみえなかった」「主人公の気持ちに変化がない」という講評をもらうことがあります。そのたび「ドラマとは変化である」という新井一先生の名言を思い出し、反省しています。
テレビドラマでもラジオドラマでも「変化を描く」という基本は変わりありません。それに20枚シナリオを書きながら身に付ける構成の仕方や、心に響く台詞の書き方は、そのままラジオドラマのシナリオに活かせると思います。
――「ラジオドラマを書いてみたい」「ラジオドラマのコンクールに応募したい」という方がたくさんいらっしゃいます。ラジオドラマを書く楽しさや魅力、おすすめの勉強法など、何かメッセージをお願いします。
〇両角さん:坂田先生はいつも「時代劇もSFもファンタジーもサスペンスもジャンルを問わず描けるのがラジオドラマの魅力だ」と力説されます。ぶっちゃけて言えば「予算に関係なく何でもできるよ」ということなのだと思います。ですから、「ラジオドラマは音でしか表現できない」とマイナスにとらえるのではなく、「音だけで無限に表現できる」と肯定的に考えればいいのではないでしょうか。
実際に放送されているラジオドラマを聴くことは本当に勉強になります。過去の名作は、ポッドキャストやユーチューブでも聴くことができます。気に入ったラジオドラマを繰り返し聴いていると、だんだんシナリオライターの意図を察することができるようになり、「私にも書けそう」という前向きな錯覚に陥ることができます。
私は20枚シナリオを書きながら、これをラジオドラマに書き換えたらどうなるかな、どうやったら表現できるかな、といつも考えています。この頭の中の訓練は、役に立ったと思います。
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これまでにも、南のシナリオ大賞で受賞されたシナリオ・センター在籍生・出身生が沢山いらっしゃいます。こちらも併せてご覧ください。
■第17回南のシナリオ大賞
優秀賞 立石えり子さん
■第16回南のシナリオ大賞
優秀賞 谷口あゆむさん&橋本直仁さん
■第15回南のシナリオ大賞
大賞 荻安理紗さん&優秀賞 竹上雄介さん
■第14回南のシナリオ大賞
大賞 竹田行人さん
■第12回南のシナリオ大賞
優秀賞 山下蛙太郎さん
「基礎さえしっかりしていれば、いま書いているライターぐらいには到達することは可能です」と、新井一は言っています。“最初の一歩”として、各講座に向けた体験ワークショップもオススメです。
※シナリオ作家養成講座とシナリオ8週間講座は、オンライン受講も可能です。
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