小説家であり、脚本家でもある大山淳子さん。
2006年、シナリオ『三日月夜話』で第32回城戸賞入選(2019年に『牛姫の嫁入り』として書籍化)。2008年、シナリオ『通夜女』で函館港イルミナシオン映画祭 第12回シナリオ大賞 大賞受賞(2022年に書籍化)。
そして、2011年。『猫弁~死体の身代金~』でTBS・講談社 第3回ドラマ原作大賞 大賞を受賞。受賞に伴い、『猫弁 天才百瀬とやっかいな依頼人たち』として書籍化。2012年にはテレビドラマ化され、脚本もご担当。
小説『猫弁』は人気シリーズとなり、
・第1シーズン
①『猫弁 天才百瀬とやっかいな依頼人たち』
②『猫弁と透明人間』
③『猫弁と指輪物語』
④『猫弁と少女探偵』
⑤『猫弁と魔女裁判』
・第2シーズン
⑥『猫弁と星の王子』
⑦『猫弁と鉄の女』
⑧『猫弁と幽霊屋敷』
⑨『猫弁と狼少女』
⑩『猫弁と奇跡の子』
の計10巻、累計53万部を突破。
2024年11月に刊行された10巻目の『猫弁と奇跡の子』で第2シーズンが完結となりました。
小説家として大活躍中の大山さん。でも小説だけではありません。
2024年9月に放送した『Shrink~精神科医ヨワイ~』(全3回)の脚色をご担当。
そこで今回は、『猫弁』シリーズと『Shrink~精神科医ヨワイ~』について伺いました。
「小説もシナリオも“人の心を揺さぶる”という目的は一緒」という大山さんのお話は、小説を書きたい方も、シナリオを書きたい方も、両方書いてみたい方も、大変勉強になると思います。是非参考にしてください。
『猫弁』シリーズについて
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=あらすじ==
お見合い30連敗。冴えない容貌。でも天才。婚活中の弁護士・百瀬太郎は猫いっぱいの事務所で人と猫の幸せを考えている。そんな百瀬のもとには「霊柩車が盗まれたので取り戻してほしい」「ぼくはタイハクオウムが心配で、昼も眠れません」などなど、様々な難題が舞い込む。笑いあり涙ありのハートフル・ミステリー。
〇大山さん:実は、シナリオ・センターの研修科の課題「弁護士」で書いた20枚シナリオが『猫弁』なんです。それを長編小説にして「TBS・講談社 第3回ドラマ原作大賞」に応募し、受賞がキッカケで小説家デビューとなりました。ドラマ化にあたっては、脚本も担当させていただき、夢のようでした。
『猫弁』はミステリー小説ではありますが、ミステリ―を書いているという意識はないんです。
昔、ラジオドラマのコンクールで、『届けてレッドマン』というシナリオを描いたことがあって。
主人公は鄙びた田舎町の円形型ポスト。実はこのポストは区画整理と破損のため、廃止することになり、張り紙がされていたのですが、風のいたずらで、張り紙が取れてしまう。このことを知らない少女は、大切な手紙を毎週投函しに来てしまう。何とか手紙を届けたいと、ポストは一念発起して……という物語。
ある選考委員の方が講評で「すべてのよい読み物は、推理小説の形態をしている」と。ミステリ―と謳っていなくても、恋愛やファンタジー作品だとしても、よい読み物には謎があって、次が知りたくなる要素がある。その選考委員の方は、私の作品にはそれがある、と仰ってくださいました。
人には好奇心があるので、謎があるとやっぱり読みたくなるものですよね。
それと、物語の構造として、最初に長々と説明してしまうと、読んでいる側も退屈じゃないですか。だから、とにかく説明は最低限にして、展開させていく。種明かしは少しずつやると、読むほうは頭に入りやすい。そういう、読者を疲れさせない、退屈させないサービス精神は、人一倍あると思っています。
10作目の『猫弁と奇跡の子』は「書き切ったな」という想いがあります。執筆しているときから、もうこれで終わるんだ、出し切るんだ、みたいな気持ちでいました。編集者の方に「第3シーズンもあるかもしれませんね」と言われるんですが、今の心境としては、これ以上のものは書けそうにないなって。それぐらい自分の中では最高のものが書けたと思っています。だから、これから先の百瀬の人生は、読者の方に自由に想像してもらえたらなって。
漫画『Shrink~精神科医ヨワイ~』を脚色して
=あらすじ==
新宿の片隅で小さな精神科クリニックを開業した医師・弱井幸之助。精神科で働くのは初めての看護師・雨宮有里とともに、きめ細かな診療をしている。ある日、弱井は近くの駅のホームで胸を押さえて倒れこんでいる女性を助ける。それがきっかけで弱井のクリニックで受診することになった女性は雪村葵という会社員。夫の浮気が原因で離婚し、今はシングルマザーとして子育てと仕事に多忙な日を送っていた――
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〇大山さん:「『Shrink~精神科医ヨワイ~』(七海仁さん原作/月子さん漫画)のシナリオを書いてみませんか」とお声掛けいただき、企画書をいただいたのですが、それがとても良かったんです。志が美しかった。
それと、私は若い頃に精神科に通っていたことがあるので、こういうドラマがあったら救われる、と魅力を感じました。今は精神科に通っていないし、薬も飲んでいないのですが、誰しも人生の辛いときってあるじゃないですか。だから、そういう方たちのお役に立てたらいいなと思いました。
原作のある作品ですが、放送するからにはお医者様の話をちゃんと聴きましょう、ということで、入念に取材を行いました。作品で扱った症例は3つあるのですが、症例ごとに監修の先生も違って、それぞれの専門分野のお医者様にご協力いただきながら、執筆を進めました。順天堂大学病院 教授の方など、最先端医療の知識を有している方々に助けていただきました。
久しぶりにシナリオを書いたんですけど、やっぱり楽しい。私はシナリオの形式が好きみたいです。
小説もシナリオも、「人の心を揺さぶる」っていう目的は一緒ですが、形式が違いますよね。小説は文章のタッチというか、表現の細かな違いで良くなる・ならないっていう側面があります。読み心地だけで読ませることもできる反面、奇抜な事件をもってきても文章に魅力がないとつまらない。
でも、シナリオはそうじゃない。「次はこういう展開にするんだ」と思ったら、パッと実行できる。スピード感が全然違う。そもそも文章量は、小説のほうが断然多いですからね。競技でいえば、マラソンと短距離走ぐらい違います。思いついたアイデアを即試せるという点で、シナリオは楽しいです。
シナリオ・センターでの思い出
〇大山さん:私は、シナリオ・センターのシナリオ作家養成講座で基礎を学び、そこから研修科、作家集団と進みました。ここに通っていた5年間はとにかく楽しかった。創作における青春時代というか。いつも帰りの電車の中で、次回の作品を頭の中で練っていました。早く来週行きたい、早く発表したいって。
シナリオ・センターは、生徒の皆さんのいいところを見つけて、伸ばしてくれる場所です。ご自身の個性と向き合って、自分らしいやり方で作品にアプローチしてみてください。あなたにしか書けない作品がきっとあるはずです。
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なお、『シナリオ教室』(2025年1月号)には大山さんのインタビューを掲載。
併せてご覧ください。
https://www.scenario.co.jp/online/34802/
※シナリオ・センター出身の脚本家・監督・小説家の方々にいただいたコメントも是非。
▼脚本や小説を書くとは/シナリオの技術を活かして
- シナリオは、だれでもうまくなれます
「基礎さえしっかりしていれば、いま書いているライターぐらいには到達することは可能です」と、新井一は言っています。
“最初の一歩”として、各講座に向けた体験ワークショップもオススメです。※シナリオ作家養成講座とシナリオ8週間講座は、オンライン受講も可能です。
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