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映画『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』『ANORA アノーラ』
シナリオを楽しむ 見どころ・感想

映画から学べること

脚本家でもあり小説家でもあるシナリオ・センターの柏田道夫講師が、公開されている最新映画や、DVDで観られる名作や話題作について、いわゆる感想レビューではなく、作劇法のポイントに焦点を当てて語ります。脚本家・演出家などクリエーター志望者だけでなく、「映画が好きで、シナリオにも興味がある」というかたも、大いに参考にしてください。映画から学べることがこんなにあるんだと実感していただけると思います。そして、普通にただ観るよりも、勉強になってかつ何倍も面白く観れますよ。

-柏田道夫の「映画のここを見ろ!」その95-
『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』青春サクセスストーリーに欠かせない要素

ミュージック界の革命児ボブ・ディランの青春期を描いた話題作『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』(以下『名もなき者』)を取り上げます。

アカデミー賞では、作品賞など8部門ノミネートされていますが、ディランを演じたティモシー・シャラメの主演男優賞は大本命ではないかと思います。

脚本・監督は、『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』(本作にも登場するジョニー・キャッシュの伝記映画)や『17歳のカルテ』などのジェームズ・マンゴールド。共同脚本は『ギャング・オブ・ニューヨーク』『沈黙-サイレンス-』のジェイ・コックス。

ボブ・ディランは、2016年にノーベル文学賞を受賞するなど、唯一無二のミュージシャンですが、若い人たちにとっては、遠い過去の人かもしれませんね。

私らの世代には、ビートルズと同じくらいに、それまでの音楽自体を変えたビッグネームで、初日の映画館の客層はまさに同世代ばかりでした。

流れるディランの(ならびにその時代に活躍していた歌手たちのも)楽曲に、懐かしく浸ることのできる贅沢な映画時間でした。それを味わってほしいというのは、押しつけかもしれません。

それはともあれ、今回の「ここを見ろ!」は、青春(サクセスストーリー)を描く際に押さえておいてほしいポイント、要素ですので、ノスタルジー以外でも大いに参考になるかと思います。

このコラムでは、いわゆる「青春物」はあまり取り上げていなかったようです。第25回で『ブックスマート 卒業前夜のパーティデビュー』では、青春の一時期の切り取り方について。第42回の『サマーフィルムにのって』は、主人公たちが青春期に作ろうとする劇中映画の入れ方について述べていました。

『ブックスマート』は、卒業の一時期を描いています。『名もなき者』は、1961年、まさに無名のディランが、ギターを片手にニューヨークにやって来るところから始まり、たちまちスターとなるものの、フォークからロックへの新たなステージに踏み出す65年までの5年間、20歳から25歳まで。

まず青春物としてどこを切り取るかですが、主人公の青春の時代をしっかりと描く(60年代の公民権運動やキューバ危機、ジョン・F・ケネディ暗殺など)。さらにディランが出会って、影響を受け(ある意味、吸収、踏み台とした)同時代のミュージシャンたち。ウディ・ガスリー(スクート・マクネイリー)、ピート・シーガー(エドワード・ノートン)、ジョーン・バエズ(モニカ・バルバロ)ら。そして最初の恋人シルヴィ・ルッソ(エル・ファニング)も。

そうした人物たちとの「出会い」と「別れ」。そう、これはもちろん、青春物に限らないのですが、主人公が物語の中で、誰とどのように出会うか?

そこからその人物との愛や葛藤、対立を経て、主人公は成長していく。そして「出会い」があれば「別れ」がやってくる。

特に人生の方向が決まってくるような青春期は、この「出会い」と「別れ」を作ることで、物語性が際立ちます。構成のターニングポイントとしてのそれらの場面がどのように配置されているかを見てほしい。

さて、本作は「青春サクセスストーリー」と述べました。実際に天賦の音楽的才能を秘めていたディランですから、サクセスは当たり前とも言えます。ただ、それをことさら強調する描き方をしていません。

例えばボクシング映画の『ロッキー』は、典型的なサクセスストーリーです。まったくダメだった4回戦ボーイがチャンピオンを目指す、ある意味夢物語でしたので、困難に立ち向かい奮闘する過程を重ねて、達成しようとするクライマックスとなっていました。アンチに対する真実という構造です。

その代わりに『名もなき者』に散りばめられているのは、サクセスを得るために主人公が負ってしまう「痛み」や「悲しみ」「孤独」です。

青春物を感動的に作る秘訣がここにあります。青春期はまだ人間として未熟、発展途上だったりします。それゆえに、自らが痛みを抱えたり、誰かを傷つけてしまったりする。

青春物も当たり前ですが、描くのは「人物の成長(変化)」です。未熟だったり欠点だらけの主人公が、何かを達成しようとする。ただ単に、頑張る姿を描けばいいわけではない。

特に青春物は「痛み」や、それゆえに醸し出される「せつなさ」がスパイスのように加えられると、いっそう輝く作品とすることができる。軽い青春サクセスストーリーではない本作から、そうした要素を見てほしい。

▼YouTube
サーチライト・ピクチャーズ
『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』予告映像

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-柏田道夫の「映画のここを見ろ!」その96-
『ANORA アノーラ』スクリューボール・コメディを名作とするためには

カンヌ映画祭で最高賞のパルムドール、さらにはアカデミー賞の作品・監督・脚本・編集・主演女優の主要5部門を獲得した話題の『ANORA アノーラ』です。

付け加えると日本ではR-18指定で、それなりに過激なシーンも満載です。そこを承知の上でご覧ください。

でも、唸ってしまうおもしろさ。前回ボブ・ディランの青春期を描いた『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』を取り上げましたが、ここで述べた青春映画に欠かせない要素、痛さだったりせつなさもあり、恋愛(というよりもヒロインの青春・成長)物語としても素晴らしい快作です。

脚本・監督は『タンジェリン』や『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』など、アメリカの底辺で生きる人たちにスポットを当てていたショーン・ベイカー。製作や編集にも名を連ねています。

ニューヨークでストリップダンサーをしているロシア系のアニーことアノーラ(マイキー・マディソン)は、片言のロシア語ができることから、ロシア人青年イヴァン(マーク・エイデルシュテイン)を客とし、たちまち恋仲に。

実はイヴァンは大富豪の御曹司(実はバカ息子)で、恋とSexが高ぶったまま一気に結婚をしてしまう。その報告にイヴァンの両親は激怒、お目付役だったアルメニア人の司祭トロス(カレン・カラグリアン)と、二人の部下イゴール(ユーリー・ボリソフ)とガルニク(ヴァチェ・トヴマシアン)が、二人の仲を裂きに現れて……

いわゆる身分違いの恋、という設定自体は珍しくありません。出会いから恋を経て結婚するものの、たちまち暗礁に乗り上げて、という物語がテンポよく描かれていきます。上映時間140分もまったく長さを感じさせません。

さて、ネットなどを見ると、この映画のジャンルは「ロマンチックコメディ」などと表記されています。その通りなのですが、私はそれよりも、久しぶりの典型的な「スクリューボール・コメディ」だと思いました。

確かに今は、あまりこの呼称は使われていませんし、初めて聞くという人もいそうです。ちょっと検索してみてください。

Wikipediaには「常識にとらわれない登場人物、テンポのよい洒落た会話、つぎつぎに事件が起きる波乱にとんだ物語などを主な特徴とする」と書いてあります。

書かれているように、“常識にとらわれない”登場人物たちの“テンポのよい洒落た会話”さらには“つぎつぎに事件が起きる波乱の展開”をする恋愛物とされていて、『或る夜の出来事』を嚆矢として『ニノチカ』『麗しのサブリナ』といった名作が挙げられています。

ただ、いわゆるスクリューボール・コメディはなくなった、みたいに書かれていますが、その精神なり構造を継いだ恋愛映画は創られ続けていて、例えば『恋人たちの予感』『ノッティングヒルの恋人』『ブリジット・ジョーンズの日記』『ベスト・フレンズ・ウェディング』『(500)日のサマー』などなど。

ただ、本来のスクリューボール・コメディはハッピーエンドで、二人は結ばれて終わるのが定番ですが、けっしてそうならない結末だったりします。

それにしても、「身分違いの恋」だったり、まさに事件に継ぐ事件で突っ走るアニーと仲間たち(?)は、これぞ“スクリューボール”です。

恋愛物というと、どうしてもしっとりとロマンチックで、となりがちですが、そうじゃなく走り廻る恋があってもいい。そういう恋愛物も見たかったのだ、と改めて思わせてくれた映画こそが『ANORA アノーラ』なのです。

で、「ここを見ろ!」は、そうしたスピード展開させるにしても、基本となるのは主人公の造形というところ。セックスワーカーのアニーですが、プライドは失っていませんし、すさまじい毒舌や、自身を抑制しようとする男たちに、まさに身体を張って戦う、抵抗する。この強気を貫くアニーの素晴らしさ。

パンフレットに主演のマイキーのインタビューが載っていました。その中でショーン監督は70年代の映画好きで、マイキーが勧められて見た映画に、日本の『女囚701号/さそり』と挙げられていて、嬉しくなりました。

梶芽衣子さんが演じた さそり こと松島ナミは、虐げられても踏みつけられても、けっしてただでは起きない不屈のヒロインでした。

まさにアニーはそういう女性。だからこそ突っ走るし、それゆえに傷ついてしまう。彼女が愛した男は、その愛を受けとめる度量もないマザコン男だったかもしれませんが、それでも力一杯に愛して、それを貫こうとするアニーの姿ゆえに、感情移入できます。アニーに幸あれと願わずにいられない。

このラストをどう捉えるか? そこは人それぞれでしょう。
ともあれ、このアニーの生き方を貫く脚本の妙を見てください。

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映画会社ビターズ・エンド
特別予告

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