シナリオ・センターの代表・小林幸恵が、出身ライターの活躍や業界動向から感じたことなど、2006年からほぼ毎日更新している日記です。
シナリオ・センター代表の小林です。この日記には、悲しいことはできるだけ書かないようにしようと思っていました。
今日は、とても悲しく残念な訃報です。
出身ライター中園健司さんが、10月6日お亡くなりになりました。享年60歳。
故人の御遺志でご葬儀はお身内の方だけで行われたそうです。
派手なことがお好きではない中園さんらしいお別れだと思いました。
今年の6月末、メールでちょっとお話をしました。
8月に放映予定だった「NHK特集ドラマ 東京が戦場になった日」が3月に延期になってしまったこと、お引越しをされたこと、お引越しの時に雨にぬれて夏風邪を引かれてしまったというお話でした。
放映日が決まったら、こちらはお知らせくださいとお願いしました。
こんなお知らせをいただくとは思いもよりませんでした。
中園さんは、TBS新鋭シナリオ大賞を受賞。大ヒットした「サラリーマン金太郎」シリーズ(TBS)、「ジャッジ」シリーズなどテレビドラマ多数。映画「サラリーマン金太郎」、松本清張生誕百年として映画で「ゼロの焦点」テレビで「顔」(NHK)「霧の旗」(NTV)などを書かれています。
きっちりしたシナリオ構成とシーンづくりに定評のある方でした。そのためにプロデューサーとはよく戦われていたようです。
作品に対して常に情熱を傾けて、ご自分の視点をきちんと持っていらした方です。
ほんものの脚本家をおひとり失いました。
シナリオ・センターで夏期合宿のとき、これからシナリオライターになる人にとって、とても為になるお話をしてくださいました。 抜粋させていただき、追悼とさせていただきます。
「シナリオ・センターに通っていた頃の一番の思い出といえば、やはり20枚シナリオです。わずか20枚で何かを書こうとすれば、ドラマのヘソを書くしかないんですね。ヘソというのはドラマの急所ということですが、それが映画やドラマのど真ん中に来ればクライマックスということになるわけです。映画でもドラマでも、そういうものは大体1コか2コしかない。だから、20枚シナリオがドラマのヘソになっていれば、1時間ドラマにも2時間ドラマにもなるということです。」
「ストーリーは「お話」で、シナリオは「描写」なんですね。例えば向田邦子さんの「あ・うん」というドラマがあります。僕は傑作だと思っていますが、この作品をプロットで読んだら、その面白さが伝わるかというと疑問ですね。
それはやはり、シナリオが優れているのであって、ストーリーではないわけです。
何故こんな話をするかというとストーリーとシナリオは違うということが、最近ちゃんと理解されていないのではないかと思うことが多いからです。」
「新人がプロデューサーに「ああ書け、こう書け」と言われ、その通りに書いていると、大体プロットみたいなシナリオになってしまいます。
シナリオにストーリーは内包されているわけですが、シナリオはストーリーではありません。そのことはちゃんと認識しておく必要があると思いますね。」
「僕がシナリオを書く上で、一番大事にしていることは、自分が生きていた中で実感として感じたことです。
自分が実感でつかんだことしか書けないものです。
原作ものを書くときだってそうです。」
「作品を発表するということは、結構大それたことだと思うんです。
自分なんかたいした経験もない、何も知らないのだという謙虚さを忘れないようにしたいと思っています。
だとすれば、必死で勉強しなければいけないし、知らないことは恥をかいても人に聞く必要があるし、取材にも力を入れなければならない。」
「自分が書いたセリフを役者がしゃべり、自分の書いたシーンがほぼそのまま映像になるというのは、シナリオライターでしか味わえない喜びです。
頑張ってください。」
中園さんの遺志を、先輩の想いを、シナリオライターとして、私たちは受け継いでいきたいと思います。合掌。