「第18回小学館ライトノベル大賞」(ガガガ文庫)にて『嫉妬探偵の蛇谷さん』で優秀賞を、「第18回講談社ラノベ文庫新人賞」にて『探偵気取りと不機嫌な青春』で佳作を受賞された野中春樹さん(作家集団)。『嫉妬探偵の蛇谷さん』は小説家としてのデビュー作となりました。
聞くところによると、小説のコンクールに応募し始めて4年目なのだそう。4年目で“W受賞”を果した野中さんに、どのように書き続けてきたのか、お聞きしました。
ミステリ―を書きたい方、それ以外の小説を書きたい方、そして小説以外のものを書きたい方も、参考にできる野中さん流の方法をご紹介します。
受賞作について
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・『嫉妬探偵の蛇谷さん』
==あらすじ==
蛇谷カンナ。ひたすら「妬ましいわね……」と呟きながら、その嫉妬による観察力で犯人の動機やトリックを暴く。主人公の野水は嘘をつけない男の子。疑り深い蛇谷さんの傍にいられる唯一の人間。青春は綺麗ごとでは終われない。嫉妬で嘘をあぶりだす学園青春探偵物語。
--強烈なキャラクターの“蛇谷さん”はどのようにして作られたのですか?
〇野中さん:シナリオ・センターの基礎講座「シナリオ作家養成講座」で、登場人物のキャラクターを設定するときはまず「〇〇すぎる性格」と考えてみよう、と習いました。
それで一時期、『性格類語辞典』を見ながら、ランダムに開いたページの性格でキャラを作って、その人が「どんなピンチに陥るか?」というストーリーを15分で書くことを課していました。それがA4ノート2冊分くらいあって、そこで最初に生み出したキャラが実は、『嫉妬探偵の蛇谷さん』の蛇谷さんなんです。
――事件やトリックなど、ミステリ―ならではの展開や書き方はどのようにして習得していったのですか?
〇野中さん:まず、自分が書きたいイメージに近い小説を探して、そのトリックや構成をシンプルな骨組みとして分析し、抽象化します。その上で、自分の“素材”を掛け合わせてみて、互換性があるようならその骨組みを使う、ということをしています。
ミステリーは、時系列がバラバラに進んで、積み重なっていくようなものもあるので難しく感じるかもしれませんが、そういう場合は、参考にした作品の「事件(起こる出来事)」を時系列に並べてみます。すると、どこをどう入れ替えたかが分かるので、その構成を使える場合は取り入れています。
・『探偵気取りと不機嫌な青春』
==あらすじ==
「俺は探偵気取りはもうやめたんだ」「朝河って冷たいんだね」。探偵気取りで人の問題に首を突っ込み、トラウマを背負った少年と、現実を諦めている孤高の女子高生との青春ミステリ―。
※本作は今後発売予定。
――『探偵気取りと不機嫌な青春』は、『嫉妬探偵の蛇谷さん』と比べるとやや文芸寄りの文体だと思うのですが、書くのは大変でしたか?
〇野中さん:既に書いてストックしていた作品が結構あったので、その中から応募できそうなものに手を入れて応募したんです。実は、プロットは書かずに、すぐに書き出した作品で、300ページ以上あったのでかなり削りましたが……。
――ストックがあるのですね!
〇野中さん:主人公視点で書いた3万字くらいの小説プロットをいつも何個か用意しています。そうすると、コンクールに出そうと思ったとき、すぐアイデアが思いつかなくても、何か書いて出せるのでオススメです。
それにデビュー後、次回作が出せなくて行き詰まる人が多いと聞いたことがあるので、ストックがあると精神的にも安心です。
「シナリオ・センターで“書くこと”を習慣化」
――4年目で“W受賞”というのはすごいことです。何か秘訣はありますか?
〇野中さん:ひたすら書くしかないと思いますが、まずは自分の好きな作品を「逆バコ」に起こしてみる。
僕は、作中の出来事をひたすら箇条書きにしていきます。続けていくと“心臓部分”が分かる瞬間がある。そこを踏まえて、必要に応じて骨組みを変えて換骨奪胎すれば、オリジナルに転用できます。
気に入った構成をテンプレート化し、自分のアイデアや素材を当てはめて書くことを続けてやれば、コンクールで2次、3次審査には行けるのでは、と思います。
書いていないうちからハウツー本を読んでもあまり意味がないんじゃないかと。まずは多くの作品を読んで抽象化し、構成パターンを見つけて、自分でも書く。数学の公式だけを覚えても応用が利かないように、自分で物語の法則や定理を導けるようになるといいと思います。
――そもそも、どうしてシナリオ・センターに入ろうと?
〇野中さん:一番は小説が上手くなりたかったからですが、プロになってずっと書き続けるために、とにかく量を書くことを習慣化したくて。
それにシナリオ・センターにはライターズバンクがあるので、たとえデビューできなくてもセミプロ的に仕事ができるかもと思いました。
シナリオ作家養成講座は、これまで創作仲間がいなかったから、とても新鮮で楽しかったですね。2日に1本は短編小説を書いて、週に1度、出来のいい作品を講座仲間に読んでもらって、感想を聞いていました。それがモチベーションになり、その時期に400字10枚~30枚くらいの短編が20本くらい書けました。当時は仕事が終わってから朝まで書いていましたね。
研修科ゼミの仲間は今でも仲良くしています。今回の受賞も祝福してくれて、『嫉妬探偵の蛇谷さん』も買ってくれて、とても嬉しかったです。
――小説を書くために、小説家になるために、何かご自身に課してきたことはありますか?それは小説家や脚本家になりたい方へのメッセージにもなるかと思いますので是非教えてください。
〇野中さん:気分が乗っても乗らなくても、毎日1000字は書くと決めていました。ダラダラ書いても仕方ないので、必ずタイマーをセットしてとにかく書きました。それを15分~30分やると疲れるので1回休むんですが、これを続けると3カ月で9万字になって、長編1冊分になるので続けていました。
本格的に書こうと決めてからは、仕事は午後からに変えて、朝起きたらコールドシャワーを浴びてコーヒーを飲み、オーディブルで小説を聴きながら散歩。10時頃に帰ってきたら書く、というのをルーティーンにしてきました。ゲン担ぎもあって、腕が鈍らないよう2年間ガッツリやってました。
でも、こういうことができたのは、シナリオ・センターで「書くこと」を習慣化できたから、そういう“蓄積”があったから、だと思います。
僕は作家・鈴木輝一郎さんの「1万枚書いたら誰でもプロ作家になれる」という記事を読んで、「1万枚書いてダメなら諦めていい。でも、それまでは何も考えずひたすら書く!」と決めていました。そういう“マイルストーン”があると、気持ち的にちょっとラクかな、と思います。
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